星読と継承
京都市内———雷鳴が止み、そこはまるで、“切り取られた世界”になったような静けさだった。
そんな中——
「始めちゃおっか♪」
「いつでもどうぞ。」
次の瞬間——
千紘の指が、瞬時に印を結んだ。
「——星は語る。運命は織られる。未来はこの手の内に。」
千紘の背後に、夜空を埋め尽くすような無数の星が浮かび上がる。
「——星詠・千里眼」
星々が瞬く——千紘の瞳に、未来の光が映る。
「……フッ、未来なんて、全部見えちゃったんですけど?」
「へー、星読みを戦闘に組み込んだ術か……蓮華院の奴もよく使ってたなぁ。」
「は? 蓮華院? そんな適当なこと言わないで! これは千紘しかできないし!」
「いや、確かにそいつもやってたよ。まぁ、昔の話だけど…。」
「——嘘つけ! ってか、その余裕ムカつく!!」
「で、次は何すんの? 星読みだけじゃ倒せないよ?」
「ちょーし乗んな! すぐにその余裕、消してやる!!」
「篤信、行って!」
千紘の号令に、平安時代の山伏——祢宜篤信が即座に動く。
「承知。」
篤信は腰に帯びていた巨大な霊刀を横薙ぎに抜き放つ。
——ズバァッ……!!
(これでアイツは右に回り込む……その場所に旋刃を叩き込む!!)
千紘は霊符を投げ放つ。
「——旋刃!」
空間に鋭利な風の刃が生み出される。
——バシュッ!
突然、未来視が揺らぎ、新たな未来が映し出される——
清雅が動かずに結界を張る光景を見た千紘は、即座に先手を打った。
結界の影響を受けない地中へと、瞬時に式神を潜ませる。
未来視通りに、旋刃を見た清雅は右に回り込まず、咄嗟にその場で結界を展開した。
篤信の霊刀が、透明な壁に阻まれ、激しい衝撃波を撒き散らしながら弾かれる。
「ぐっ……!」
千紘の旋刃が清雅の横を通り過ぎ、背後の木々を音もなく切り倒す。
「——よしッ今!!禍縄、来なさいっ!!」
千紘が足をタップし、地面に合図を送る。
次の瞬間——
清雅の足元から、鋭い牙を持つ巨大なミミズのような怪物が地面を突き破って飛び出した。
「よっしゃあー!決まったぁ!!」
「千紘の式神が人形三体だけなんて、誰が言った?」
「なっ……!?」
千紘の未来視が揺らぐ。
「やばい!篤信っ!早く!叩っ切れ!!」
——「うおぉぉぉぉぉ!!」
篤信が霊刀を振り上げ、怒涛の斬撃を繰り出す。
——一閃、二閃、三閃。
篤信は間髪入れずに次々と斬撃を放つが——
清雅は既にいない。
千紘の未来視が揺らぎ、新たな清雅の出現場所を映し出す。
「——なっ……!?あっち! 禍縄っ!!」
次の瞬間——
——ズゴォォォン!!!
別の巨大な禍縄が、アスファルトを突き破りながら駐車場に出現。吹き飛ばされた車が宙を舞い、衝撃波が周囲の建物を軋ませる。
その直後、まるで瞬間移動したかのように清雅が姿を現す。
「——そこかッ!!」
——ドゴォォォン!!!
禍縄が襲いかかる———。
地面が砕け、コンクリート片が四散する。衝撃の余波で建物の壁面が崩れ、窓ガラスが粉々に砕け散る。
しかし——
千紘の未来視が、再び揺らぐ。
映し出されたのは——
「……真後ろ……!?」
千紘は驚愕しながらも、咄嗟に霊符を投げる。
「——旋刃!!!」
目に見えない風の刃が疾走する。
同時に、印を結び、守りの結界を張る。
「これなら——」
(——違うっ!?)
更に変化する未来視。
次の瞬間——
「まずは、奈々って子の分な!」
——バキィィィッッ!!!
千紘の背後で何かが弾けた。
「ぐっ……!!」
——ドゴォォッ!!!
「かはっ……!!」
清雅の蹴りが、千紘の背中にめり込む。
そのまま彼女の身体は宙を舞い——
——ズザァァァァァッ!!!
