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討鬼

「さっきはブチギレてたみたいだが、どうした?ババア!怖くて俺に近づけないか?」


その言葉に、紅子の顔に怒りが浮かんだ。拳を握りしめ、額に浮かぶ青筋がはっきりと見て取れる。


「このッ……よくもまあ、そんな口を聞けるわね……覚悟しておきなさい…」


声を震わせながらも、紅子は鬼童丸を睨みつける。怒りを抑えられないその態度に、鬼童丸はますます愉快そうに笑い声を上げた。


「ハハハ!いいじゃねぇか、ブチ切れてる方が面白ぇ!」


だが、紅子の内心はその表情とは正反対だった。

表面上は怒りを見せながらも、彼女は冷静に鬼童丸の性格や行動を観察していた。


(……典型的なパワータイプね。相手を挑発して突っ込ませ、力押しで叩き潰す。こういう単純な相手ほど、思考を誘導しやすいわ。)


紅子は鬼童丸の挑発に意図的に乗ることで、相手の注意を限定的な方向に向けさせることにした。怒り狂ったふりをすることで、こちらの行動パターンを誘導したと思わせる。


(いいわ。あなたみたいな単純な相手には、怒りをぶつけて周りが見えなくなってるふりをすれば十分。)


紅子が挑発に乗るように怒り狂いながら叫んだ。


「このクソガキッ!!絶対にぶちのめしてやるわッ!!」


その一言に鬼童丸は歓喜の声をあげ、両腕を振り上げる。


「その気になったか!いいぜ、俺の拳で粉々にしてやるよ!」


(さて、ここからが本番よ。)


紅子は一歩後退し、仕掛けていた罠の霊符に視線を送る。


「拳で粉々になる?誰が?……私と殴り合って粉々になるのは、あなたのほうよ!」


鬼童丸はその言葉に満面の笑みを浮かべた。


「そうこなくっちゃ!殴り合いでどっちが強いかハッキリさせようぜ!遠慮は無用だ!」


紅子はわざと拳を鳴らして見せた。


「ええ、いいわよ!思いっきりぶちのめしてあげるわ。」


その言葉を聞いた鬼童丸は、勝利を確信したかのように憂うつを吹き飛ばすような声をあげ、両腕を振り上げた。そして、一気に地面を蹴って紅子へと飛び込んでくる。


「くらえぇぇぇッ!!」


(……単純ね。)


鬼童丸の巨大な腕が紅子を直撃する寸前、彼の足元から突然、激しい爆音が響き渡った。踏み込んだ場所に仕掛けられていた霊符が反応し、衝撃波とともに地面の土ごと吹き飛ばしたのだ。


「うおっ!?なんだこれ!」


鬼童丸が動きを止め、爆風に怯んでいる隙を見計らい、紅子は素早く空中に数枚の霊符を投げた。それらの霊符は宙を舞い、鬼童丸を囲むように四方に配置される。


「ふざけやがって……!テメェ、騙しやがったな!」


「ええ、力任せのお馬鹿さんには、これが一番効くのよ。」


紅子は力強い声で呪文を唱えながら片手で指印を結んだ。


「五行の理に従い、万物を縛れ――『封縛の鎖』!」


霊符が青白く輝き、その輝きから無数の鎖が生み出される。それらの鎖は一気に鬼童丸に向かって飛び、彼の腕や足、さらには体全体をがっちりと拘束した。


「フン、舐めるなぁ!そんなもんで俺を止められるかぁ!」


鬼童丸は力任せに鎖を引きちぎる――が、それこそ紅子の狙いだった。


鎖が切れた瞬間、鎖の破片が、まるで意思を持っているかのように地面に落ち、そこから異様な光が放たれる。


「なっ……!?なんだ、これ……!」


鬼童丸が足を止めて見下ろすと、鎖の破片が地面の上を這うように滑り出し、その破片同士が次々と繋がり合っていく。光を帯びた鎖は、やがて緻密な六芒星の模様を地面に描き出した。


