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道の先へ

壁に無数のヒビが走り、天井の一部が崩れ落ちる。


(……紗月、みんなを先に避難させよう。)


清雅の声に、紗月は息を整え頷いた。


「先生——うちたちが鬼を止めてる間に、みんなを安全な場所に避難させてください!!」


田辺医師は、わずかに逡巡した後——


「……すまん、頼む。」


「——みんな、地下に避難や!! 急げ!!」


田辺の叫びに応じ、看護師たちは患者たちの肩を支え、地下へ続く階段へと次々に向かう。


「足元に気をつけて!! 早く!!」


「倒れないように、一人ずつ支え合って!」


「急いで! ここはもう危ない!!」


「行くぞ、行くぞ!」


患者たちも焦りながら逃げていく。


だが、田辺医師は振り返り、車椅子をしっかりと握りしめると、真剣な眼差しで紗月を見た。


「——お母さんだけは、絶対に守る!!」


「先生……!」


「ワシが責任持って、地下まで連れて行く!!」


「……お願いします。」


紗月が深く頭を下げると、田辺医師は力強く車椅子を押し、患者たちとともに地下へと消えていった。


残されたのは——


紗月、莉乃、奈々の三人。


そして——鬼。


「グオオオオオオオオオォォォ!!!!!」



その瞬間——


———ドガァァァァァァァン!!!


轟音とともに、天井が爆発した。


瓦礫が降り注ぎ、ロビー全体が激しく揺れる。


「きゃああああ!!」


「な、なんやぁぁぁぁぁぁ!?」


砂埃が舞い上がる中——


そこに颯爽と現れたのは——



「ワンッ!!ハっハっハっ——」



一匹の小さな犬。


フワフワの毛並み、つぶらな瞳、そして何より——天井をぶち破っての派手すぎる登場。


「……えっ?」


一瞬、全員が固まった。


砂埃が晴れると、子犬はヨタヨタと駆け寄ってくる。


「———ワンッ!」


「——キリ…?!な、なんで天井…?」


「ワン!」


天井を破壊しながらも、飛び込んできたキリ。


「ワンッ!!」


「…どこから入ってくんねん!! しかも天井ぶち破って!! 余計に崩れたやないか!!」



———ミシ……ミシミシミシ……!!!



キリの着地の衝撃で、さらにロビーの天井が崩れ始める。



「……あっ、やば……。」



———ドガガガァァァァン!!!



天井の一部が完全に崩れ落ち、それに引きずられるように壁までもが倒れ込む。


「ワ、ワン……?」


ロビーに響く、妙な静寂。


「ク、ク〜ン……。」


天井をぶち破って登場したはいいものの、崩壊をさらに進めてしまったことに気づき、不安げに耳を伏せる。



——しかし、その一瞬の静寂は長くは続かなかった。


「グオオオオオオオオオオッッッ!!!!」


「っ……!!」


ロビーに響き渡る、凄まじい咆哮。


崩れた壁の隙間から——


鬼の影がゆっくりと、這い出してくる。


「…こ、これはあかん…っ!」


倒れた壁の隙間から、鬼の巨大な腕が伸びる。


次々に——


二体目。


三体目。


「っ、まだおる……!!!」


「グギャアアアアアアアアア!!!」


咆哮とともに、鬼がロビーの中へと侵入してくる。


さらに奥の影が蠢く——


(やばい……こんな数、相手にできるんか!?)


「……っ!」


息を呑む紗月の横で、莉乃がすかさず動いた。


「天火よ、我が霊符に宿り、闇を焼き尽くせ——『焔の槍』!!」


霊符を投げると同時に素早く印を結ぶ。


霊符が燃え上がり、紅蓮の槍が生まれる。


「いけッ……!!」


莉乃が指を振ると、槍は空を裂くように鬼へと向かって飛んだ。



——ズドォォォンッ!!



鬼の胸元に突き刺さり、業火が弾ける。


「ギャアアアアアアアアア!!!」


鬼がもがきながら火に包まれるが——


——それでも、止まらない。


「……耐えた!?」


莉乃の目が見開かれる。


燃え上がりながらも、鬼は呻きながら前進を続ける。


さらに、後ろから別の鬼たちが続々と入り込んでくる。


「くっ……!!」


「ロビー、鬼でいっぱいになってまう!!!」


「紗月お姉ちゃん……!!」


「……うちらも避難しよ!!」


紗月は即座に判断する。


地下へ避難するのはもう無理——


ロビーはすでに鬼で埋め尽くされている。


「裏口から出るで!!」


「でも、ロビーを抜けないと……!」


「考えとる暇はない!走るで!!!」


その横で、キリが牙をむき、鬼を睨みつける。


「キリ、いくで!!!」


「ワンッ!!!」


キリは天井をぶち破った時の勢いそのままに——


突進!!


