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レッツ霊障ナイト

「おせぇーぞ!!龍二、早よ走らんかい!もたもた歩いとったら置いてくで!」


「は、は…はいィィ!!」


結城ゆうき 龍二りゅうじは息を切らしながら大きな荷物を抱え、必死に駆け出した。汗で額のメガネがずれ落ちそうになりながらも、足を止めるわけにはいかない。


彼は東京の下町にある小さな修理工場の家庭で育った。幼い頃から分解癖があり、家の電子機器や父親の工具を勝手にいじっては壊し、そのたびに怒鳴られていた。だが、それも彼の技術力を磨く糧になった。


大学で電子工学を専攻した龍二は、卒業後、大手技術会社に就職。しかし、そこで彼が夢中になっていた「陰陽師の術式を科学的に解明する」という独自研究は、上司にはまったく理解されなかった。


「結城君、うちの会社はそんなオカルト研究をする場所じゃないよ。」


「で、でも、成功すれば…みんな陰陽術を使えるようになります!」


「うーん、うちは必要ないかな…そういったオモチャみたいのは…。ごめんね。」


そう冷たく言い放たれ、肩を叩かれたあの日、龍二は意を決して退職。その後、彼の奇抜な発想と技術力に目をつけた京都府警の霊障対策課にスカウトされ、晴れて特殊機関のエンジニアとなった。


「ちょ、待ってくださいよ班長!この装置、試作機ですから慎重に使わな――」


「慎重もなにもあるかい!ええから早よ持ってけ!妖が逃げたら責任取らせるで!」


「そ、そんなぁ~!」


怒鳴られつつも、龍二は自慢の試作装置を抱え、汗を滴らせながら現場へと走る。


京都の真夏の夜空に響く騒がしい足音は、彼が「普通の技術者」とは一味違う人生を歩んでいることを物語っていた———。


屋上に到着した大村、志穂、龍二の三人は、京都駅ビル屋上の広場で繰り広げられている異様な光景に立ち尽くした。


賀茂千紘と式神の祢宜篤信ねぎ あつのぶ鬼一法眼きいち ほうげんが、妖の般若と鵺と激突している。まるで映画のワンシーンのような戦闘に、広場は火花や霊気の奔流で埋め尽くされていた。


志穂が肩越しに大村を見ながら、冷めた声で呟く。


「えーと……班長、帰りましょうか。これ、うちらの出る幕じゃないですよね?」


「馬鹿野郎!帰れるかい!奴らは絶対に捕まえるぞ!」


「はぁ、また班長の無茶なやつですか……」


「龍二!例のもん、出せ!今すぐや!」


「は、はいっ!班長!」


龍二は元気よく応じると、仰々しい動作で背中の大きなケースを下ろし、中から複雑な装置を取り出し始めた。


「えーっと、これをこうして……それからここを接続して……そして、えーこうしてこう。よし、完成!」


彼が組み立てたのは、一見して機械とは思えない奇妙な形状をしたデバイスだった。無駄に輝くLEDランプや不必要に動きそうなアームがいくつも付いている。


「ねぇ、龍二。それ、何?」


「ふっふっふ……いい質問ですね、志穂さん!」


龍二は得意げに鼻を鳴らした。


「これは『霊障封印捕縛装置・試作型MK-II』!妖の霊気を感知し、そのエネルギー波を逆利用して捕縛する最新鋭のマシンです!要するに、妖を無力化してその場に縛りつけることができるんですよ!」


