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婚約破棄?良いでしょう、私は救国の乙女なので!  作者: 杏仁
第1章 救国の乙女、戦場に立つ
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5.陥落

 いつものように修練場をぐるぐる走っていると、レオンお兄様が焦りの形相で皆を集めた。


「スタセリタ王国が侵攻してきた!」


 スタセリタ王国とはこのセリエンホルデ王国の北に位置する国で、最近軍備増強に力を入れているということで警戒されていた国だ。


「しかも、もう我がバスラット伯爵領まで侵攻してきているようだ。スタセリタとの間には山岳地帯が拡がっているのに、早すぎる……」

「ソニンク辺境伯領側の国境はどうなっているのでしょうか」

 ジルさんが聞いた。

「分からない、既に敵の手に落ちたとしてもおかしくない」

「久々の実戦が侵略への抵抗なんて、やる気出るじゃねえか」

 テオさんが斧を担いで気炎をあげた。

「我々は精鋭部隊として最前線へと赴く!そこでスタセリタの侵略をなんとしてでも押しとどめるのだ!」

 レオンお兄様が言うと、「おおー!」と団結の声が上がり、天馬部隊の士気は十分といったところだった。


「レシステンシア、初めての実戦だが、やれるな?」

「はい、部隊長」

「これはもしもの時の話だが……あの旗、白い天馬の軍旗は我ら部隊の象徴、女神の加護を受けた神聖なものだ。決して地に落ちてはならない。旗手がもし負傷した時は、お前が持て。救国の乙女ならばやってみせろ」

「……はい、必ず!」


 そして我々は戦場と化しているであろうバスラット伯爵領へと行軍を始めたのでした。


 王都の軍本拠地からバスラット伯爵領まで馬車で半日程、揺られて行く。すると遠くから喧騒が聞こえてきた。金属と金属のぶつかる音、何かの焼ける音、人々の悲鳴……。


 これが戦場……。ここで私が命を落とすことだって有り得る。それでも、女神様。私が救国の乙女だと言うのなら、国のために何かが出来るのですよね?


「もうすぐ最前線だ!バスラット伯爵麾下の騎士たちが戦っているはずだ、そこに加勢する!」

 レオンお兄様が部隊長として指示を飛ばすと、応とばかりに戦士たちが戦場へと飛び出していく。

 ……どうか無事で、怪我をしたら私が手当しますから!


 最前線から少し後ろに陣取ってテントを張った我々衛生兵は、次々と運び込まれる怪我人の手当に奔走していた。

 その中には腕の無い者、足の無い者もいた……。思わず目を逸らしたくなるが逃げちゃダメだ。私に出来るだけの手当をするんだ。


 これが本物の戦場……涙目になりながら手当を次々に行っていく。

 寝かせた患者は溢れ返り、テントはいっぱいになってしまう。

 仕方ないのでテントの外に出で手当の活動を行うと、私のすぐ横を弓矢が飛んできて、手当していた兵の頭へと刺さった。

「ひいっ」

 目の前で、人が死ぬ。一歩間違えたら、私が死んでいた。

 これが、戦場。これが、戦争!

 女神様、どうか、どうか我らをお守りください!

 祈るしか無かった……。


 弓矢の飛来に怯えながら手当を続ける。

「もう、包帯も薬もない……!」

 いざと言う時に取っておいた布を持ってきていたので、その布で傷口を抑えて止血するくらいのことしかもう出来なかった……。


 それでもまだあの、天馬の旗は前線ではためいていた。まだ戦っているんだ、諦めちゃダメ……。

「撤退!撤退だー!」

 レオンお兄様の声が聞こえる。

「伯爵麾下の軍はほぼ全滅した!戦線を維持できない!ここは一時撤退とする!」

 それは、このバスラット伯爵領を放棄することを意味していた。


 そんな!レオンお兄様のお父様は?お兄様の故郷が……敵国の手に落ちるなんて……。

 女神様、どうか、どうか私に力をください。私が真に救国の乙女ならば……!


 祈りも虚しく、私たち天馬部隊は王都まで撤退を余儀なくされたのでした。


 宿舎に帰っても、リサとエマが帰ってこなかった。

 ほかの部隊の方々に聞くと、戦死してしまったかもしれないとの返事しか返ってこなかった。

 あっけない。昨日まで楽しくおしゃべりしていた二人が、死んでしまったなんて……!なんて残酷なんだろう……。

 私は涙を流しながら眠った。私は絶対リサとエマの分まで生き延びよう。そう誓って……。


 ———夢の中


(レシステンシア)

 私を呼ぶのは誰ですか……?

(私は人々が女神と呼びしもの)

 女神様?

(レシステンシア、目覚めなさい)

 目覚める?

(あなたは今こそ救国の乙女となるのです)

 救国の乙女……しかし私にはなんの力もなかった……

(バスラット伯爵領を取り戻しにお行きなさい)

 伯爵領を?

(そこであなたは真の力に目覚めるでしょう……)


 私はそこでハッと飛び起きた。今のは、女神様の声?

 バスラット伯爵領を、レオンお兄様の故郷を取り戻しに……。

 私はそれ以上眠れなくて、天馬部隊の詰所に向かいました。


 月明かりのみの暗い中、レオンお兄様が一人で項垂れていました。その背中はとても小さく見えて……。思わず後ろから抱きしめてしまった。

「レオンお兄様、大丈夫ですか」

 抱きしめた背中は小さく見えても広く、かすかに震えていた。

「これが大丈夫なわけがあるか!」

 それでも振り払われはしなかった。

「……っそうですよね、すみません……」

 私は手を離してお兄様に向かい合う。

「父上も騎士たちも死んだだろう。館も乗っ取られたはずだ……しかし王太子殿下は王都の守りに徹せよとの命を我々に出された」

「奪われた領地はそのままなのですか……」

「王都が落ちてはどうにもならないからな、悔しいが、耐えるしかない……」

 レオンお兄様は涙を流して、拳を悔しそうに握っていた。

「……取り戻しに行きましょう」

「お前、何を言っている……」

「奪われたものを取り戻しに、レオンお兄様の大切な地を取り戻しに行きましょう」

 リサとエマの仇でもある。そのままにしておくのは癪だ。

「しかし……」

「今しがた、夢の中で女神様の声を聞いたのです。バスラット伯爵領を取り戻しに行きなさいと……。そして私はそこで真の力に目覚めるでしょうとも……」

「レシステンシア……」

 レオンお兄様は迷っているようでした。

「私がお前を自分の部隊に入れたのはお前が救国の乙女だという予言があったからだ」

「!?」

「救国の乙女の力、私は信じたい。取り戻したい!明日一番で王太子に直談判しに行く。領地を取り戻しに行く、とな」

「レオンお兄様!」

「部隊長だ」

「はい、部隊長」


 私は答えました。リサ、エマ、見ていて。私は救国の乙女になって見せる……!



今作、ちょっとハードな展開多めの予定です。

明日も12時頃投稿いたします。

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― 新着の感想 ―
[良い点] レシスの無力感が伝わってくるようでした。 自分もいつ死んでもおかしくないのに、逃げないレシスは強いですね。
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