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旅の記憶 さすらい雲   作者: 報苔京
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記憶の中の旅日記「ひねもすのたり」

 双海シーサイド公園。

 ここから見る夕日は日本一なのだとコマーシャルしてある。

 夏の瀬戸内海は長閑である。

 人も土地も時間も風もゆっくりと流れている。

 波静かな海原には、数え切れないほどの小島が、まるで飛び石のように浮かんでいる。

 浜辺の木陰に寝転がり、キラキラ輝く島々を見渡すと、ただ、のたりのたりと時間が過ぎていく気がした。

「瀬戸は日暮れて夕波小波♪♪」

 ふと懐かしい瀬戸の花嫁を口ずさんでしまった。

 そうか、小さな舟に乗って島から島へと嫁いでいったんだなぁ。

 瀬戸内を舞台とした映画もたくさんある。

 例えばセカチューの舞台。

 古くは二十四の瞳、瀬戸内少年野球団。

 それに源平合戦・義経活躍の舞台でもある。

 全てがノスタルジックで、ウエットさのないさわやかなイメージが思い浮かぶ。

 市場でおいしいサカナに出会った。

 名前はホタルジャコ。

 愛媛名物じゃこてんの原料。

 数センチほどの赤い身体は、瀬戸内の夜の海をホタルのように生息している。

 こんな小さな身体で警戒心もなくキラキラ光を放っていては、大きなサカナの餌になってしまうのも当然だろう。

 当地の呼び名は「はらんぼ」、宇和海に生息する「ほたるじゃこ」と呼ばれるスズキ科の小さな深海魚である。

 腹から尾にかけて発光することから「ほたるじゃこ」と呼ばれるようになったようだ。

 小さな魚なのですり潰して練り身(じゃこ天)にするのが一般的な食べ方なのだが、特別に用意してもらったこの「はらんぼ」の刺身がまた格別に美味い。

 そんな無邪気で無警戒なサカナを、ボクは邪念や先入観を棄て真摯な心持でそっと口に頬張った。

 それが、この雰囲気とこの自然の恵みに対する礼儀であるような気がしたのだ・・・。

 しかしまあ、夏の瀬戸内海は本当に長閑なのである。

 人も土地も時間も風もただただゆっくりと流れている。

 決して身構えることなく、ある種無警戒に全ての自然と同化しているのだ。

「そんなに生き急いでどこに行きたいの?」

 乾いた風が頬を撫で、そう語りかけてくる。  

 目を閉じた。

 夕暮れ間近の木漏れ陽が身体中に降り注いでくる。

 そんな、人やサカナや土地や時間や風の中に、ボクの全ても同化していった。

 もう少したったらゆっくり目を開けてみようか。

 日本一の夕日に、きっとボクの全てが包み込まれているはずだ。

      (愛媛・瀬戸内、初夏)


挿絵(By みてみん)

挿絵(By みてみん)

挿絵(By みてみん)


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