「……っ!?」



———バシュッ!———



六芒星の中心から赤黒い光の柱が突き上がり、鬼童丸を包み込む。


「貴様、まさか――!」


「――遅いわよ!」


足元から強烈な磁力のような力が発生し、鬼童丸の動きが一瞬止まる。


「天地を巡る星の理よ、六の結びにて輪を成せ――『封縛六星重鎖ふうばくりくせいじゅうさ』!」



———ズシャァァッ!———



六芒星の光が急激に収束し、地面に描かれた陣から鎖が溢れ出すように次々と伸びる。


今度の鎖は先ほどのものとは異なり、赤黒い霊気をまといながら、鬼童丸の体へと絡みついていく。その鎖はやがて、鬼童丸の姿が見えなくなるほど密集し、完全に縛り上げた。


「うおっ……!?何だこれはッ!!動けねぇ……ッ!」


「ふふ、ババアって言った罰よ!お馬鹿さん。」


紅子の声に合わせ、六芒星の輝きがさらに強まる。鬼童丸の霊力が鎖に吸収されていくかのように、その体が徐々に重くなっていく。


「ぐっ……!こんなもんで……負けるかぁッ!」


鬼童丸は叫びながら力を込めるが、鎖は六芒星の中心に向かってどんどんと収束し、鬼童丸の動きを完全に封じ込めていた。


「さあ……これで終わりよ。」


紅子の冷徹な声が響く中、六芒星の模様が一瞬輝きを増し、鬼童丸の体を完全に締め上げた。





紅子が鬼童丸との戦いに没頭している間、明良は烈火童子を見据えながら雅彦に低い声で話しかけた。


「雅彦くん、陰陽師協会の村瀬さんはあの小鬼に集中している。この炎を纏った鬼は我々で一気に仕留めよう。それから向こうを援護する形にすれば効率的だろう。どうだい?」


その言葉に雅彦は鋭い目で烈火童子を見据え、一瞬だけ考え込む素振りを見せた後、静かに頷いた。


「一人で十分と言いたいところですが……それが最善策ですね。全員で仕留めてから向こうに加勢しましょう。」


雅彦の言葉に続くように、彩花、橘東家の慶介、橘西家の直人、橘南家の達也もそれぞれ頷いた。


「これ以上、被害は出させません。」


慶介が短く言い放ち、霊符を指先で弾く。


「全力でいく。出し惜しみは無しだ!」


直人が冷静に術具を構えながら応じる。


「速攻で倒して莉乃を探す!」


達也もまた準備を整えながら、烈火童子へと視線を向けた。


「ほぉ、もう作戦会議は済んだのかい?そりゃいいや。」


烈火童子は不敵な笑みを浮かべると、軽く指を鳴らした。すると、その指先から飛び散った小さな火花が、周囲の空気を震わせ、じわりと温度を上昇させていく。


雅彦が烈火童子を鋭く睨みつけ、後方にいる彩花へと振り返り、強い口調で指示を出した。


「彩花、皆に火除けの呪いを頼む!」


(私のせい……?私が封印石に余計なことをしたから……こんなことに……)


烈火童子の炎がさらに勢いを増し、空気が歪み始める。雅彦の声が、苛立ち混じりに飛んできた。


「彩花!ボサッとするな!早く火除けを!」


「は、はい!」


雅彦の叱責に、彩花はハッと我に返った。今はそんなことを考えている場合ではない――そう自分に言い聞かせ、懐から神楽鈴を取り出す。


(集中……今は目の前のことだけに集中しないと……!)


鈴の涼やかな音色が静寂を裂くように響き渡る。彩花は足を一歩踏み出し、手に持つ神楽鈴を優雅に揺らし始めた。鈴の音に合わせて、彼女の舞うような動きが始まる。


「――天津神、地祇神、火の穢れを鎮めたまえ……火除けの理、今ここに降ろし給え……!」


祝詞を唱える彩花の声は、徐々に力強さを増していった。鈴の音色が空間に広がるたび、烈火童子の灼熱の気が浄化されていくかのように、周囲の温度がわずかに下がり始める。


彩花の祝詞に合わせて淡い青白い光が仲間たちの身体を包んでいく。「火除けの呪い」が完成していった。


「ふぅ……っ!」


彩花は息を整え、神楽鈴を胸元で静かに構えた。額にはうっすらと汗が滲んでいる。


(今は……今はこれで大丈夫……!)


「達也、私達で鬼霧結界だ!奴は水気に弱いはず!」


明良の鋭い声が響き渡る。指示を受けた橘南家の跡取り、達也は、父の言葉に力強く頷いた。


「分かりました、父さん!」


達也もすぐに懐から霊符を取り出し、明良と共に印を結び始める。


「陰陽の狭間に水を結び、灼熱を鎮める霧となれ――『鬼霧結界』!」


二人の声が重なった瞬間、霊符から蒼白い光が走り、周囲に霧が湧き上がった。水気を含んだ霧は瞬く間に広がり、烈火童子の炎に触れるたびにジュッと音を立てて燃焼を抑えていく。


「ほう、やるじゃねえか……」


雅彦の鋭い声が響いた。


「慶介、直人、行くぞ!」


「輪を結びて闇を断つ、五行の剣よ――『五芒斬』!」


慶介が唱え終えた瞬間、霊符から鋭い光の剣が生まれ、烈火童子を狙うように飛んでいった。


次に直人が素早く霊符を投げ、両手で複雑な印を結んだ。


「清流よ、我が術に応じ、炎を呑み尽くせ――『水刃穿流すいじんせんりゅう』!」


霊符が青白い光を放ち、次の瞬間、空中で水の刃が形を成す。それは鋭く、圧倒的な勢いでうねりながら、烈火童子に向かって突き進んだ。


「ちっ……水気か!」


雅彦が一歩前に踏み出し、橘家に伝わる宝剣「麒麟のつるぎ」を振り上げる。


「麒麟の名のもとに――闇を祓う!」


雅彦が麒麟のつるぎを振り下ろすと、その刃から生まれた光の波動が空気を切り裂き、烈火童子へと真っ直ぐに向かった。


「なにっ……!?」


振り下ろされた光が烈火童子の体を貫き、纏っていた炎が一瞬にして霧散した。


「ぐああああっ……!」


烈火童子は断末魔の叫びを上げると、光に飲まれ、そのまま地面へと倒れ込み霧散した。その場には焦げた地面だけが残っていた。


彩花は息を切らしながら、その光景を見つめていた。


(……終わった?)


神楽鈴を持つ手が震え、冷たい風が再び彼女の頬を撫でる。


雅彦は麒麟のつるぎを収めながら、烈火童子が霧散した場所を見下ろし、静かに息を吐いた。


「呆気なかったな…」


彩花は深呼吸をしながら、神楽鈴を胸の前で強く抱きしめた。彼女の胸に広がるのは安堵ではなく、得体の知れない不安だった。


(……本当に終わり? )

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