表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
80/115

幕間 青山颯のステージ

——ライトが交錯し、スポットライトがステージ中央に収束する。


 煌めくステージの中央に立つのは、青山颯あおやまはやて


 アイドルグループ 『ゼファー』のリーダーであり、圧倒的な人気を誇るトップアイドル。


「——シングルブリーズ!」


 颯がマイクを掲げ、曲のタイトルをコールすると、歓声が爆発した。


「響けマイハート、風に乗せて

  届けたいよー君のもとへー

  この想いは止まらない——!」


 颯の歌声がアリーナを満たす。


 ダンスのキレ、表情の作り方、視線の送り方——すべてが完璧。


 軽やかにステップを踏み、観客を煽るように指を差せば、それだけで数万人のファンが熱狂する。


「颯くんー!!」


「最高!!」


「こっち見てー!!!」


 黄色い歓声が飛び交い、客席のペンライトが波のように揺れる。


 ファンの瞳には、颯がまさしく“輝く存在”として映っていた。


 だが——颯自身はどこか冷静だった。


 まるで、完璧に作り込まれた“アイドルの自分”を演じているように。


——ステージは舞台。


——アイドルは演者。


——俺の役割は、ファンに夢を見せること。


 決めポーズでウィンクを飛ばせば、客席から悲鳴にも似た歓声が響く。


 笑顔を作り、軽く息を弾ませる——“ライブを楽しんでいる風”の演技も完璧だ。


——最前列、花道のすぐ近く。


 一人の少女が、頬を紅潮させながら、精一杯手を伸ばしているのが見えた。


(……ああ、でも…やっぱり、アイドルって面白いよな)


 束の間の感傷を振り払い、颯は次のダンスに移る。


 風を切るように華麗なターンを決め、メンバーと視線を交わしながら、クライマックスへ。


「——マイハート! どこまでも!!」


 観客の歓声が最高潮に達した。


 ライトが降り注ぎ、颯のシルエットが浮かび上がる。


 こうして、完璧なパフォーマンスが終わりを迎える——。


 会場の歓声がまだ遠くに残響する中、バックステージではスタッフやメンバーたちが興奮気味に談笑していた。


「お疲れ、颯! 今日のパフォーマンス、マジで完璧だったな!」


「最高の盛り上がりだった! 特にラストのターン、めちゃくちゃキレてたよ!」


 グループメンバーたちが次々と声をかけてくる。


 颯はいつものように爽やかな笑顔で応じながら、軽く拳を合わせた。


「お前らもな。今日のライブ、最高だった。ファンの反応もめちゃくちゃ良かったし、この勢いのまま次のステージも行こうぜ」


 リーダーとして、チームの士気を高めるのも颯の役割だ。


「そうだな! でも、颯はマジで天才すぎるんだよ!」


「そうそう、ファンサのタイミングも完璧だし、MCもキレキレだし……こっちがついていくのに必死だよ!」


「いやいや、お前らも十分やれてるって。俺一人じゃなく、『ゼファー』はチームで作るもんだろ?」


 そう言って、さりげなく肩を叩く。


 些細なことだが、メンバーの緊張を和らげ、雰囲気を良くするのもリーダーの仕事だ。


——パチンッ!


「はい、はい! ちょっとみんな、こっち集合〜!」


 元気な女性の声が響くと、メンバーたちがぱらぱらと集まった。


『ゼファー』のマネージャーである、黒川真里くろかわまりが、クリップボードを持ってチームに向き合う。


「今日のライブ、お疲れさまでした! 最高のパフォーマンスだったわ! でも、気を抜かないでよ? 来週のイベントも控えてるし、新曲のプロモーションも始まるからね!」


「了解っす、真里さん!」


「次のライブも、この勢いでいきましょう!」


「いい返事ね。颯、アンタは特にメディア対応が多いから、インタビューのスケジュールも確認しといてよ?」


「……ああ、分かってる」


 しかし、その表情はどこか上の空だった。


(……異能管理庁から通知、か)


 ポケットに入れたスマホが、未読の通知を示している。


 画面を確認するわけにはいかないが、その内容は分かっていた。


——“召集”。


(……やっぱり、京都の関連か……?)


