四十の賀
ところで、今上の御所では、本院、一条、髭黒の他にもう一人、重きをなすものが現れた。
明石の君である。
明石の君は皇后、明石中宮の生母として、御所にずっと滞在していた。
明石の君は神秘性にくわえ、優れた政治力を持ち、発言力をどんどん増していた。
そして、明石の君は薬を持参して、時折、朱雀の所も訪ねていた。
朱雀、一条、朝顔の姫宮、そして何故か朧月夜もいた。
明石の君は「薬は毒にもなります。お詳しい本院さまに確かめていただきましょう」
と薬種を皆の前に広げた。
「これが何か分かりますか?」
「人のような形をした・・・話には聞いたことがある・・・『東洋』人参と言うものであろうか?」
「左様にございます・・・」
「貴重なもの・・・高価であろう?」
「本院さまのご家族のため・・・惜しくはありませぬ・・・」
明石の君は、薬種を刻んだり、砕いたりして、煮込み、薬湯を五つの茶碗に入れて、差し出した。『道具も格別にぜいたくなものだった。』
「源氏の君にも差し上げているのか?」
「ふふ・・・あんな人、差し上げる価値もありませぬ・・・」
真相は分からないが、朱雀は少し寒気を感じた。
「源氏の君を太上天皇に、と言うのは、そなた様が今上に奏上したのか?」
「いいえ、私のような卑しい女が御政道に口出しするなど、とんでもないことです」
「・・・」
一条が話を少し変えた。
「実は・・・落葉の宮が、柏木のところに嫁ぐことになりました」
「良き御縁にございます。おめでとうございます」
「女三の宮のことを思いあぐねているのですが・・・良き御方はいらっしゃらないでしょうか?」
「私のような卑しい女が口出しする問題ではございませぬ・・・」
五人は不思議な雰囲気で、薬湯を飲んでいた。
そして、源氏の君の四十歳の秋『朱雀は四十三歳』、九月九日の節句の後、朱雀院と源氏の君の四十の賀が六条院で、行われることになった。
冷泉の意向により、かかり『費用』は源氏の君が持ち、皇族、貴族はそんなに大々的に出かけないと言う事だったが、源氏の君は得意の絶頂にいた。
本院、一条、朝顔の姫宮、冷泉、秋好中宮、太政大臣家の女御、式部卿宮家の女御、今上、明石中宮、太政大臣、四の君、柏木、紅梅、髭黒、玉鬘が参加した。
迎える源氏の君の側は紫の女王さん、明石の君、花散里夫人、麗景殿女御、末摘花女王、夕霧と言う顔ぶれだった。
宴の時、朱雀にはとても小さい盃が出された。『お酒を召し上がらないからである。』
朱雀は感心して紫の女王さんをほめた。
「よく考えていらっしゃる」
「いいえ、明石の君さまの御配慮にございます。それより、本院さまは一回のお食事の時、お茶を二杯しか召し上がらないとか。今日は何杯でも、お召し上がりくださいまし」
「いやいや、申し訳なし。まがりの水をいただこうぞ」
宴は、それなりにあたたまっていたが、それをぶち壊したのは源氏の君だった。
食事と終わる頃、突然、「ぐわっ!!」と倒れたのである。まだ若い今上、冷泉、夕霧、柏木、紅梅は顔色を変え、立ち上がったが、本院は「うろたえてはなりませぬ!!」と一喝した。
「初めてではないのであろ。明石の君、お薬は?」
「ええ、ございます。心の臓の薬にございます。最近、よく痛みを訴えていたのですが・・・はしゃぎ過ぎて、体にこたえたのでしょう」
明石の君は源氏の君に、薬とまがりの水を飲ませた。
源氏の君は息をふきかえした。
それで、宴はおじゃんとなった。
本院は明石の君に、○○と△△を飲ませなされ、と指図して、御所に戻った。