「ふーん……で、そいつで本当にあの妖たちを捕まえられんの?」


「もちろんです!この装置は僕が……いや、人類が開発した究極のテクノロジーの結晶なんですよ!」


「ほーん……で、成功率は?」


「……えーっと、前回の実験では5%くらい……?」


「はぁ?!」


「ええから早よ使えぇ!今の状況見てみぃ!妖が暴れまわっとんねんぞ!」


「は、はいっ!では起動します!」


龍二が装置のスイッチを入れると、「ウィーン」という無駄に派手な音が鳴り響き、装置が振動し始めた。次の瞬間――



———「バチバチバチッ!」———



謎のエネルギーが放射され、装置は突然煙を吹き出し、ガタガタと異音を立てた。


「えっ、ちょ、待って!?まだ調整が――」



——「ギャアアアアア———ァ!!」——



龍二の叫びとともに装置は放電しながら停止。煙が立ち上る中、彼は全身煤で真っ黒になりながら言った。


「こ、これも予想の範囲内です……。」


「範囲内じゃねえわ!!!」


志穂が叫ぶ中、大村は頭を抱えながら怒鳴った。


「もうええ!お前ら、全員そのまま妖捕まえに行け!抱きついてでもええからやったれ!」


「えぇぇぇ……無茶ぶりすぎる……」


龍二は涙目になりながらも、勇気を振り絞り、賀茂千紘たちの近くに恐る恐る歩いていった。般若と鵺の攻撃を華麗にかわす千紘の姿に、龍二の心は興奮で爆発しそうだった。


(す、すごい……これが本物の陰陽師……!僕の憧れの世界が、目の前に……!)


千紘が手にした霊符を鮮やかに操り、次々と術式を展開するたび、龍二の目には星が輝いているかのようだった。


(こ、これは解析しなければ……!いや、解析するべきだ!どんな術式を使っているのか、データを取らなきゃ!)


彼は震える手で腰に下げていた小型の装置を取り出した。それは彼が開発した最新鋭の術式解析機――術式スキャナー「アークリーダー」だった。無駄にメカメカしい見た目と、青白く光るモニターが特徴的である。


「ふっふっふ……これさえあれば、陰陽術の秘密を解き明かすことができる……!」


龍二は興奮を抑えきれず、スキャナーの起動スイッチを押した。


———「ピピピ……」———


小さな音を立てながらスキャナーが作動し、千紘の術式に向けて薄い光のラインが伸びていく。


(よし、データ取得中……これで術式の構造を解析して……)


