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旅の記憶 さすらい雲   作者: 報苔京
30/66

記憶の中の旅日記「老舗なんだから、頑張って」

湯煙で  展望見えず  老舗街

 

 大分の別府といえば老舗の温泉地。

 子供の頃親に連れてきてもらったことはあるが、温泉タマゴしか記憶にない。

 この街には10年ほど前に仕事の都合で昼間の数時間訪れたこともある。

 淡い2回だけの記憶なのだが、すっかりさびれたなーと感じてしまった。

 そんな繁華街の閑散とした石畳を歩いていくと、奥まったところに目的の寿司屋があった。

 暖簾をくぐり、手始めのビールを呑み干しながら主人に景気を尋ねてみる。

「大分の観光客は湯布院にみな持っていかれましたよ。この冬も暇でしたわ」

 寂しそうに笑った。

「この際だから別府という地名から何から全て名前変えてみたら?なにしろ、ほら日本人は新しモノ好きだからさ」

「お~、それは名案ですね」とまた寂しく苦笑い。

 1時間ほど刻は流れたが客足は案の定閑古鳥。

 この数年、リーマンショック後遺症で経済はガタガタ、仕事も生活も先行きも不安だらけだった。

 振り返れば、暗闇の中で疲労感だけが溜まり、心の大半は逃げたくて逃げたくて、毎日毎日、仲間達と言い訳け酒をひたすら呑んでいた。

「ほんのり景気回復の灯りは見えて来てるよね、もう少しの我慢かもね。よし、大将、では次は大分の地酒ちょうだい、辛口ね」 

「はいよ、千羽鶴、これ美味いですよ」

 そんな不安や愚痴を大将と二人思いっきり語り合っていると、カウンター越しのラジオから「達磨」という楽曲が流れてきた。


♪♪♪

 流れ険しき川なれど

 魚は休まず遡る

 岩肌に傷付いても

 明日に生命いのちを繋ぐため

 まして人間ひとならば

 辛くても夢を持て

 忍ぶ人生は心の刃

 叩かれ強くなる

♪♪♪


 好きな歌だったので口ずさんでいると、大将も一緒に口ずさんだ。

「おっ、知ってるの?達磨」

「永井龍雲ですよね。良い歌ですよね」

「だよね、沁みるねぇ、歌も酒も」

 コップ酒半分ほどを一気に飲み干した。

「龍雲は隣町の出身なんですよ。福岡のみやこ町。私は飯塚ですから」

「飯塚ですか、ヒヨコ菓子発祥の地だね」

「よくご存じで(笑)」

「そうかぁ、達磨人生かぁ。だよな、耐えるしかないよなぁこの不景気も。男なんだから」

 そう呟くと、一緒に聞き入っていた大将もニコッと笑った。

 時計に目をやり、よし勘定と席を立ち上がると、もう一杯どうです?と大将からのご提案。

「ご馳走しますよ、良い話聞いたので」

「それはそれは(笑)よっしゃ、達磨人生だぁ、腰を据えるか」

 お姉さん付きの二件目を諦めハラを据えてどっしり座り直した。


♪♪ いばら人生はひと山超えて 

           情けの実を付ける ♪♪


 そんなこんなで美味い酒だった。

 老舗という歴史の沁みるような重みも十分堪能した。

 ほろ酔い気分で店を出て曲がり角で石畳を振り返ると、そんな老舗の看板が湯煙でかすみ少しずつ少しずつ見えなくなっていく。

 ボケットからタバコを取り出し達磨人生を口ずさみながら寂しく深呼吸した。

「ふぅ~、また来るよ、つぶれんでくれよな!」


♪♪ 達磨人生は いつか必ず

         目が入り 花開く ♪♪

           (大分・別府、淋春)

挿絵(By みてみん)

挿絵(By みてみん)

挿絵(By みてみん)

挿絵(By みてみん)

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