7.奪還
レオンお兄様の見立てででは敵の将はバスラット伯爵邸で籠城しているとのことでしたが、なるほどその通りのようでした。
私も幼いころ訪れた記憶のある伯爵邸の扉は堅く閉ざされている。そこを破城槌で付いて破る。
中には敵兵が万全の守りを固めているようでした。
そこを私たち天馬部隊は突破していかなくてはならない。私は旗を振り皆を鼓舞した。
「女神様の加護はこちらにあります!どうか恐れないで!」
「んな事わかってらあよ!生意気な新兵が!」
「テオさん!」
「おめえさんのお陰で傷はすっかり塞がった、敵を吹き飛ばす!」
「はい!」
先程手当したテオさんも治癒の奇蹟で完全に回復したのだろう。猪突猛進の勢いで敵兵にその斧を振るっていっていた。
「救国の乙女レシステンシア、まさに、本物です。私はあなたの事を心から崇敬しましょう」
「ジルさん!」
「さあ、乙女よ、旗を振るのです!そこに我々の勝利はある!」
テオさんもジルさんも私を救国の乙女と認めてくれたんだ……!私はその分しっかり働かないと!
最奥にある伯爵の書斎を目指して敵兵を屠っていくレオンお兄様。幼いころから育った館に巣食う敵兵を屠っていく気持ちはどんなものだろう……。
私は旗を持つようになってから、目立つため敵兵が集まってくるようになった。旗の柄で敵の剣を受け止め、はじき飛ばしていく。これも女神の加護、救国の乙女の奇蹟なのだろう。次々と敵兵を吹き飛ばすことが出来た。
そうしてたどり着いた伯爵の書斎には予想通りスタセリタ軍の将が陣取っていた。
「まさかここまで早く取り戻しに来るとは……!」
「ここは我が館、我が領地!返してもらう!」
レオンお兄様とスタセリタ軍の大将の一騎打ちとなる。レオンお兄様はそのみごとな剣さばきで敵将を、圧倒していった。私は後ろに控えて時たま襲いかかってくる敵兵をはじき飛ばし、レオンお兄様の背後を守った。
やや暫くあって一騎打ちの勝負はレオンお兄様に軍配が上がったようだ。
「降伏しろ!全軍に停戦命令をしろ!さすれば命までは取らん!」
「わかった、降伏する!全軍、攻撃を停止だ!セリエンホルデ軍に従え!」
敵将は素直に降伏に応じたようだった。
レオンお兄様は敵将を縛りあげて捕虜にする準備をしていた。
そうして捕虜にしたスタセリタ軍の兵士たちも連行されていく。
私はと言うと負傷兵たちのいるテントの様子が気になった。
「お兄様、負傷兵たちを見舞ってきても構いませんか?」
「もちろんだ、それがお前の本来の仕事だしな……。
助かったぞ、救国の乙女」
そう言ってレオンお兄様は私の頭をポンポンと撫でてくれました。
「……っありがとうございます!」
私はテントに走り出した。
「皆さん、大丈夫ですか!?もう戦いは終わりましたからね!」
声をかけながら負傷者の手を取り癒しの奇蹟を施していく。
(昔に比べて反動が無くなっている……)
と自分で思って違和感。昔に比べて?
私はいつかの昔にもこうやって誰かの傷を治していた?
不意に浮かぶ幼いレオンお兄様の面影。
そうだ、私はレオンお兄様の傷を治そうとして……。
……それ以上は思い出せなかった。後でレオンお兄様に聞いてみよう。
そうして負傷者のほとんどを治癒し終えた。(さすがに失ってしまった手足を元に戻すことは出来なかった)
レオンお兄様の居場所を聞くと、何やら領地内を見廻る為に馬を準備しているとのことだった。
私はレオンお兄様を探して言った。
「レオン部隊長!私も連れて行ってください!」
「レシステンシア。まあいいだろう。今日の殊勲者だからな。後ろに乗れ」
そう言うと私はレオンお兄様にしがみついて馬に乗ったのでした。
馬に揺られながら領内を見て回るレオンお兄様に、隙を見て話しかけた。
「お兄様、私聞きたいことがあって、昔私は癒しの力を使ったことがありましたか?」
「……思い出したのか?」
「……やっぱりあったんですね?」
「あれは俺が剣の稽古で手に傷を作った時だった。お前は私が治しますといって手を握ったんだが、倒れてしまったんだ」
「そんなことが……私、覚えていませんでした……」
「俺がその力を秘密にしろと約束したんだ。それで覚えていなかったんだろう。幼い頃だったしな。しかしそれで俺は確信した、レシステンシア、お前は救国の乙女なのだと」
「レオンお兄様はそれも知っていて私を天馬部隊に入れたんですね……」
「そうだ。想像以上の力に驚いたがな……」
レオンお兄様は少しバツが悪そうにした
「お前の力を利用するような真似をして済まない。体に大事はないか?」
「あの女神様の加護のある軍旗のおかげか、反動といったものはさっぱりないんです!だからどうぞこの力を存分に使ってください。お兄様のお役に立ちたいんです」
「お兄様はもうやめろ」
「すみません、部隊長」
「そうではなく……。まあいいか……」
「着いた。ここが気になっていたんだ」
「ここは……」
そこはバスラット伯爵領の端、スタセリタの国境にある山岳地帯だった。
「やはり山を超えてきた跡がない……」
「スタセリタの軍がですか?」
「そうだ、あれだけの大軍だ。通ったあとは必ずわかるはずだ」
「山を超えてきたのではないならどこから……」
レオンお兄様が暗い顔をする。
「我が領地に入るには隣のソニンク辺境伯領を超えるしかない……」
「それって……!」
「まだわからない。わからないが、裏切り者がいるかもしれない、ということだ」
ソニンク辺境伯が、裏切り者……?
まさかの疑惑が持ち上がったのでした。
明日も12時頃投稿できる予定です。