3.訓練の日々
起こされて朝食のスープとパンを食べさせられると、いよいよ訓練の始まりでした。
またレオンお兄様が出てきて、新兵たちに指示を飛ばす。
どうやら新人教育の係にお兄様は付いているようです。
「では新人たちには教練場を10周走ってもらう!走り終えた者から休憩に入っていいぞ!」
この広い教練場を10周も!
周りの方たちが走り始めたので真似して走り始めます。最初から全力で走っていた方はすぐ疲れてしまっていたようなので、私も少しの力で走り始めたのですが、これがとても辛いものでした。
私の履いてきた靴はヒールがあるので、走っては足を捻ることが多かったのです。
一思いに私は靴を脱ぎ捨てて走り始めました。小石が足に痛かったですが、捻るよりマシでした。
ドレスのスカートも足にまとわりついて走りにくいです。リサやエマのように、あとで丈を短く切ってしまおうと心に誓いました。
私としては懸命に走りましたが、早い方にどんどん抜かされて、どうやら周回遅れになってしまっているようでした。リサやエマはどうしているか、気になりましたが探している余裕がありません。苦しい呼吸を整えながら走り続けますが、7周目あたりで限界が来ました。その場に倒れ込んでしまいました。
「どうしたレシステンシア。軍に入って家を助けるんだろう」
「レオンお兄様」
「幼馴染だからと言って甘くはしないぞ、あと3周か?走り切れ!」
「っはい!」
私の走りはよろよろとしていて、もはや歩いているのに近かったですが、あと3周、必死に頑張りました。
「レシス!やった!10周出来てるよ!」
「リサ……」
リサとエマは私より先に10周を走り終えて次の訓練を始めているようでした。
「次は剣の訓練ですって、さあこの木剣を持って」
エマが遅れた分の説明をしてくれる。剣の型の練習でした。
木の人形に向かって木剣を振る。実際にこうして戦場で人に剣を向ける時が来るのでしょうか……。
「これが終わったらお昼ご飯だって!楽しみだねっ!」
リサが木剣を振りながら言いました。
「三食食べられるなんて夢みたいですよ!」
エマも同調してした。
質素なパンとスープでも、三食出てくるだけ二人にはありがたいんだ……。貧乏とは言っても私は貴族の暮らしをしていたんだとしみじみ思い出されました。
昼食のあとは鎧を着ての走り込み、教練場を10周でした。
これには先程早く走れた方々も流石に難儀していました。単純に重く、そして関節が曲がりづらいのです。
もちろん私も難儀しましたが、先程よりはコツを掴んだのか、ゆっくりのペースが効いたのか、途中で倒れることなく10周することが出来ました。
こうして今日一日の訓練が終わり、夕食の時間となったのでした。
「ああー疲れた、でもこんなに立派なご飯が出るんだもん、頑張れるよ!」
夕食はパンとスープにお肉の焼いたものも付いてきました。リサはお肉に大喜びしていました。
「この先訓練について行けるか不安……」
エマは不安を吐露してしましたが、私も同じ気持ちでした。
「エマ、わたしもです。今日は倒れ込んでしまいましたし。でも何とかなりました、一緒に頑張りましょう?」
「そうだよ、エマ、三人で頑張ろうって決めたじゃん!」
「リサ、レシステンシア……そうだね!」
そうして夕食後の自由時間。
私は靴とドレスを何とかしようと決めていました。
まずは靴。ヒールを折ってしまいました。これで足を捻ることはないはず!
そしてドレス。
「ええー勿体ない!ホントに切っちゃうの!?」
「ええ、動きにくくて仕方ないので!」
リサが勿体ない、お姫様みたいなのに〜と騒いでいました。(エマがホントにお姫様だったんだよと宥めていました)
膝の丈当たりに、ハサミを入れてドレスは短くなり、随分動きやすくなりました。
切った布はなにかの役に立ちそうなので取っておくことにしました。
それから、髪の毛。走っている間じゃまでしかたなかったので、これも肩より短いくらいに切ってしまいました。
「せっかく綺麗に伸ばしてたのに、勿体ない〜!でも私とおそろいだね!」
リサはちょっと喜んでいました。
こうして次の日からも私たちは訓練に励みました。
私も走るのが早くなってきましたし、随分体力がつきました。
数ヶ月が経つのもあっという間でした。その間にはお給金が出た日もあって、皆こぞって実家へ送金する手続きで宿舎の事務所は混み合いました。
私も給金の全てを実家へ送るように手配しました。
これでオルテンシアの薬も買えるだろう……。私は今までの苦労が報われた気持ちでした。
「そこの三人、ちょっといいか」
「はい!」
レオンお兄様がリサとエマ、そして私に話しかけてきました。
「そろそろ部隊配属の時期だが、お前たちは前線ではなく衛生兵として負傷兵の手当を行うことになるだろう。そのため、手当の座学や実技の訓練を受けて欲しい」
「分かりました」
私たちは返事をした。
それからは男の人とは別になって、手当のための傷や病の知識、薬の知識や看病の実技の訓練が行われました。リサとエマは字が読めなかったので大変苦労していましたが、私が少し字を教えたこともあって何とか、着いてこれていました。
「病気の看病ができるなんて軍を辞めても役に立つわね」
エマが感慨深そうに言った。
「そうね、うちのお父ちゃんも助けられたかも……」
庶民はそう簡単にお医者様に見せることも出来ないのかもしれない……。自分で知識を持つことはとても大事な事だと思えた。
そうして、衛生兵としての訓練も終えた私達は、部隊配属となった。
リサ、エマとはそれぞれ別の部隊に配属になってしまった。何となくそんな気はしていたけれど、寂しくて仕方なかった。
「エマ、レシス、私たち離れても頑張ろうね!」
「もちろん!」
「ええ、頑張りましょう!」
こうして私たちの訓練の日々は幕を閉じた。
明日も12時頃更新です