 ファンの前では完璧なアイドル。


 メンバーの前では頼れるリーダー。


 でも、その裏では異能管理庁の若手のエースとして、国家の危機に関わる任務をこなしている。


「颯、聞いてる?」


「ん? ああ、悪い。ちょっと考え事してた」


「珍しいじゃない。アンタがボーッとするなんて」


 マネージャーの黒川真里は軽く眉をひそめながら、クリップボードを叩いた。


「いい? 次のライブも大事だけど、体調管理もちゃんとしてよね? 無理して倒れたら、ファンが悲しむんだから」


「……分かってるよ」


 すると、真里がわずかに声のトーンを落とし、小声で囁く。


「……“召集”の件?」


「やっぱり知ってたか」


「そりゃね。私の仕事は、アンタが表の仕事と裏の仕事を両立できるように調整することなんだから」


 異能管理庁の秘書でもある黒川真里はそう言って、クリップボードの裏から小さな封筒を颯に渡す。


 周囲のスタッフやメンバーに気取られないように、さりげなく——。


「異能管理庁からの正式な召集状よ。これがあるってことは……長期の案件かもね」


「……まあな」


 颯は封筒を受け取り、封を切る。


 中には一連の行動スケジュールが記載されていた。


「スケジュールは調整しておいたから、今後しばらくはリモート対応できる仕事だけにしてるわ。表向きの活動は、最低限ね」


「助かる」


「ライブ関連のスケジュールも最小限に抑えておいたわ。取材やテレビ収録もキャンセルして、ラジオやリモートインタビューに変更済み。だから、その分こっちの仕事はしっかりお願いね?」


「……了解」


(……さて、アイドルの仮面はここまで、か)



 ***


——フードを深く被り、顔を隠しながら。


 一人の青年が、蒸し暑い夜の街を歩いていた。


 まとわりつくような湿気が肌に張り付き、背中にはじっとりと汗が滲む。


(……暑い……最悪だな…)


 額に浮かぶ汗を手の甲で乱暴に拭いながら、颯は視線を周囲に巡らせた。


 目立つ髪色ではないが、それでも国民的アイドルであることに変わりはない。もし写真の一枚でも撮られれば、瞬く間にSNSに拡散されるだろう。


「……ったく、ライブ終わり早々にコレかよ」


 ぼやきながらも、颯は足を止めることなく、蒸し暑い夜の東京を抜け、羽田空港へと向かっていた。


 すでに手配済みの航空チケットを電子端末で確認し、一般客に紛れるように、静かに深夜便のファーストクラスへ乗り込んだ。


——東京から大阪へ、わずか一時間の移動。


(……やれやれ、仕事仕事)


 ため息混じりに、颯はシートに身を預けた。


 関西国際空港に到着したのは、深夜近くだった。


 別便で来ていた、黒川真里と合流し、手配されていた車に乗り込む。


「颯、機内では休めた?」


「おかげさまでな。短いフライトだったけど、少しは仮眠とれた」


「それなら良かったわ。……次の仕事、京都鞍馬山霊障事件に関係してるかも……」


「……へー……やっぱり」


 やがて、車は大阪・中之島の官庁街へと差し掛かった。


 目的地は、一見すると普通の政府庁舎。


 異能管理庁(BPA)本部——


 日本全国の異能者を監視・統制する、この国最大の異能関連機関。


 その立ち位置は、東京の陰陽師協会と双璧をなす存在。


 表向きは「異能者の適正管理機関」だが、その実態は国家のための異能戦力の統制組織。


 陰陽師協会が霊的脅威の排除と伝統の継承を担うならば、BPAは異能の力を徹底的に管理し、国家の利益へと組み込むことを目的とする。


 互いに協力関係を持ちつつも、その理念は相反し、時には緊張関係を生むほどの影響力を持つ組織——。


 颯は、そんな異能管理庁の本部ビルの裏口へと向かっていた。


 ポケットから黒と銀のパスカードを取り出し、無機質な壁に埋め込まれた端末にかざした。


——カチリ。


「認証完了。青山颯、入館を許可します」


 颯は真里とともに、誰にも気づかれぬよう建物の奥へと進む。


(……いつ来ても、ここは嫌なとこだな……)


———『特別異能者収容施設』———


 陰陽師や異能者など、特別な力を持った犯罪者を収監する施設を持つ——『異能管理庁本部』。


 颯は足を止めることなく、受付を通過し、指令室へ向かった——。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