工具たちの見る夢
工具たちが織り成す夢物語。
得意不得意、リスペクトできるといいですね。
皆が寝静まった真夜中の作業場。
工具たちもまた、夢を見ていました。
今日もたくさん仕事をしたプラスドライバー君。
工具箱の中で、得意げに話します。
「俺に任せりゃ、何だって締め付けちゃうぜ!」
「プラスドライバー君はすごいよね」
同じ工具箱仲間のマイナスドライバー君が、メッキをキラキラ輝かせて褒めました。
「そんなこと、あるかな! マイナスドライバー君だって、頑張れば僕みたいになれるよ!」
そんな彼を、プラスドライバー君なりに持ち上げてみました。
「そんなことはないよ。最近はほとんどがプラスばかりだし、合う合わないもあるし……。こないだだって、無茶しちゃってネジを一本ダメにしちゃったんだ……」
どうやら、マイナス思考は取れそうにありません。
「不器用だな。簡単じゃないか! こうやって、こうすれば」
プラスドライバー君は体を捩ってお手本を見せてみますが、
「僕には無理だよおおおお」
おいおい泣き出すマイナスドライバー君。これでは工具箱のみんなが錆びてしまいます。
「そうか……。よし! じゃあ、ちょいっとあのアクリル板を締め付けて、勇気づけてやりますか!」
意気揚々と飛び出すプラスドライバー君。
「よーし、えい!」
絶妙な力加減で、ネジを回すプラスドライバー君。
「あれれ? もう一度、えい!」
一生懸命、アクリル板の上で回転しますが、ちっともネジは入っていきません。
「おかしいなぁ……」
「お困りかな」
「あなたは!」
声を掛けてきたのは、一番のベテランである電動ドリル先輩でした。
「こほっこほっ。まったく、相変わらずスマートじゃないな」
「ケッ! なんだいなんだい! 電動ドリル先輩なら、何かできるってのかい?」
ムッとしたプラスドライバー君をよそに、電動ドリル先輩は自慢のドリルを板に当てると、
「そりゃ!」
キュルキュルキュルと、いとも簡単に穴をあけてしまいました。
「そりゃ! そりゃ! そりゃ!」
あっという間に、締め付けるための下穴を全部の個所にあけてしまいました。
「すごい……」
華麗なドリルさばきに、工具一同スタンドオベーション。
でも、一名面白くなさそうです。
「さぁ、ここからは君の仕事だよ?」
仕事を交代するときすらもスマート。
「ふん! いちいちかっこつけちゃってさ! 穴あけることしかできないくせに」
ぶつぶつ文句を言いながら、一個ずつ締め付けていきます。
でも、注目の的は電動ドリル先輩でしたから、やはり面白くありません。
「あれ?」
そんなとき、プラスドライバー君は一か所だけ貫通していない穴を発見しました。
これはしめた。
「電動ドリル先輩! 穴あけることしかできないくせに、ここ空いてませんよ?」
キュルキュルその上で回転して、締め付けられないアピールをして見せます。
「ごほっごほっ。すまない。今から行くよ」
工具箱に帰りかけていた電動ドリル先輩が、よっこらせっと戻ってきて、いざ回転しようとします。ですが、
「げほっげほっ。ダメだ。回らない」
咳き込んで、ちっとも回転しません。
「おやおやおや? どうしたんですか?」
プラスドライバー君はニヤニヤと様子を見ていましたが、
「先輩! 助けに来ました!」
そこに飛び出してきたのは、マイナスドライバー君でした。
「ありがとう、マイナスドライバー君。どうやら、私の中に切粉が詰まってしまったらしい」
「なんだって! それは大変だ!」
マイナスドライバー君は大慌て。
「やれやれ。歳だなぁ。どれどれ、俺に任せれば……」
プラスドライバー君がネジ穴をのぞき込んでみると、プラスネジが使われているのが見えました。
「ふふん。こんなもの、こうやって、ああやって……あれ?」
カチコチに固まったネジは緩む気配がありません。
「こんなもの、こうしてくれる!」
「いだだだだ!」
力を加えると、電動ドリル先輩が悲鳴を上げました。
「こんな無理に力を加えちゃ、溝が潰れる!」
「でも、先輩のネジがボロボロなんだぜ?」
プラスドライバー君は、僕は悪くないと言いたげです。
「こらこら。体よりもまずは頭を回しなさい。こういうのは、回ることよりも、押し込むほうに力を加えるんだ!」
「回るより、押し込む?」
半信半疑でじっくり回ってみます。
「あ、回った!」
錆びついたネジが見る見るうちに剥がれていきます。
「よし、全部取れた!」
「ありがとう! あとは、カバーを外して……ダメだ。固まって取れない」
折角ネジを外したのに、カバーはくっついて外れそうにありません。
「何か、隙間をこじ開けれたらいいんだが……」
困った表情の電動ドリル先輩と悔しそうなプラスドライバー君。
ずっと横で見ていたマイナスドライバー君が、自分の体を見下ろします。ヘラのような形をした自分の体。
「僕、やってみるよ!」
マイナスドライバー君が体をねじ込むと、「えいっ」とてこの原理で押し開けます。
すると、なんてことでしょう。
あれだけカチカチだったカバーがいとも簡単に外れてくれたのです。
「ありがとう! マイナスドライバー君!」
「僕も、役に立てた!」
「よかったじゃないか!」
うれしそうなマイナスドライバー君。初めて見せるその輝きに、プラスドライバー君までうれしくなります。
「あとは軽く掃除してと……、よし、プラスドライバー君」
詰まりを掃除してキレイになった電動ドリル先輩がプラスドライバー君を呼びました。
「組み立て、お願いしてもいいかな?」
「……もちろん」
さっきまでの態度に、ちょっと照れ臭くなりながら、プラスドライバー君がネジを締め始めます。
全部締めきったら、僕も褒められるかもしれないと、ワクワクしながら締め付けた時。
「あ」
つい力んでしまって、滑ってしまいました。
恐る恐る、ネジを見てみます。
すると、溝が潰れてなくなっていました。
「プラスドライバー君!!!!」
「ひ、ひいいいい! 痛っ!」
頭を工具箱の蓋に打ち付けたプラスドライバー君は気が付きました。
「なんだ、夢だったのか……」
結露した冷や汗を拭って、ひと呼吸。
プラスドライバー君は、持ち前のプラス思考で考えました。
「電動ドリル先輩の掃除をしてあげよう」
それもまた、みんなで協力して。
だって、みんなの得意技は違うんだもの。
今度は、もっと落ち着いてやってみせるんだ。
最後まで読んでいただきありがとうございました。
夢オチなんて久々どころか初めて書いた気がしますが、優しく目をつぶってください。
お互いの能力をリスペクトして、協力できると、百人力になると思うのです。工具たちのように。
締りの悪い話はここまでにして、最後に一言。
この物語はフィクションです。現実では、工具は正しい用途かつ正しい作業手順で、安全に十分留意して使用しましょう。
以上!