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旅の記憶 さすらい雲   作者: 報苔京
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記憶の中の旅日記「Be ambitious♪ フムフム」

「Boys be ambitious 」

 ウィリアム・クラーク博士による有名な言葉。

 札幌の羊ヶ丘公園には少年達を引き連れ、さらに山の頂上を指差して「少年よ、大志を抱け 」と諭す博士の銅像がある。しかし、正確には博士はこう呟いたのだと伝わる。

「Boys be ambitious like this old man」

「少年達よ、大きな使命感(野心)を持て。この老いぼれのようにな…」

 つまり山の頂上を指さしたのではなく実際は自分を指差したのだ。

 それはアメリカ政府からの帰国命令に従い、札幌を離れる前日、農学校生徒達との別れのシーンだった。

 明治初期、クラーク博士がなぜ日本に札幌に来ることになったのか?

 明治維新文明開化したばかりの日本国民に、何を箴言したかったのか?

 政府の要請によりマサチューセッツ農科大学初代学長に就任した博士は志半ばで南北戦争に参加することになり学者としてのキャリアは一旦中断することになる。

 国の要請によりアメリカ国内の農業政策に従事していたにもかかわらずだ。

 戦後博士は戦争により荒廃してしまった農園を見ながら理不尽さにやるせなさを感じていたらしい。

 そんなとき、前職のアマースト大学で教えていた日本人留学生新島襄(同志社大学の創始者)より、日本政府の農業政策指導を嘆願されていたので、意を決して1876年7月に札幌農学校の実質校長として赴任することになる。

 マサチューセッツ農科大学を1年間休職してまでの訪日だった。

 博士はなぜその要請を受け入れたのだろう?

 博士の伝説によると、南北戦争が国内で起きた原因は、世界においてアメリカが一強巨大国過ぎるからなのだと感じていたらしい。

 世界のどこかにアメリカに並ぶ豊かな巨大国家が必要、そうすればアメリカ国内でこんな争い事をしている余裕などなくなるはずだと。

 その為に、新島襄との縁もあり、また日本の歴史に興味も湧き、アジアの名もない明治維新開国間もない国の要請を受け入れたらしい。

 アメリカを内紛のない豊かな国にするために豊かな国をアメリカ以外に造る。

 なんという発想、なんという壮大な野心なのだろう。

 しかし、結果半世紀後には日本は世界における巨大国になりすぎて、アメリカと覇権争いを起こすことになるのではあるが、博士はそこまでのイメージはできていなかったのだろうな。

 それはなんとも皮肉な巡り合わせともいえる。

 そういえばもうひとり、札幌には有名な外国人がいた。

 日本での宗教活動を命じられたサラ・クララ・スミス女史。

 彼女も日本での布教活動を命じられたのだが、おそらくクラーク博士のイメージがあったのか、札幌を拠点にした。

 何度か日米を行き来するうち、1889年にライラックの苗を札幌に持ちこみ、その愛らしさゆえにあっという間に街中に拡がった。

 その後日本ではフランス語読みのリラと呼ばれるようになる。

 そしてこれまた残念ながら日米は戦争に突入。

 欧米の花を大切に育てているとは何ごとか?理不尽にも即刻伐採命令が下る。

 花に罪はない、悩んだクララ女史は苗木の何本かを学校内の植物園に隠すわけだ。

 北海道植物園には、この苗木から育った日本最古のライラックが存在する。

 これもまた良い話ですよね。

 札幌大通り公園は五月初旬から桜とライラックがバトンタッチするように彩りを輝かせる。

 

 そんな二人の運命と野心の物語を記念館で読み解くうちに、なんとも自分の歩んできた道程を思い返してしまった。

 あっという間に良い歳になってしまったが、振り返れば、後輩達にしっかり背中を見せて生きて来れたのだろうか?

 使命感を持ち続けていられたかなぁ?

 だよな、野心に歳は関係ないんだもんな。

 心に突き刺さる名言に触れ、落ち込みながらも、 「♪ Be ambitious 我が友よ 挑戦者よ♪」と他人事のように口ずさむもうひとりの自分も存在し、心の片隅では今夜の定山渓温泉の湯の香りと酒の喉越しに夢膨らませているのも事実であった。

 さてと日も暮れてきたし喉も渇いたし、バス乗り場に急がなきゃカッパ大王とのホテル夕食会に遅れちゃうよ。

     (札幌・定山渓温泉、竹秋)

挿絵(By みてみん)

挿絵(By みてみん)

挿絵(By みてみん)

挿絵(By みてみん)

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