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アイドル転校生

——紗月はぼんやりと窓の外を見つめていた。


(……結局、なんやかんやで、また退屈な日常に戻ってしもたなぁ……はぁ……。)


「おーい、先生来たぞー!」


廊下から足音が近づき、扉が静かに開いた。


「はい、みんな席につけー。」


生徒たちはバタバタと席につき、やがて教室内が静まった。


担任の佐伯さえきは教壇の前に立ち、ゆっくりと周囲を見渡す。


「みんな、おはよう。」


「「おはようございます!」」


「さて、夏休みも終わって、今日から新学期やな。」


「……まずは、霊障事件のことや。みんな、大変やったな。」


その言葉に、教室の空気が少し変わる。


「先生も、ずっと心配してた。まさかあんなことが起こるとは思わんかったしな……。」


「……でも、こうして無事に新学期を迎えられたんや。ほんま、よかったと思う。」


生徒たちは、あの夜のことを思い出しているのか、それとも、もう過去のこととして受け流しているのか——。


「……せやけど、一つ残念な知らせがある。」


「橘彩花やけど……霊障の後遺症で、当分の間、学院を休むことになった。」


「えっ、彩花ちゃん、怪我したん?」


「うそ……そんなにひどかったん?」


「そっか……やっぱ、事件の影響が……。」


「もちろん、本人が元気になったら戻ってくる予定や。」


「「……はい。」」


「……本当は、みんな揃って新学期を迎えたかったんやけどな……。」


「ほな、始業式の前に少し話しておこうか。」


佐伯は一度咳払いをして、話を切り替えた。


「——実は、今回の事件を受けて、陰陽師協会が新たな制度を設立することになった。」


教室がざわめく。


「なんやそれ?」


「陰陽師協会が……?」


「みんな知ってると思うが、今回の事件では、京都が大きな被害を受けた。しかし、これから先も霊障の余波で、妖が活発になると考えられている。」


佐伯はゆっくりと説明を続ける。


「そこで、各学年から成績優秀者を2名ずつ選び、研修生として陰陽師協会で訓練を受けることになった。」


「えっ!? 研修生!?」


「つまり、陰陽師協会の見習いってこと!?」


男子生徒たちが一斉に騒ぎ出した。


「おいおい、これってめちゃくちゃすごいチャンスやないか!」


「俺、絶対に参加するわ! これで陰陽師協会入りも夢やない!」


「いやいや、お前の成績じゃ無理やろ!」


「うるせぇ! 俺は本気や!」


「でも、選ばれるのは成績優秀者だけやろ? どうせ俺らには関係ないって。」


興奮する男子生徒たちの声を聞きながら——


(……うちには関係あらへんな。)


机の上に頬杖をつき、窓の外に視線を向ける。


研修生……陰陽師協会……。


そんなもの、成績優秀者とは無縁の自分には関係ない話。


「——あ、それと。」


「今日はもう一つ、大事な話がある。」


生徒たちは何事かと、興味津々で佐伯を見つめる。


「……転校生が来る。」


「え?」


「転校生?」


「陰陽師クラスに転校……?」


ざわめきが広がる。


帝院学院の二年C組は、陰陽師を養成する特殊クラス。普通の生徒が転校してくること自体が異例のことだった。


「みんな、騒ぐなよ。」


「……いいか? 絶対に騒ぐなよ。落ち着いて迎えてやるんやぞ。」


「え、なんでそんなに強調するん?」


「まさか……ヤバい奴なんちゃう?」


「なあ、誰なん!? どんなやつ!?」


クラスの生徒たちがヒソヒソと話し始める。


「……よし、青山!入っていいぞ。」


ガラッ——。


教室の扉が開いた。


そして、そこに現れたのは——


「……!!??」


一瞬、クラス全体が静まり返る。


まるで信じられないものを見たように、誰もが息を呑んで硬直した。


——数秒の沈黙。


そして——


「キャアアアアアアアア!!!ゼファー来たー!!」


「嘘でしょ!? え!? え!? 青山颯!? なんでここに!?」


「きゃあああ!! 颯くん!!? 本物!?」


教室が揺れるほどの絶叫が響き渡った。


女子生徒たちは机をバンバン叩きながら、驚きと興奮で大騒ぎする。


「え、まじで? いやいやいや、ありえへんやろ!」


「陰陽師クラスにアイドル!? 何の冗談や!?」


「えっ……なにこれ夢? 俺、夢見てる?」


男子生徒たちも、まるで現実を受け入れられないような表情で呆然としていた。


——そう、彼は間違いなく、青山颯。


日本トップクラスの人気を誇るアイドルグループ「ゼファー」のリーダーであり、テレビや雑誌で見ない日はないほどの存在。


そんな彼が——


なぜか、陰陽師養成クラスに転校してきた。


「お前ら、落ち着け!!」


佐伯が机をドンと叩く。


「……ええか、学院長の方針でな。今回は “体験留学” という形での編入になる。まぁ、大人の事情ってやつや…。」


「体験留学!? 陰陽師クラスに!?」


「ま、まじか……いや、意味わからん……。」


「ていうか、颯くんって陰陽師やったん!?」


「そんな話、聞いたことない!」


「まさか、表向きはアイドルで、裏では陰陽師!? そんな設定アリ!?」


クラス中が混乱していた。


しかし——


彼は、ある一点に意識が向いていた。


——橘紗月。


彼女がどんな反応をするのか。


その警戒心を隠すことなく、颯は淡々と自己紹介を始めた。


「……青山颯です。しばらくの間、体験留学でお世話になります。……よろしく。」


「きゃああああ!!」


「声がいい……!」


「もう神……。」


女子生徒たちは完全に意識が飛びかけていた。


そんな中——


(……誰やねん…アイドルなんか興味ないわ、どっちにしても、うちには関係あらへん。)


