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白鴉と黒炎

「清雅様、この白龍こと、白葉しらは、お呼びにより参上いたしました。」


白銀の鱗を光らせる壮麗な龍が、静かに姿を現した。


その巨大な体は紗月を中心に守護するようにとぐろを巻き、その眼差しは、空気を震わせるほどの威厳に満ちていた。


「うん。久しぶりだね、白葉。元気だった?」


清雅が飄々とした口調で問いかけると、白葉は静かに首を下げ、落ち着いた声で応じた。


「はい。おかげさまで、清雅様もまったくお変わりなく元気そうで安心いたしました。」


「いやいや、見た目もまったく違うでしょ?しかも千年経ってるんだよ。とっくに死んでるよ。」


「そうですか。して、ご用はなんでしょうか?」


「……いま、サラッと流したよね。俺にまったく興味ないよね。」


「ハッハッハッ。」


白葉は威厳ある低い声で笑いながら、少しも悪びれる様子を見せない。


「笑って誤魔化してるよ?コイツ……。」


その瞬間、白葉の声色が一変し、清雅の名を呼んだ。


「清雅様!」


「な、なんだ、急に。」


「ご用はなんでしょうか?」


「……も、もしかして呼んだの怒ってる?」


清雅が少し不安そうに尋ねると、白葉は長い首を微妙に傾けながら静かに答えた。


「いえ、ただ、もう白葉は用無しかと思っておりましたので。」


「……プッ、拗ねてただけか……。」


清雅はその答えに思わず吹き出しそうになり、口元を手で押さえる。


「帰りますよ……。」


白葉は何事もなかったかのように淡々とした声で言い、巨大な体をゆっくりと回転させ、去ろうとする素振りを見せた。


「お、おい!待て待て待て!!」


「清雅様のご指示がないのであれば、私がここに留まる理由はございません。」


「いやいやいや、まだ頼みたいことがあるから、帰るなよ!」


「……清雅様のご命令とあらば、致し方ありません。」


「本当にめんどくさいやつだな……。」


白葉はあくまで冷静を装いつつ、再び清雅の方へ向き直った。


しかし、その仕草にはどこか「素直じゃない」雰囲気が漂っている。


「白葉、命令する。この敷地に散らばって倒れてる宗助の子孫たちを助けろ。こちらの戦闘の影響を受けないように守ってやってくれ。」


「御意。」


次の瞬間、白葉の巨大な体がゆっくりと地面へと沈み込み、まるで水面に潜るように純白の鱗が消えていった。


——チャポン——


地面の中に完全に姿を隠した白葉は、まるで水中を優雅に泳ぐ魚のように地中を進んでいく。


敷地内を自在に駆け巡り、あたかも地そのものを自らの領域として支配しているかのようだった。


清雅はその光景を確認し、満足げに頷くと、次に自らの指を組み合わせて印を結び始めた。


地面には足先で簡単な模様を描き、詠唱を始める。


「天と地を繋ぎ、闇を纏う羽よ。無声の夜を裂き、姿なき影となれ。汝、ただ主の意に従い、我が声に応えよ――黒霞くろがすみ。」


詠唱が終わると、地面の模様から実体のない黒い霧のようなからすが静かに現れた。


鴉は静かに紗月の肩に止まる。それはまるで霧が固まったような姿をしており、その目はどこまでも深い闇をたたえている。


「黒霞も久しぶりだね。元気だった?」


黒霞は無言のまま、コクコクと小さく頷いて答えた。


「そうか、良かった。」


清雅は黒霞の様子を確認すると、静かに指をさして命じた。


「黒霞、命令する。あそこにいる赤い髪の女性と倒れてる若い男の子、それと……たぬきは…まぁ、一緒に守ってやってくれ。」


黒霞と呼ばれた鴉は、再び無言でコクンと頷くと、闇に溶け込むような動きでその場から消え去った。そして、音も立てずに空を滑るように飛び、紅子たちがまとまっている場所へ向かった。


