2.軍に入るとは
王立軍は様々な領地を巡っては新入隊員の募集を行っている。
レシステンシアもそこに合流するつもりだった。
もちろん貴族が着るようなドレスでは行けないだろうから、持っている中でなるべく質素なドレスを選んで着た。最低限の身の回りのものだけ入れた鞄ひとつで出立した。
「軍に入るやつはいないか~!」
軍人が呼び込みを行っている。そこへ私も近づいて行った。
「はい、ここにおります」
「はあ?貴族の嬢ちゃんがなんの冗談だ?冷やかしは要らねえよ!」
「冷やかしではありません!家が没落寸前ですので、出稼ぎに参ります」
「マジで言ってんのかお前」
凄まれるが、ここで負けてはとても軍ではやって行けないだろう。足に力を入れて、主張する。
「真面目に言っております!どうぞ私を軍にお加えください!」
「……まあいいか、どうせすぐ逃げ出すだろ、馬車に乗れ!」
そして新入隊員募集の質素で大きな馬車に乗り込んだのだった。
「わあ女の子だ!うちら以外にもいたよ!エマ!」
「リサ、本当に?まるで貴族みたいなドレスを着てるのね……」
馬車の中には十数人の人が乗っていて、ほとんどが男の人だったが、その中でも二人の女の子が乗っていた。そして話しかけてくる。
「ええと、私はレシステンシアといいます。よろしくお願いします」
「レシステンシア?長い名前ねーもしかしてホントに貴族?」
リサと呼ばれた黒髪の子がが興味津々に聞いてくる。
「ちょっとリサ、なにか事情があるのかもしれないでしょう?」
エマと呼ばれた金髪のお下げ髪の子が咎める。
「いいえ、大丈夫です。確かに私は貴族でしたが、軍に入るからには同じ仲間です」
そうして軍に入ることになった顛末、つまり婚約破棄の顛末を二人に話したのだった。
「王太子様ったらひどーい!そんなの許せませんよね!」
「婚約を破棄してしまうなんて、そんなことが……」
「リサさん、エマさん聞いてくれてありがとうございます……」
「でも救国の乙女ってホントですか?」
リサが相変わらずの好奇心で聞いてくる。
「それが、いままでそういった奇蹟を起こしたことは無いのです……」
「軍に入ったことで、もしかしたら何か変わるかもしれないですよ」
エマが励ましてくれた。
そうこうしているうちに、馬車がどこかへ到着した。
そこは王都だった。王都にある王立軍の本拠地。どうやら軍の新人教育はここで行われるようだった。
「わあー王都だ!うち初めて!」
「私もです……」
リサもエマも感激していた。
「そこ!立ち止まらず進め!」
「はい」「はい!」
進んだ先に居たのは、見知った顔だった。
「諸君!この度は王立軍への加入、嬉しく思う。まずはここで基礎訓練を積んでもらい、それぞれの部隊へ配属となる!皆の者、精一杯励んでくれ給え!」
「レオンお兄様?」
レオン・バスラット伯爵令息。すくんだ金髪にに深い海色の瞳。私の幼馴染で二歳年上なので、お兄様と呼んで慕っていた。叙勲を受けて騎士になったと聞いていたけれど、新兵の教育係なのだろうか?
「レシステンシア!?なぜこんな所に!?」
「没落寸前の家のため、妹の治療費を稼ぐため、軍に入りたいのです」
「お前、ここがどういう所か分かって言っているのか?貴族の令嬢が来る所じゃない!」
「分かっているつもりですが……」
「これからお前は数ヶ月の基礎体力訓練、戦闘訓練を課される。そしてその後は部隊配属だ。お前は女だから衛生兵としての仕事が待ってるだろうが、それでも命がけなんだぞ!」
「命がけ……」
「そうだ」
「それでも誰かがやらねばならないことなのですよね?ならば私がやります」
「レシス……」
「救国の乙女と予言されて生まれてきましたが、私は何一つ国のために出来ていません。これからは軍で国のために働きます」
「本当にやるんだな?」
「はい」
「では入隊を認めよう。この三人を女子棟へ案内してくれ。明日からは早速訓練だからな」
そうして、女の軍人に宿舎へと案内される。
リサとエマが待っていてくれた。
「あのイケメンさん、知り合いなの?」
リサに聞かれる。
「幼馴染なんです。まさかこんなところで会うなんて……」
「なんだか運命的ですね……」
エマがうっとりしていた。
「でもこれで三人一緒に訓練できるね!よかったよかった!女の子少ないからさ、一緒に頑張ろうよ」
リサが明るく言ってくれる。
「はい、そうですね!頑張りましょう!」
そうして案内されたのは軍の宿舎、女子棟だった。
少ないながらも軍には女の軍人がいるらしい。
それなら私にも頑張れるかもしれない。勇気づけられた。
リサもエマもそれぞれ割り当てられたベッドの上に居た。
リサはゴロゴロとベッドの上を転がっていた。
「あー自分だけの寝床がある!素敵だわ!」
「?リサにはベッドがなかったの?」
「貴族のお嬢様には想像もつかないでしょうけど、馬小屋の藁の上で寝てたわ!」
「そんなことが!エマも?」
「私は兄弟たちと一緒のベッドだったわ……」
「そうなのね……」
生活に困窮した庶民が軍に入る。自分でも考えていたことをあらためて思い出した。
「おふたりとも苦労なさってたんですね……」
「これくらい普通だよーでも軍に入ったからには、出世してガンガン稼いでやる!」
「私も、兄弟たちのために稼ぎます!」
二人とも気合いはバッチリのようだった。
「私も、家のため、妹のため、稼ぎます!」
「うちら三人頑張ろー!!」
リサが手を伸ばす。エマも私も手を重ねて、一緒に気合を入れたのだった。
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