正直、アイドルがどうこうなんて興味もなかった。


「……えー、青山、お前の席やけどな……。」


佐伯が、ちらりと教室を見渡す。


「——あそこが空いてるな。よし、橘の隣に座れ。」


「……はぁ?」


一瞬、空気が凍る。


「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」


クラス中の女子たちが、机をバン! と叩いて立ち上がった。


「なんで!? なんで紗月ちゃんの隣なの!?!?」


「先生! それはおかしいです! もっといい場所があるはずです!」


「せめて公平な抽選を!!」


女子たちから猛抗議の嵐が巻き起こる。


しかし——


「…騒ぐな騒ぐな。席替えはまた後日や。今はとりあえず、そこに座っとけ。」


紗月は隣に座った青山颯に、少しぎこちなく声をかけた。


「……えっと、橘紗月です。よろしく。何かわからんことあったら、聞いてくれてええし……。」


一瞬だけ紗月をちらりと見るが、何も言わずにそのまま鞄を机の上に置いた。


「……。」


(……いやいや、普通初対面の人には挨拶ぐらい返すやろ!? どんだけ愛想ないねん!)


まるで「話しかけんな」と言わんばかりに、淡々と教科書を取り出している。


(アイドルとか関係なく、なんか腹立つわ……。)



———始業式でも、陰陽師協会の研修生制度についての説明があった。


「各学年の成績優秀者を選抜し、実戦経験を積ませる」という発表に、会場はざわめき、生徒たちは興奮を隠せない様子だった。


式が終わり、教室へ戻ると、その話題でクラス中が盛り上がっていた。


「お前、研修生狙うんか?」


「陰陽師協会の内部に入れるとか、めっちゃすごない?」


「いやいや、どうせ選ばれるのは一部の天才やろ……。」


そんな会話が飛び交う中、廊下から次々と人が押し寄せる。


「颯くん、本当にこのクラスなの!?」


「サインもらえるかな!?」


「やばいやばい、生で見るとオーラが違う!!」


よそのクラスの女子たちが、青山颯をひと目見ようと集まってきた。


教室の入り口には既に人だかりができ、騒がしさは増すばかり。


(……なんやこれ、うるさ……。)


紗月はげんなりとしながら、ひとり校舎をあとにした。


(……はぁ。結局、なんも変わらんな。)


スマホを取り出し、ロック画面をスワイプする。


紅子からの一通のメール。


学校終わったら、ここに来て。住所は以下。

すでに宗近さんには伝えてるから、今日の手伝いはなしで大丈夫。


(……相変わらずやな、紅子さん。)


紗月はメールの住所を確認しながら、バス停へと向かう。


バスが到着し、乗り込む。


座席に腰を落ち着けると——


(なぁ、紗月。アイツ、ついて来てるよ……。)


清雅の声が頭に響く。


「……は?」


不審そうに眉をひそめ、横目でさりげなく後部席を見る。


——そこには、明らかに怪しい奴がいた。


帽子を深く被り、サングラスにマスク。


そして、なぜか体を微妙に隠しながら、こちらの様子をチラチラ伺っている。


(……いや、普通に怪しすぎるやろ!?)


しかも、よく見れば、その不審者は見覚えのある制服の裾をチラつかせていた。


——青山颯。


(……はぁ? なんでお前がおんねん。)


バスが停車し、紗月が降りると——


バッ!!


「っ……や、やば……!」


慌てて立ち上がった颯が、バランスを崩しそうになりながらも、ぎりぎりで体勢を立て直す。


(……いや、何してんねん、コイツ…。)


「……ゴホン。」


無理やり平静を装い、何事もなかったかのように後ろをついてくる颯。


「……たまたまやろ。無視しよ……。」


そう自分に言い聞かせ、スマホの地図を見ながら目的地へ向かう。


——しかし。


曲がり角を何度か曲がっても、気配が消えない。


(……まだついてきとる……。)


チラリと横目で見ると——


電柱の陰から、帽子を深く被った怪しい人影が顔を覗かせていた。


(……いやいや、バレとるで!?)


わざと歩くスピードを上げてみる。


——タタタッ!!


(ついてきた!)


急に足を止める。


——キキッ!!


(ピタッと止まった!!)


試しに逆方向へ歩き出す。


——サッ!!


(またついてきた!!)


(……なんやの……清雅みたいやな……?)


(えっ、俺そんなに怪しくないでしょ?)


(…アンタが一番怪しいわ……まぁ、誰にも見えんのが救いやな……。)


目の前に広がるのは——


どう見ても、ただの廃墟ビル。


コンクリートの壁はひび割れ、錆びついた鉄柵が無造作に放置されている。


「……え?」


何度もスマホの住所を確認する。


「……間違いない、ここや……。」


後ろで、ゴソゴソと気配が動いた。


(……まだおる。)


不審者(颯)は電柱の陰に隠れながら、まだこっちを見ていた。


(……はよ帰れや。)


紗月は、無視を決め込んでビルの前に立った———。

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