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旅の記憶 さすらい雲   作者: 報苔京
19/66

記憶の中の旅日記「ちょっと調子に乗りすぎた、反省」

 新幹線に飛び乗った。

 目指すは姫路。

 世界遺産姫路城の探訪は後回し、姫路の奥座敷と一応観光ガイドに書いてある塩田温泉に向かった。

 有名な温泉巡りが一巡したわけではないのだが、最近のマイブーム(もう死語かな?)は、それなりに大きい温泉宿に自分ひとりだけが泊まっている、そんな宿を探して泊まること。

 つまり、その夜は、ボクだけのために暖を焚き、部屋の掃除をして、風呂を磨き、食材を用意し、料理を作る。

 もちろん中居さんもボクだけのために待機するわけだ。

 これはまさしく優越の極み、至福のお殿さま気分が満喫できる。

 この奥座敷というキャッチ、まず間違いなく寂れているはず・・・。

 前もって予約はしておいたのだが、岡山をでるとき到着予定の電話をいれてみた。

「それでしたら姫路駅までお迎えにまいりますよ」

「ほかにお客さんでも?」

「いやちょっと用事もありますので・・・」

 そっかぁラッキー!

 なにしろ駅からバスで40分もかかる山奥なのだ。

 駅前ロータリーにでると、指定された場所にワゴン車が待っていた。

 姫路城の脇を抜け 以前訪ねた書写山を左に眺めながら川の上流へと車は進んでいった。

「今日はどう?お客さんいっぱい? 」

 とりあえずはヨイショしてみた。

「いゃあ今夜は空いてますよ」

 心の中でにんまりした。

 宿に到着、リサーチ通り老舗の旅館、一帯の元湯でもあった。

 玄関先の雰囲気で間違いなく客は自分だけと確信した。

 部屋で中居さんに念押し確認すると、おひとりで満喫してくださいと苦笑いされた。

 浴衣に着替え窓を全開。

 広大な敷地の庭は、おそらく晩秋には絶景になるであろうもみじが少しづつ準備にとりかかっている。

 そのもみじの先に階段があり、さほど塀の高くない敷居の露天風呂スペースがふたつ用意してあった。

 さー至福の時を満喫するぞぉ!

 下駄を鳴らしながら庭の階段をかけあがった。 そして露天風呂の入口の女と書かれた赤い暖簾を、当たり前のように左手で跳ね上げ風呂に飛び込んだ。

 大の字になり湯舟に浮かぶ。

 これがたまらんのだよなぁ~。

 ふぁ~、とはばかることなく大声をあげた。  

 タオル一枚腰にまき今度は男風呂へ移動。

 よし、食事終えたら寝る前にもうひと風呂だな。

 案内された夕食会場には 予定通りボクだけの膳がセットしてある。

 配膳にくる中居さんとバカ話しをしながらおいしい料理を堪能した。

 ほろ酔い気分で夜はふけた。

 零時前ひと風呂あびに立ち上がる。

 部屋をでると廊下は薄ぐらい。

 当たり前ではあるが旅館全体が静まりかえっている。

 縁側から庭先に出ようとすると、露天風呂までの階段に、これまたほんのりと燈籠の明かりだけが道しるべになっていた。

 ふと思った。

 うーん、なんか怖いなぁ。

 久しぶりに子供のような心境になる。

 なにしろ靄が立ち込めほんとに薄気味悪いのだ。

 思案したあげく腰が引け、結局部屋に引き換えした。

 それからというもの、朝方まで庭木のざわめきや廊下の軋む音が気になって寝付かれなかった。

 なんという情けなさ。

 寝ぼけまなこで朝食をとりながらつい苦笑いした。

 次はやっぱり少しぐらいは客のいる、少しぐらいは陽の当たっている宿を選ぼう。

 まるで子供のような反省をしてしまった。

      (姫路・塩田温泉、秋霜)

挿絵(By みてみん)

挿絵(By みてみん)

挿絵(By みてみん)


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