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傲慢すぎたのが理由で王太子に婚約破棄されて断罪され、50以上も年上のごうつく爺の辺境領主に罰として嫁がされたという元悪役令嬢の昔語り

作者: 真昼

「……しかし、行き倒れとはねえ」


 あたしは目の前に倒れた男を見てため息をついたよ。

 山を何度も超えて、この魔女のところにたどり着いたにしては頼りない男だね。


「起きな! あんたどうしてここまで来たんだい!」


「あ、やっとたどり着きましたか、やれやれ」


 あたしは男が目を開けた途端、懐かしい想いに囚われた。しかし優しい顔立ちのこの男に見覚えなんてないよ。おかしいねえ、でもどこかで会ったような気もしないではないんだ。


「なんでも願いを叶えてくれる魔女さんですよね! 私はあなたのところに弟子入りに来たのです!」


「はあ?」


 この婆を馬鹿にするのもいいかげんにおし、あたしは行き倒れを蹴り飛ばし、あんたみたいなやつを弟子になんかするわけがないさとさっさと小屋に入ったね。


「怒らないでくださいよぉ」


「……叶えたい願いがあるってのは本当のようだね、この中に入れるってことはさ」


「そうなんです。願いはあるんですよ」


 願いがあるとしたら、弟子入り? とかふざけるんじゃないよとあたしはため息をついたね。

 魔女の婆を馬鹿にするような男はいまだかっていなかったからさ。


「……あなたがお探しの人の情報を対価にするというのではどうでしょう」


「あたしが探している人なんてね、もうしばらくはこの世界にはあらわれないのさ、あたしはそれをしってるんだよ」


 あたしはそれをしっていた。

 だってね、あたしは人の生まれ変わりがわかる能力があるんだ。


「でもそれが絶対ではないですよ」


 あたしはどこかに行きなとしっしと手を振ると、絶対に出ていきませんと男は頑張る。

 そしてあたしは仕方なくこの男を小屋に置くことにしたんだよ。飽きたら家に帰るだろうと思ってねえ。



 数日たったが、この馬鹿は帰る気配はないね。

 あたしは魔女だというのに恐れる様子もない。


「願いは何だい! 叶えてやるから早く言うんだよ!」


「……そうですね、昔であった優しい青い目をした女の子に会いたいです」


「あたしをからかっているのかい!」


「からかってませんよ」


 しかしこの男、あたしのいちいち気に障るやつだ。

 あたしはね、あたしをからかうやつが大嫌いなんだよ。


「青い瞳がきれいだったでしょうね。今はもうない」


「あんた、過去視の力を持つのかい?」


「……あなたがそう思うのならそれでいいですよ」


 男はへらへらと笑う、しかし叶えたい願いってのはなんだろうねえと思う。

 しかしどこかで会ったような気もするんだよ。しかし思い出せない、あたしも耄碌したもんだね。


 あたしはね、昔傲慢すぎるというのが理由で悪役令嬢と言われた女だったのさ。

 もう王太子とやらの顔も覚えちゃいないがね。

 あたしは罰として嫁がされた50歳以上も年上の旦那様に出会って、愛というものを知ったのさ。


「クリストフ……」


「あんた!」


「クリスと呼ばれたらしいですね」


 あたしは男をにらみつける。いやもうこの婆の目はないから、魔力で吹き飛ばそうとしたってのが正しいけどね。


「あんた、なんなんだい! 旦那様はもういやしない。その魂はまだ黄泉にいるはずなんだ!」


「……それは違います。あなただけが苦しみ、あなただけが嘆くなんて間違っていませんか? あなたは十分苦しみました。そうですね……」


「わかったあんたの正体……もう二度と来るなといったはずだよ悪魔! あたしはね、ここから離れるつもりはないんだ!」


「ばれましたか、あはは、悪魔は昔天使だった、奴らを真似てみたのに、失敗失敗」


 相変わらず食えないやつだ。あたしは目の前にいる男を思い出していた。

 いや正確には人間の形を真似るだけのやつさ。

 それは悪魔。


 いつもいつもこの男は、あたしをからかいにやってくる。


「あなたはもう立派に闇の仲間だ、我々の住まう煉獄にきてもいいはずですよ!」


 黒いローブを着た闇の魔法使いの格好をした男は笑う。

 いつも姿を変えて現れ、あたしをからかい、そしてあちら側に誘うんだ。


「ごめんだね、あたしは絶対にあんたたちの仲間にはならないさ!」


「悪役令嬢にふさわしい場所だと思いますが」


「うるさいよ!」


 あたしは昔、愛した旦那様とともに暴徒に襲われ、旦那様はあたしをかばって死んだのさ。

 あたしはそれに絶望し、語り掛けてきたこの男の手を取った。


「あんたは旦那様を助けてくれやしなかった!」


「……いやだなあ、魂は助けました。ほら転生するたびにあなたに出会う。そしてあなたは苦しみ続ける。あはは、とてもいい絶望です! あはははは君を苦しめたあのバカ王太子以上の絶望だ!」


 あたしはこいつに騙され、旦那様が転生をするたびにあたしは旦那様を探してしまう。

 そして旦那様とは違う生まれ変わりに絶望するのさ。

 そして、こいつはあたしを断罪とやらした王太子も破滅に追いやった。それはあたしは何とも思わないがね、あいつが殺されても何も感じない、あの時はざまあみろと思ったことはあったがね。


「ほら、次の君の旦那様はまたあと十年後に生まれ変わる。ランスの地において、ただの村人として!」


「……消えな、悪魔!」


 あたしが力を放つと、悪魔が笑いながら消えていった。

 あたしは目を対価にして悪魔から魔力を手に入れた。

 でもねえ、あたしはちっとも幸せじゃないさ。



「おばあちゃん大丈夫?」


「はい、大丈夫ですよ」


 優しい青年があたしに手を貸してくれる。あたしは杖を突きながら歩いている。

 年頃は20歳ほどといったところ、隣には優しそうな娘がいた。青い目がとてもきれいな……。


「ありがとうね」


「いいえお気をつけて」


 あたしは青年と娘にありがとうと別れを告げる。

 旦那様、青い目の娘がお好きならここにもおりますのに、いえそれは昔の話。


「あなたはもう立派にこちらの仲間ですよ」


「煩い」


 ああ、旦那様、愛しいあなた、今世のあなたは優しい人ですわ。

 醜い魔女、あちらに行け! と私を追い払うことはしませんでした。

 青い目の娘と幸せそうに微笑みあうあなたはとても幸せなのでしょう。


「あなたは今世もあなたがあなたということを告げないのですね」


「決まってる。あたしは旦那様が幸せならそれでいいのさ、その魂が幸せであればいい」


「本当に?」


「あんたにはわからないだろうさね……」


 愛する人の幸せを祈り、あたしは今日も旦那様を探し続ける。

 あたしは昔、悪役令嬢と言われてね、顔も忘れた王太子に婚約破棄され、罰として辺境領主に嫁がされ、絶対に相手にしてやるもんかと思ったが、とても優しい旦那様を愛してしまってね、彼に愛された青い目の娘だったのさ。

 旦那様の愛した青い目はもうここにはない、愛した青い目の娘はもういない。 

 ただの目が見えぬ醜い老婆がいる限り、青い目はもう……悪魔にやってしまったのさ。

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