黒霞は無言で紅子たちの周囲を旋回し、霧のような羽を広げながら彼らを静かに包み込んだ。


「よし、これで紗月が起きても『うちのせいやー、うちが結界失敗したからやー』って落ち込むことは無いかな……。」


清雅は紗月の体を確かめる様に筋を伸ばしながら、肩越しにちらりと周囲を見渡した。


「でも、まさか初めてで結界を構築するとはなぁ……驚いたよ。さすが橘家の麒麟。いやいや、日本の麒麟になるんじゃないか?紗月は。」


清雅だからこそわかった。紗月の身体の奥深くに眠る溢れる霊力の存在。


まるで洪水のように圧倒的で、制御さえ覚えれば、その力は無限の可能性を秘めている。


———それだけではない。彼女は清雅と同じ「器」を持つ者だった。———


「まさか紗月が俺と同じ器の持ち主とはな……いや、これは面白くなりそうだ。」


「さすがに意識をなくした時はびっくりしたけど……。」


「でも、まぁ……初めて一気に霊力を流し出したんだから、そりゃ身体も驚くだろ。きっとそれが原因だな。」


その瞬間、鬼童丸の怒声が大地を揺るがすように響き渡った。


「知ってるッ!知ってるッ!知ってるッ!知ってるッ!知ってるッ!知ってるッ!知ってるッ!知ってるッ!知ってるッゾォォォォォォ!!」


その狂気じみた咆哮が続く中、鬼童丸の巨大な姿が陥没した穴の中からゆっくりと上がってきた。その瞳は血のように赤く燃え、紗月に乗り移った清雅を睨みつけている。


「——テメェを知ってるぞォォォォ!!」


「えっ、何?壊れちゃったの?大丈夫?」


鬼童丸は清雅の軽口を無視し、なおも叫び続けた。


「間違いないッ!!見た目は違うが、そのふざけた態度……白龍と鴉……テメェ!!白鴉しらがらすだなァァァァー!!!」


「おやおや……なんか懐かしい名前で呼ばれたなぁ。えっと……オタク誰だっけ?もしかして知り合いだった?いやぁ、ごめん、覚えてないや。」


その無邪気な口調が、さらに鬼童丸の怒りを煽る。鬼童丸は地面を叩きつけるように六本の腕を振り上げ、地響きを起こしながら吼えた。


「テメェ!!俺様を封印したことも忘れたってのかァァァァ!!!ふざけやがってェェ!!」


清雅はその様子を見て、頬をポリポリと掻きながら、さらに追い打ちをかけるように呟いた。


「んー……ごめんごめん、本当に記憶にないんだよね。」


「貴様ァァァァ!!謝るくらいなら覚えてろォォォォ!!俺様をこんな目に合わせやがって!!」


鬼童丸の怒声が響き渡り、場を震わせていた。


「あー、お前、うるさいから……とりあえず、もう一回封印しとく?」


清雅がそう言い放った瞬間、突如として背後から烈火童子の怒声が飛び込んできた。


炎嵐獄破えんらんごくは!」


灼熱の炎が唸りを上げ、清雅を飲み込むように襲いかかる。燃え盛る炎が空気を裂き、周囲の温度を一気に跳ね上げた。


「やった!やったぜ!あの白鴉を倒し……」


烈火童子が勝ち誇った声を上げる。


しかし、次の瞬間、彼の言葉は凍りついた。


炎の中に立つ清雅の前には、一枚の霊符が静かに浮かび、結界を構築していた。清雅の姿は炎に包まれながらも、微動だにせず、冷たい瞳で烈火童子を見据えている。


炎嵐獄破えんらんごくは……ねぇ?」


清雅は霊符を指先で軽く弾きながら、淡々と言葉を紡ぐ。


「お前に、本物の地獄の炎を見せてやるよ。」


そう呟くと、清雅の指先が素早く印を結び始めた。


「大地の深淵よ、冥府の門を開け。その咆哮を燃え上がらせ、無尽の苦痛を照らし出せ。黒炎の業火、裁きの嵐となりて現れよ――地獄焔招来じごくえんしょうらい!」


清雅の足元から、漆黒の炎が静かに湧き上がった。その炎は通常の炎とはまったく異なり、光を放つことなく周囲の闇を侵食していく。


「これが……本物の地獄の炎だよ。」


黒炎は彼の周囲を渦巻き、まるで生きているかのように烈火童子へ向かってゆっくりと伸びていく。


烈火童子はその異様な光景に思わず後ずさった。


「なんだ……なんだこの炎は……!?俺の炎が……消されるだと……!!?」


「冥府からの招待状だよ。さぁ、少しだけその身で味わってみるかい?」


黒炎が烈火童子を覆い尽くし、その断末魔が響き渡る。烈火童子はたまらず、実体を霧状のガスに変えて逃れようとした。しかし、黒炎はどこまでもまとわりついて離れない。


「——ギャァァァァァァァァァァァ!!」


清雅は烈火童子が苦しむ様子を無表情で見つめるだけだった———。

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