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朱雀院  作者: 夢野ユーマ
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くちなし姫

おはようございます。

春宮は古『いにしえ』の内大臣の孫娘を後宮に迎えたらしい、とすぐ噂になった。


源氏の君は、すぐ対面したいと申してきたが、朧月夜のことがあったので、一条がつっぱねた。

右大臣と頭の中将は祝いの品を持参して、挨拶にうかがった。

右大臣は帰り際に「あまり、お綺麗ではないの」と、少しさみしげに言った。

また、頭の中将は「良いお方が見つかり、よろしうございました」と言ったが、心がこもっていなかった。


春宮は彩子に、「祝いの品は全てそなたの財産となさいまし」と仰せになった。



人々は「春宮はお妃のかかり『費用』を全て、ご負担なさっているらしい」と噂していた。

「お妃を金で買った」と悪しざまに申す者もいた。


そんな中、初冬ぐらいであろうか。珍客があった。


一条が、春宮と彩子と髭黒のところに報告に来た。


「あの・・・お珍しいお客人がいらっしゃいました。先代の帝さまのゆかりの方とは申しているのですが・・・」


春宮は、祖父の帝と先代の帝を尊敬していたので、「お通し申し上げよ」と仰せになった。


すると、太った年配の女性と若い女性が入って来た。太り、年を重ねているが、若い時の美しさの名残があった。

また、若い女性はかなり美しい女性であった。


こんな美しい女性が、源氏の君や頭の中将に荒らされず、残っていたのか、と春宮はお思いになられたが、次の瞬間に若い女性が言葉にならない奇声を上げられた。


「おひいさん、おやめなさいまし。お許しを。私は先代の帝にお仕えしていた者にございます」


ああ、と春宮はお思いになられた。この女性『にょしょう』は先代さまの召人『めしうど』であったのであろう。そして、姫宮をお産みになられたのであろう。しかし、姫宮は御不自由であらせられたのじゃ。


一方、一条も思っていた。ある田舎の富豪にとても器量の良い娘がいたと言う。しかし、その娘は米を食べず、栗だけを食べていたので、親は結婚させなかったと言う。その娘もきっと、おひいさんのような気の毒な境涯であったのだろう。


「畏れながら、そちらの女御さまは春宮さまにお世話になっているとうかがいました。私のおひいさんは何かの役に立つことは出来ないかも知れませぬが、殿下のお慈悲で生かしていただけないでしょうか?」


「今はどうなさっているのですか?」

「畏れながら、おひいさんは、皇后藤壺の宮さまの妹にあたられます。しかし、藤壺の宮さまの皇子が大きくなられれば、おひいさんも邪魔になりましょう。また、宮さまのところに出入りしている源氏の君が怖いのです」


年配の女性はキッパリ言い切った。春宮と一条は納得した。彩子と髭黒は、どう思ったか、分からないが、拒める立場ではなかった。


「分かりました。お引き受けいたしましょう」


春宮は先代の帝に限らず、皇族を尊重する気持ちが強かったので、姫宮のめんどうをみることを受け入れた。


姫宮は源氏女御『皇族出身の女御と言う意』と呼ばれた。源氏女御の母は別当と言った。


また、彩子は春宮即位後は承香殿『御所内の建物』の女御と呼ばれることになった。



そして、一条にもとんでもない運命が待っていた。


一条は母后に呼び出された。


「何でございましょうか?」

「一条よ・・・そなたは女童『めのわらわ』の時から、春宮に仕えている。単刀直入に言うが、春宮に入内して欲しい・・・后妃としての費用はわらわが出す」

「!!」

「二人の女御と言っても片方は落ちぶれきって、そんなに美人でもない。源氏女御は美しいと言っても『かたわ』じゃ。そなたが、入内して春宮を支えてやってたも・・・」

「・・・分かりました・・・」



一条は彩子と源氏女御のいる部屋に戻って来た。


「一条殿、太后さまの御用は何だったのです?」

「入内するよう言われました・・・」

「!!・・・それで、受け入れたのか?」

「はい・・・これは彩子さまにだけ打ち明けるのですが、昔、月のものが初めて来た時、両親に田舎のお金持ちと結婚するよう言われたことがありましたが、断りました」

「殿下がお好きだったからか?」

「いいえ、御所さまをそういう目で見たことはございませぬ。ただ、田舎より都、御所が好きで、働くことが好きだっただけでございます」

「ほほ、問うに落ちず、語るに落ちている。御所で働くのが好きと言うことは殿下がお好きと言うこと。そなた様は美人じゃ。その気になったら、源氏の君のところに奉公に行くことも出来たであろ?」

今まで、描写していなかったが、一条は健康美で、朧月夜や藤壺の宮にも劣らぬ、美しい女人であった。その一条は彩子の言葉を聞いて、顔色を変え、彩子の袖をつかんだ。


「女御さま、これから申すことは誰にもお話にならないで下さいまし。もちろん、御所さまにも」

「わらわには家族もいなければ、家人もおらぬ。話しようがない」

「源氏の君は、まさに私に召人になれと仰せになったのです。それを聞いた私は・・・何だったのかは忘れましたが、持っていたものを源氏の君に投げつけ、御所さまの部屋に逃げました。源氏の君は・・・葵の上や六条御息所さまの女中頭も召人にしているのでございます。また、受領『地方官』の家に逗留して、夫人と娘の両方『空蝉と軒端の荻のこと』を犯したことがあるのです。あちこちに奉公している兄弟姉妹に聞いたのでございます。私は、あの方が大嫌いでございます!!」

一条は感情が激して、彩子の胸で泣いた。


「大丈夫じゃ。我らの御所に、あのお方の居場所はない・・・」


こうして、春宮は三人の妃を迎えることになった。一条は春宮と源氏女御に仕えようと決心した。

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