記憶の中の旅日記「嘘つきを調整返上!」
この数年、嘘をついていたことがあった。
それは、ちょうど2年前、香川の琴平温泉に泊まった時から始まった。
高知から高松に移動する途中、どうせなら温泉に泊まってやれってことで、琴平で下車したのだ。
飛び込みで泊まった宿は数組しか客がいない。
露天を満喫し、それと、みんな部屋食なのか夕食の会場も一人だった。
ということで、配膳の中居さんを独占状態、そのうち仲居さんも慣れてきて、横に居座り世間話と金比羅さんの話で盛り上がった。
金比羅神宮は海の守り神。
全国の海を仕事場とする人たちが年に1度はお参りに来る。
雑学好きのボクは、ある意味地元の人より詳しい部分もある。
「なんで金比羅さんは海の神様なんだと思う?」 おもむろに中居さんに尋ねた。
「いやー、私、実は地元じゃないんですよ」 「そうかぁ、じゃあ教えてあげよう」
いつもの調子で自慢げに語りを始めた。
「金比羅さんの頂上からは瀬戸内の海が見渡せるでしょ!港もみえる。琴平の地元のオンナ衆はオトコたちが漁に出ると、毎日この神社にお参りにくるんだ。無事で帰りますように、大漁でありますようにってね。そして約束された帰港の日、オンナ衆たちはお祈りしながら港の方に目を凝らす。すると、白い帆をかかげて出て行った舟たちが、帰りは真ん中にでっかく宝の文字を描いた帆に付け替えられている。オンナ衆たちは大喜び。みんな無事なんだ、大漁だったんだ・・・とね。風習というか約束事だったんだろうね、宝の帆は。そして階段を駆け下り、急いでお祝いの宴の準備をするんだよ・・・・」
九州出身の中居さんは目を丸くして聞き入っていた。
「・・・七福神を描いた宝船知ってるでしょう。これが由来なんだよ。そして宴たけなわになると、オンナ衆が踊りだす。ほらあの唄・・・」
「こんぴら ふねふね おいけに帆かけて しゅらしゅっしゅしゅ・・・ですね」
「そう。だから金比羅さんは海の守り神になったんだな」
ちょっとアドリブが入ってしまったのだが、本筋は間違ってないはず。
冷酒をぐいっと流し込み、さらに自慢げに唄を歌ってみせた。
「回れば四国は三州なかの郡・・・・・」
中居さんが手拍子を添えた、
「金比羅さんには上られたんですか?」
「明日早めに起きて上ってくるよ。二日酔いじゃなきゃね」
翌朝、早めに目覚ましをセットした。
階段を上り始めた。
本宮まで8百段近くある。
秋めいたとはいえ、朝日は残暑を織り込んでいた。
革靴の指先が痛い。
体中から汗が吹き出る。
5百段あたりでは足も吊ってきた。
まっ、いいか。
宝仏殿まできたし、あとは景色だけだろうから上ったことにしよう。
なにしろ午後から仕事があるんだから。
引き返し、ひと風呂浴びて宿をチェックアウトの準備をすることにした。
「結構きゅうな階段だねぇ。足が吊りましたよ」
「早かったですね。頂上に堀江謙一さんのヨットが奉納されてましたでしょ!」
「あの世界一周の堀江さん?」
「気づきませんでした?」
「急いで回ったからね」
まずいなぁ、こりゃあ!・・・・ ということで、あれから2年がたっっていた。
ちゃんと景色も見たし、ヨットも見た。
近くで週末の歌舞伎公演の準備をしていた。
有名な芝居小屋があることもわかった。
やれやれ、これで安心して宝船の由来を話せるよ。
(琴平金比羅、夏)