「グオオオオオオオオオオ!!!!」


突進の勢いで、一体の鬼を吹き飛ばす。


鬼の体が壁に叩きつけられ、壁ごと崩れ落ちた。


「ナイスや!!!」



——しかし、それ以上に数が多すぎる。


「手間ぇの、仁義にかけてやらせてもらいやすが、こりゃあ流石に分が悪ぃでさぁ!!」


石松がドスを構え、周囲を取り囲む鬼たちを見回す。


「ワンッ!!」


キリも低く唸りながら鬼に睨みを利かせるが——数が多すぎる。


このままでは全滅しかねない。



「……石松、道を作って。」


「……姉さん、それは無茶ぶりってもんでさぁ!!!」


「無理じゃない。行って。」


「姉さん、無茶言いやがる……!」


「今度、もっといい依代を用意してあげる。」


「——え……?」


石松が目を丸くした。


「もっと大きくて、丈夫で、綿もたっぷり入る、モフモフなやつ。」


「……!!!」


その言葉に、石松のボタンの目がキラリと光る。


「……ほ、本当でさぁ!?姉さん!!!」


「うん、だから行って。」


「……姉さん……!」


石松は静かにドスを抜き——


「手前ぇ、森の石松!この命、渡世の義理にかけて、道を切り開きやす!!!」



——突進!!



「手間ぇの進む先に、道あり!!」


石松が勢いよく鬼の群れへと飛び込む。


「お命、頂戴いたしやす!!!」



———ズバッ!!



石松の小さなドスが鬼の足を切り裂き、怯ませる。


そのまま、一匹、また一匹と斬りつけながら、進路を作っていく。


「手間ぇが道を作りやす!!姉さん、今のうちに!!!」


「ありがとう、石松……!」


「グオオオオオオオオオオッッッ!!!!!」


しかし——


「——ッ!」


鬼の巨大な爪が、石松の体を捕らえた。


「ぐふっ……!」


次の瞬間——


石松の体から、綿がふわりと舞い上がる。


「……へへっ…ちょ、ちょっとばかし……腹から綿が飛び出しやした……!!」


「石松……!!!」


「へっ……手間ぇは、ここまででさぁ……!!!」


体の一部も千切れ、もはや限界——


しかし、石松は最後の力を振り絞り、鬼の足元へドスを突き立てる。


「……最後に……一つだけ言わせてくだせぇ……!!」


「……っ!」


「——渡世の義理にゃ、生き死に関係なし……!!!」


「——手間ぇの仁義……ここに置いていきやす……!!!」


ボロボロになった体を鬼の足元に絡ませ——


「さぁ、姉さん方!!今のうちでさぁ!!!行きやがれぇぇぇぇ!!!!!」


———バチバチッ!!!


最後の力を込め、鬼の膝にドスを突き刺したまま、石松は動かなくなった。


「石松……よくやったで!!!」


「奈々!行くよ!!!」


奈々は、拳をぎゅっと握りしめたまま——


「……うん……!!」


鬼の群れが戸惑うその隙に、紗月たちは裏口へと向かって走り出した。


「ワン!!!」


キリが鬼を弾き飛ばしながら、彼女たちを守るように走る。


「——石松、ありがとう……!!」


奈々が最後に呟いたその時——



「グオオオオオオオオオオ!!!!!」


鬼たちの怒りの咆哮が、病院内にこだまする。


しかし——


石松が作った道を、紗月たちは決して無駄にしなかった。崩れゆく病院の中を駆け抜け、裏口を目指した——。




——裏口を飛び出すと、そこはしっとりとした静けさが漂う日本庭園だった。


「……ここ、病院の中庭やん……。」


夜の闇に包まれた庭園には、手入れの行き届いた植木や、敷石が整然と並んでいる。


しかし、その先にある駐車場——


「……っ!!」


莉乃が息を呑んだ。


「鬼……あんなに……!!」


駐車場のあちこちに、鬼がのそのそと徘徊している。


「……どうしよ?」


奈々が小さな声で問いかける。


「……とにかく、見つからんように外に出るしかない。」


紗月は周囲を見渡し、慎重に障害物の影へと身を潜めた。


静かに息をひそめながら、鬼の視線を避けるように移動する。


しかし——


「……っ!」


背後の病院から、また新たな鬼たちがぞろぞろと出てきた。


「……え、やばない?」


「……こっちにも来る……!!」


駐車場だけではない。紗月が出てきた病院の裏口からも続々と鬼が出現し、気がつけば——


「……周り、鬼だらけや……!!!」


完全に包囲されていた。


「ど、どうするの……!?」


莉乃が焦った声を上げる。


(ヤバい……ほんまに詰んだ……!?)


鬼たちの重い足音が、じわじわと迫ってくる。


「……っく……!」


息を潜めて耐えるが、すぐ近くまで鬼の気配を感じる。


もう、時間の問題——


その時だった。


(紗月。)


「……え?」


突然、頭の中に清雅の声が響いた。


(あるじゃん。)


「……は?」


あまりに唐突すぎて、紗月は思わず呆けた声を出してしまう。


「何が?」


(これこれ。)


「……?」


思わず、その方向を見ると——


目の前に、苔むした古びた石の縁が見えた。


「……え、これって……」


(そう、それ。)


よく見れば、周囲に雑草が生い茂り、ひっそりと佇んでいる。


「……井戸、それがどないしたん…?」


莉乃と奈々も驚いたように紗月の指差す先を見つめる。


「こんなとこに、井戸……?」


「なんで病院の中庭に……?」


(いやいや、紗月、もう忘れたの…?)


清雅が呆れたように言う。


(今大事なのは、これを使うことじゃん?)


「……あっ、井雷…!!」


(さぁ、紗月。呼びなよ——雷神を。)


紗月は清雅の言葉を聞き、ギュッと拳を握る。


「……よし。」


井戸を見つめ、決意の眼差しを向けた。


「いくで……!!!」


鬼たちに包囲された状況の中——


紗月は、八百万の神を呼ぶべく、井戸の縁に手をかけた。

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