地面を転がりながら、千紘の視界が回転する。
「なんで……? 未来視が……追いつかなかった……?」
痛みで霞む意識の中、千紘は息を呑んだ。
「なあ、お前さ……星読みと式神に頼りすぎなんだよ?」
「はぁ!? 何言ってんの!? てか、マジでウザいんだけど!?何も知らないくせに!!」
「確かに、俺は星読みのことは知らないよ。でもな——」
「……昔の仲間が言ってたよ。千里眼が見せる未来ってのは、結果じゃなく過程なんだって。」
「は!? だから何!? てか、千紘の星読みは最強なんですけど!?」
「いや、でもさ——」
「もし “過程を変え続ける” ような戦い方をされたらどうなる?」
「……ッ!?」
「術者が対応できない速度で動けば、未来は “変わり続ける”——」
「こんな風にな。」
「——白葉。」
その瞬間——
白葉が 静かに頷き、その体を宙へと舞い上げた。
同時に 千紘の背後の領域と、清雅の立つ場所が繋がる。
「——は? 何これ!? えっ……後ろ!!」
次の瞬間——
清雅が千紘の 真後ろに瞬間移動する。
「……はい。これ、莉乃って子の分な。」
清雅の手が、千紘の腕をがっちりと掴み——
そのまま 勢いよく放り投げた。
——ズザァァァァァッ!!!
千紘の身体が、瓦礫の山へと叩きつけられる。
「ぎゃっ!? い、痛ッッ!!」
千紘は 瓦礫の上で悶えながら、歯を食いしばった。
「はぁっ……!!…その龍、どう考えてもインチキすぎでしょ!? チートじゃん!!」
清雅は歩きながら、懐かしそうに口を開いた。
「そいつはこうも言ってたよ。『あくまで千里眼は術者本人が戦うための補助だ。術者が強ければ最強の組み合わせになる』——ってな。」
千紘が瓦礫の上で痛みに悶えながらも睨みつける。
「それで、高信の奴、儀式部門の長のくせにやたらと身体鍛えてたんだよ。しかも、本気で。」
清雅はふっと天を仰ぎ、懐かしそうに頭を掻いた。
「まぁ、アイツ曰く、『筋肉こそ至高の術。式神も術も筋肉の前には無力』……だそうだ。」
「……やば……なにその脳筋陰陽師……」
千紘はすぐに気を取り直し、口を尖らせる。
「でも、あんただって龍に頼って何もしてないじゃない?! 結局、自分じゃ戦えないじゃん!」
「だったら、強くなれる術、見せてあげるよ。」
「はぁ? そんな術あるわけないじゃん! そんなのあったらみんな使ってるし!」
清雅はニヤリと笑い——ゆっくりと印を結び始める。
「いや、これは俺のオリジナルさ——」
清雅は静かに息を吐き、ゆっくりと指を絡めながら印を結び始める。
「——戦場に刻まれし魂よ。」
「——千の剣が交わり、万の屍が横たわる。」
「——幾度の死を超え、幾度の戦を制し、なお未だ戦い続ける者たちよ。」
その言葉と同時に、清雅の足元に漆黒の波紋が広がっていく。
その波紋の中から——無数の影が浮かび上がる。
「な、なにこれ……っ!?」
「——英雄の刃、亡者の技、歴戦の軌跡をここに……。」
清雅は最後の印を結び、静かに目を閉じる。
「——戦神託・千剣の影。」
———ボゥ……
その瞬間、清雅の背後に、幾千もの戦士たちの影が浮かび上がる。
——無名の剣豪。
——伝説の武者。
——死地を駆け抜けた兵士たち。
「彼らが戦場で見てきたすべての記憶、経験、技術を継承し、再現する術さ。」
千紘の喉が、ゴクリと鳴った。
「……継承……? そんなこと……できるわけ……」
(ヤバい。これ、本当にヤバいやつ……!!!)
彼女の未来視が映し出す——あらゆる選択肢が、一瞬で塗りつぶされる。
「……ど、どういう…こと…」
背筋が凍る。
冷たい汗が頬を伝う。
今まで、どんな強敵にも「勝ち筋」が見えた。
けれど——今回は違う。
「どうする? 試してみるか?」
「っ……!!」
千紘の呼吸が浅くなる。
手が震え、脚がわずかに後ずさる。
(——違う、こんなの、いつもの私じゃない……!!)
強がりの言葉とは裏腹に、千紘の顔は蒼白に染まっていた。
その時——
「——そこまでだ。」
低く渋い声が、場の空気を凍らせた。
「もう勝負はついた。」
千紘は、はっとして声の主を振り向く。
「……ちょ、長官……?」