しかし、次の瞬間。


———「ピポパポーン♪」———


軽快な音と共に、スキャナーの画面が突然切り替わった。


「……解析中……解析中……おすすめのラーメン店を検索しています。」


「えっ!?ちょっ、何それ!?なんでラーメン店!?」


龍二は慌ててボタンを連打するが、スキャナーの画面には次々とラーメンの画像が表示されていく。


「京都駅近くのおすすめラーメン店はこちらです!ランキング1位――『鶏白湯らーめん 雅』!」


「違ぅぅぅ?!そうじゃない!僕は術式を解析したいだけなのにぃぃぃ!」


焦る龍二の様子を横目に、戦いの真っ最中だった千紘が一瞬だけ足を止め、チラリと彼の方を見た。


「……何それ、ウケるんだけど。アンタ、ラーメン食べに来たの?」


「ち、違います!これは僕のアークリーダーで、術式を――」


「いやいや、そんなのどうでもいいから。てか、今戦闘中なんだけど?」


龍二は真っ赤な顔でスキャナーの画面を隠そうとするが、スキャナーはお構いなしにしゃべり続ける。


「本日のおすすめ!ランチタイムには煮卵トッピングが無料!」


「煮卵ぉぉ!?違うぅ!術式を解析するんだってばぁぁぁぁ!」


千紘は軽くため息を吐き、呆れた声で言った。


「ねぇ、マジで邪魔しないでくんない?ラーメン食べたいなら勝手に行ってきてよ。」


「ち、違うんです!僕は……僕は陰陽術を科学的に解明して……!」


千紘は話を聞く気配もなく、再び戦闘に戻っていった。その横で、龍二は涙目でスキャナーの電源を切ろうと必死になっていた。


「くっ……なんでこうなるんだよ……ラーメンなんか今食べたくないのに……!」


「いや、でもラーメン食べたくなってきたよね……班長、帰りに寄ります?」


「お前ら、何やっとんねん!さっさと行かんかい!!」


「さっさと行けるラーメン店を再検索中――」


「えっ、えっ……い、いや、違う、その……術の解析を……」


焦って操作する龍二の手元からスキャナーが滑り落ち、地面に落下。


「あっ……」


拾おうとした拍子にバランスを崩し、龍二は前のめりに転倒しスキャナーを踏み潰し粉砕。


「ぐああああっ!!……僕の……僕のアークリーダーがぁ……」





「くっ……もう無理だ!コイツは諦める。」


「おい、般若!まだ戦えるぞ!」


「ここは引く。出直して違う生娘を探す!」


般若は冷たい口調で言い放ち、夜闇にその姿を完全に溶かしていった。鵺も後に続き、風のような速さで闇の中に消え去る。


「逃げる気!?ふざけんな!」


千紘が般若たちの動きを見て苛立たしげに叫び、式神たちに指示を飛ばす。


「祢宜!鬼一!追いなさい!」


式神たちは即座に地を蹴り、般若と鵺の後を追う。その後ろ姿を見送りながら、千紘はため息をつき、ポーチからスマホを取り出した。


「はぁ……めんどくさいけど、ここは私も行くしかないっしょ。」


そう呟くと、千紘は軽やかに地を蹴り、一瞬で闇の中へと姿を消した。


夜の空気が静寂を取り戻す中、霊障対策課の三人だけがぽつんと屋上に取り残される。


「……え?何これ、置いてかれた感じ?」


「ちょ、ちょっと待って!逃げた妖も、あの陰陽師もどこ行ったんすか!?」


「何しとんねん、お前ら……!ほんま、無駄足やないかい!!」


「班長、あれだけ意気込んで『根こそぎパクる』って言ってたのに、結局誰も捕まえてないじゃないですか。」


「うるさい!しゃーないやろ!相手が化け物やねんから!」


三人が重い足取りで屋上を後にしようとしたその時、志穂のスマホがけたたましく鳴り響いた。


「またぁ?!今晩はいったいどうなってんの…?」


志穂は面倒くさそうにスマホを取り出し、画面を確認する。


「どうしたんや、志穂?」


後ろを振り返る大村が声をかけると、志穂はため息をつきながら報告を始めた。


「はい、班長。また通報です。今度は……七星会の橘家の屋敷で、戦闘のような音と光が確認されてるって。」


その瞬間、大村の目がギラリと光り、表情が一気に活気づいた。


「なにィー、橘の屋敷だとッ!?……フッフッフッ……これはええ!橘家を潰す絶好のチャンスやないか!!」


「えぇ……班長、橘家潰すって、警察が言うセリフじゃないでしょ。しかも、あっちは京都でも名門の陰陽師家ですよ?」


「名門やから何や!怪しいことばっかりしとるんや、あの連中は!今こそ法の力で成敗する時が来たんや!!」


大村は拳を握りしめて意気込むが、その後ろで龍二が不安そうに口を挟む。


「あ、あのぉ……橘家って陰陽師の中でもトップクラスの術者が揃ってるって噂ですけど、本当に大丈夫なんですか……?」


「大丈夫かどうかなんて関係ない!突撃あるのみや!!」


大村が力強く宣言し、車へと駆け戻ろうとする。


「で、結局また何もできずに帰ってくるオチじゃないの?」


その言葉を無視するかのように、大村は車の運転席に飛び乗り、キーを回した。


「おい、志穂!龍二!早よ乗れ!!橘家に向かうでぇ!!サイレン全開でいくぞ!」


志穂はため息を吐きながら助手席に座り、龍二は後部座席で機材を慌てて整理し始めた。


「橘家かぁ……すごい人たちがいっぱいいるんだろうなぁ……でも、もしかしたらサインとかもらえるかも……?」


「いやいや、そんな状況じゃないから。」


車はサイレンをけたたましく鳴らしながら、京都の夜の街を橘家へ向かって突き進んでいった。

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