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和風ファンタジー&現代恋愛

僕の彼女は元、人外。

※2022年5月。エブリスタ様「超・妄想コンテスト"私にしかできないこと"」に別名で参加した作品です。

 ガタガタと渋る雨戸を戸袋に押し込むと、座敷は全面明るくなった。


 幼いころ何度か来たことがある、祖父母の屋敷。

 たったひとり家に残っていた祖母が施設に入ってから数年。

 最後の主が戻ることなくこの世を去った今、居住者不在のこの家を片付ける運びとなり――。

 時間があるだろう大学生の僕が呼び出された。


 血縁者が交代で、何人かで整理していく、そんな状況。


 でも今日来てるのは叔母さんふたり。


 力仕事系、全部こっち回ってきそう。ハハ……。


 広い畳の部屋を見ていたら、昔を思い出す。


 僕がうんと小さい頃は、法事も本家でやっていた。

 なんとか会館、とかに任せず、お寺のお坊さんを呼んで、仏壇前に親戚一同集まって。

 三部屋続きの座敷には、座布団と脚付きお膳が並んだっけ。


 庭では季節を告げる木々が、青い葉を揺らしてる。

 手入れされてないから、ずいぶんと(すた)れちゃったけど、懐かしいな。


 法事なんて、子どもからしたらイトコたちとの合宿(?)みたいなもので。

 かけっこ、鬼ごっこ、いろいろやった。

 かくれんぼした時は、誰だったか泣いちゃった子もいたっけ。

 



 ……ヒック、ヒック………




 そう、こんな感じで押し殺したみたいに……。

 えっ!?


 驚いて周りを見回す。叔母さんたちは台所を片付け中だ。他には誰もいないはずなのに。 

 

 ヒュンと冷たい何かが背中を走った。暑くもないのに汗が拭き出す。


(なんだ? 幻聴か?)


 だけど幻聴がこんなに長く続くだろうか? そしてこんなに明確に耳に届くだろうか?


(いやいやいや、待ってくれよ?)


 逃げたい足を必死に留め、恐る恐る泣き声を探った。


 押し入れや天袋、そっちの方から──。


(嘘だろ……)


 猫か何かであってほしい。

 限りなく人の泣き声っぽいけど。しかも子どものような声だけど。


 そっ、と、押し入れを開けた。


「!!」


 なっ──!!


 おかっぱ頭の女の子が、いた。

 ちゃんちゃんこ羽織った、着物姿の幼い子が、しゃがみ込んで泣いていた。


(なんで──)


 思考が真っ白になる。その子が、僕を見上げてポツリと呟いた。


「あつきくん?」


 どうして僕の名前を知って……「リッカちゃん!?」


 とっさに自分の口から出てきた言葉に、いっきに記憶と理解が追いついた。

 ペタンと腰を落とす。


(そうだ、彼女はリッカちゃん。昔、ここに泊まりに来るたびに一緒に遊んだフシギな子……!)


 大人たちには見えない。

 遊んだ時だけ覚えてるけど、別れた後は忘れてしまう。

 そしてそれを今、ひといきに思い出した。

 

 いまなら分かる。彼女の正体が。


(座敷わらし)


 旧家の神霊で、家の守り神。座敷わらしが住む家は栄えるという、有名な童子。


 でも誰もいなくなった家に居続けるなんてこともあるのかな?

 どうして、引っ越さなかったんだ? 寂しかっただろうに。


「引っ越せないの。あつきくんに私の名前、教えちゃったから。私たちは名乗ってしまうと、相手が迎えに来てくれるまでずっと、家から動けない──」


 僕の心をするりと読んで、リッカちゃんが答えをくれた。


 思考を覗かれたのに、嫌な気持ちはしなかった。

 逆にすごく申し訳なく感じた。


 そんな大切な名前を、僕に教えてくれていた彼女にびっくりもした。


「あつきくんは特別だから」


 涙の残った顔で、リッカちゃんがニコッと笑った。


 長く生きる彼女の時間(とき)の中で、僕とは格別気が合ったらしい。


「あつきくん、私を連れ出してくれる? あつきくんにしか出来ない」


 僕にしかできない?


 ということは、つまり、ずっと僕を待っていたって意味?

 十数年も。


 この家が無人になってから、もう随分経つ。いつから泣いてたんだろう。


 僕にとってもリッカちゃんは特別だった。特別可愛くて、特別好きで。勢いで、プロポーズしてしまったくらいに。


(5歳でプロポーズとか、何考えてんだ、僕)


 でもよくあるよね? 子どもの頃って結婚の約束しちゃったりするよね?


 恥ずかしさで火照(ほて)る顔を手で隠しつつ、反射的に頷いていた。


「ありがとうっっ!!」


 飛びつくように首に抱きついて来たリッカちゃん。


 そこへ。


篤紀(あつき)君、ご苦労様。お茶()れたけど、一緒に飲まない? あら?」


 叔母さんのひとりが来てしまった。


 あ、あわわわわ。リッカちゃんをどう説明すれば!?


 リッカちゃんからまわされてた手は、すでに外れてる。


 落ち着け僕、大丈夫だ。叔母さんにはリッカちゃんは()えないはず。


「まあ、篤紀君。彼女さんと来てたの? それなら紹介してくれなくっちゃあ」


 叔母さんは面白がるように僕を見た。


(ええっ、()えてるの???)


「初めまして。ご挨拶が遅れて申し訳ありません。六華(リッカ)と申します」


 綺麗な声に驚いて振り返ると。


 目も覚めるような美人さんが、僕に揃って座ってた。

 すらりと長い手足、透けるような白い肌、(つや)やかな黒髪の、大人の女性。


六華(リッカ)ちゃん?)


 いつの間にか、清楚なワンピース。マ、マジカル──。




 座敷童は、名を交わした相手と()うことで、姿を変えて家から離れる。

 

 そう、後から彼女に教えてもらったのだった。





             《おしまい》




お読みいただき有難うございました!

挿絵(By みてみん)

間に合わないので仮絵で。

同作品をノベプラ様でも公開していたりします。

作中の四季が新緑! なははは。


追記:

戸籍についてのご質問をいただきました。

あやかし向け人界Iターン支援で、記憶や戸籍改ざんを受け付けてます。

ノベプラ様でも聞かれたのですが、やはり気になるポイントですよね~(苦笑)

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― 新着の感想 ―
[一言] 成る程、確かに人外……! それにしても永い間主人公を待ち続けたリッカちゃんの一途さに感動しました。自分の名を伝えればどうなるかわかっていても、きっと伝えずにはいられなかったんでしょうね。寂し…
[気になる点] え?戸籍? 気になるのかぁ……(^_^;) 魔法でなんとかなるなる! [一言] 名前を教えてしまうと、その人が迎えに来るまで家から出られなくなるって、かなりつらい縛りですよね。 それで…
[良い点] リッカちゃんが健気でとっても可愛いです♡ ラストで二人が結ばれて本当に良かった……! 後書きのイラストも眼福です(*´꒳`*)♪ 素敵なお話をありがとうございました(✿ᴗ͈ˬᴗ͈)⁾⁾
2022/11/29 08:01 退会済み
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