残されたものたち
女一の宮も、妹二人の不運に心を痛めていたが、同時に自分は結婚ではなく、仕事を選んで良かったとも思っていた。
朱雀院の後宮の女たちは、「夫」を喪い、尼となった女三の宮を哀れみ、いたわった。
女三の宮は、そんなにつわりなどは無く、一人の男児を出産した。
一条と朝顔の姫宮が、若君を院の見参に入れる時、「とても不思議なことがあります」と奏上した。
朱雀も、お気づきになられた。赤児から、不思議な芳香がただよっていたのである。
「不思議な・・・この子は建前上は光の君の御子、薫と名づけよう・・・」
薫と、帝の三の皇子匂宮は祖父である朱雀のもとで育てられることになった。
「赤子ですが、柏木に似ておりますな」
五十日の祝の時に、朧月夜が申した。
他の女君たちも同調した。
薫と匂宮の誕生の慶事のかげで、朱雀は柏木と紫の女王さんの供養を熱心に行っていた。柏木は親子ほど年が離れているが、院の叔母の四の君の息子であり、従弟にあたる訳である。
また、紫の女王さんは、六条御息所、薄雲女院と同じく、女人の厄年の三十七で薨去してしまった。
源氏の君は、やはり、女子『おなご』の運気をすいとる男だった。
二人の往生を朱雀は念持仏に熱心に祈っていた。
そして、薫の誕生より少しさかのぼることになるが、柏木の四十九日が明けると、柏木の弟の紅梅が参内して来た。
「本院さま、世の中をお騒がせしたこと、お許し下さいまし」
「うむ・・・」
「世間の者は、太政大臣家はもうおしまいと申しております。兄、柏木が自殺し、おもうさんとおたあさんは落飾・・・しかし、まだ、俺がおります!!俺一人から太政大臣家を建て直します!!」
朱雀は力強くうなずいた。紅梅は一つ昇進し、大納言になった。
また、紫の上の四十九日が明けると、夕霧が参内した。
「本院さま、数々の不始末、お許し下さい・・・」
「うむ・・・」
「あれから、父『源氏の君』は、うつけのようになり、かつての召人『めしうど』たちが介護しています。多分、回復することはないでしょう。今後、六条院の代表は、この夕霧がつとめます」
「うむ・・・のう、夕霧、生きることは難しいのう」
「誠に・・・」
「そなたを右大臣とし、髭黒を太政大臣とする。そなたと、髭黒と紅梅で今上をよく助けるように・・・」
「はい・・・しかし、陛下も、いつまでもお元気で、御指導を・・・」
朱雀は微苦笑を浮かべた。
「そして、このような時に非常識かもしれませんが、これを落葉の宮に差し上げてください」
夕霧は美しく飾られた楽器の類を贈って来た。
朱雀は黙ってうなずいた。
「・・・我も間違っていた。そなたと落葉の宮を結婚させ、女三の宮と柏木を結婚させてやるべきだった・・・」
朱雀は長いため息をついた。
「しかし、薫には罪がない。世の中では、薫はそなたの弟と思われている。可愛がってやってたも」
「はい!!」
「そして、この願いは間違っている、御門違いかも知れぬが・・・落葉の宮のこと・・・頼む・・・」
夕霧は真剣な表情で平伏した。
そして、薫の誕生五十日の祝の時、夕霧は落葉の宮と大饗の儀を抜けて、対面していた。
「こんな時に縁起でもないかもしれませぬが、柏木殿の形見の楽器にございます」
夕霧と落葉の宮は横笛と笙を手に取り、吹いた。二人は自然に身を寄せ合った。
「・・・私も三の宮のように、出家するべきだったかもしれませぬ・・・」
「そんな、とんでもない・・・雲居の雁はおりますが、姫宮さまをないがしろにいたしましょうか?・・・俺と一緒に生きて下され!!」
二人は見つめあった。そして、唇に唇を重ねた。
二人は思い合っていたが、難色を示したのは母、一条だった。『皇女は・・・一の宮のように独身を貫いた方が幸せなのでは・・・?』
だが、意外な人物が口添えしてくれた。明石の君だった。
「お二人の縁は強いものになるでしょう。御結婚なさるべきです」
明石の君は笑んだ。
「それに、源氏の君の財産は、夕霧殿と落葉の宮さま、女三の宮さまと薫さま、そして皇后さまのものになります。言葉はあれですが、本院さまの血筋に、源氏の君の財産は全て行くのです」
皇后の財産と言うのは、明石の君の財産と言う意味でもあるのだろう。
明石の君による六条院のっとりも成功したのである。
源氏の君の没落の受け止めも、人それぞれだった。
冷泉院は、薫を抱いて言った。「この子も、僕と同じ。秘密を抱えているのですね。源氏の君には因果応報が巡って来たのです」
秋好中宮や、紅梅の姉の女御も薫を抱いた。
その中で、朱雀は紫の上を格別に気の毒だと思し召されていた。
幼い時に、源氏の君に「保護」され、身体的自由も、経済的自由も無く、源氏の君の不祥事にまきこまれ、あっけなく、旅立ってしまった。
南無阿弥陀仏。南無大慈大悲観世音菩薩。朱雀は祈った。
調子がよく、さらに一話、投稿いたします。明日、無事であれば、第二部完結。一端のフィナーレになります。いつも、ありがとうございます。




