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朱雀院  作者: 夢野ユーマ
33/43

終わる世界

本院が、源氏の君と関白・内大臣と対面した一週間後ぐらいであっただろうか?


夜が明け、「十月にしては冷えたの・・・」と仰せになった本院は、彩子の様子がおかしいのに気づいた。外見は綺麗だったが、息をしていなかった。


「彩子!!彩子!!」

本院は彩子を揺すぶった。


「つ、貫之、貫之よ!!」


髭黒は、この時、公務が大量になっていたため、本院一家の内向きの用事は貫之がこなしていた。


すぐに貫之とその妻が参上したが、


「これは・・・もう、おかくれになっていらっしゃいます・・・」


本院は彩子にすがりついて泣いた。そこに春宮と女一の宮『十一歳』、一条、源氏女御、母后、箱崎も入ってきた。


「おたあさん、おたあさん」


春宮と女一の宮も泣き崩れた。

一条は泣くことも忘れ、へたり込んだ。

母后も号泣した。


「彩子よ!!順番が逆であろ。何故、わらわより先に・・・」


そこに、髭黒が来た。皆が静まり返った。髭黒は黙って、彩子の体を抱き起こした。


そこに、当今と秋好中宮もいらした。そうすると、髭黒は彩子の体を再び横たえた。


当今は、こんな時ではあるが、こんな時であるからこそ、仰せになった。


「承香殿さま『彩子』は近く、皇太后におなりあそばす予定だった。承香殿皇太后崩御と言う扱いにいたし、これから一年間を諒闇の年とする」


髭黒は立場的に何も言えず、春宮と女一の宮には判断がつかなかったので、本院はうなずき了承した。

素早く喪服を着た女官、女房がやって来て、一同は喪服に着替えた。


源氏の君、関白・内大臣、新式部卿宮、朝顔の姫宮、朧月夜、花散里夫人、紫の女王さん、明石の君なども、すぐ参内した。

特に親しかった朧月夜と花散里夫人は気落ちしていた。


彩子は皇太后として葬られたが、本院は経もまともに読めず、思っていた。何故?皆、同じ食事をしていたが・・・酒か?・・・源氏の君がやたら酒を・・・いや、そんな風に人のせいにしてはならぬ・・・


都の人々にとっても、突然の凶報だった。年末年始の行事も『諒闇の年のため』おじゃんになった。一応、本院は庶民が喪に服することはないと院宣を出したが、表立って、華美な格好で出歩く者はいなかった。


しかし、これは暗黒の三年の始まりだったのである。


夫である桐壺帝の崩御の時も動じていなかった母后が、親しかった彩子の死で衝撃を受け、精神に変調を来たした。現代で言う痴呆である。

そして、春が終わると、あっさり崩御してしまった。


最後の最後だけは、母后は少しうつし心を取り戻したようで、本院に語りかけた。


「みこよ・・・わらわはあまり良い母ではなかったであろ?そなたが、こんな立派な帝になられるとは思っていなかったので・・・そなたからすると不足が多かったであろ・・・」

「不足なぞ・・・どうか、お元気になって下さいまし・・・後世も、我はおたあさんの息子に生まれとうございます・・・」

「母は良い母ではなかったので、もう人にはなれぬかも知れぬ・・・」

「・・・おたあさんが鳥になるなら、我も鳥になりましょう。・・・おたあさんが魚になるなら、我も魚になりましょう」


母后は何かを言おうとしたが、言葉にならなかった。そして、満足そうに、微笑を浮かべると御崩御あそばした。


母后は歴とした治天の君の母だったので、諒闇の年は一年延長になった。

本院は公家、官人、都の者が暮らせるように、給料日や節句があるはずだった日には禄を配ったが、重苦しい雰囲気が続いた。


そして、本院は、彩子と母后の崩御で、一条、源氏女御、春宮、三人の姫宮の健康を医師『くすし』に診てもらったのだが、源氏女御に異変が見つかった。

現代で言う大腸がん。お腹に病巣が出来ていた。


医師『くすし』は本院に奏上した。


「今の医学では、どうしようも出来ませぬ・・・本院さまは、お薬を調合するのがお好きなので、ご存知かと思いますが、痛みを和らげる薬を服用すると、意識はハッキリしなくなります・・・」


しかし、苦しみは酷い『むごい』ので、と本院は思し召し、薬を差し上げようとしたが、源氏女御は嫌がった。


そして筆をとり、絵巻を描き始めた。

先々々代の帝、母の別当、本院、一条、彩子、春宮、三人の姫宮、当今、薄雲女院、秋好中宮、関白の姫君、新式部卿宮の姫君、太政大臣、朧月夜、桃園式部卿宮、朝顔の姫宮、摂政、大宮、関白、四の君、母后、六条御息所、そして源氏の君、紫の女王さん、明石の君、花散里夫人、麗景殿女御、末摘花女王、夕霧。髭黒、箱崎、玉鬘、近江の君。

出会った人全てが描かれ、大嵐のこと、絵合わせの日のことなどが描かれていた。そして、彩子と母后の大喪の礼と、仏の来迎を描いた後、母后の崩御の翌年、源氏女御は薨去した。


源氏女御の薨去は諒闇の年にはならないが、女御が絵巻をものしている間に、大宮『関白の母』、女五の宮『桐壺帝の妹』も薨去した。


三年間で、彩子、母后、大宮、女五の宮、源氏女御が世を去られた。


そして当今は十九歳、春宮は十五歳、明石の姫君は十一歳になられていた。


(分かりにくいと思うので、簡単にまとめると、本院三十九歳の時、彩子崩御。四十歳の時、母后崩御。大宮、女五の宮、薨去。四十一歳の時、源氏女御薨去。)


当今は秋好中宮を連れて、本院は髭黒、一条、朝顔の姫宮を従えて、対面した。当今が奏上した。


「陛下、諒闇の年が二年続き、また源氏女御さんの薨去により、今は喪に服しています。しかし、女御さんの喪が明けたら、いよいよ遜位を行おうと思います」

「う、うむ・・・」

「僕の中にも人に言えぬような醜い欲があります。この三年ほどで天津日嗣が誕生していたら、考えも変わっていたかもしれませぬ。しかし、僕と秋好中宮は子を成す薬なども服用してみましたが、結局、天津日嗣は誕生しませんでした。かえって、本院さまと近いやむごとなき方が多く崩御、薨去なされたのも僕の暗い運命を示しているような気がいたします」


本院は答えた。


「奏上したき儀、二つ有り。子を成す薬などと言うのは、インチキで体を害するもの。どうか、服用はなさいませぬように。また、彩子と源氏女御はともかく、母后、大宮、女五の宮は天寿を全うしたのです。大往生でした。陛下の徳とは関係ありませぬ」

「ありがとうございます。しかし、もう春宮さまが即位し、明石の姫君が入内するより他ないと思います・・・」

「・・・陛下と秋好中宮には気の毒じゃが、仕方ないのう・・・」

「気の毒なことはございませぬ。本院さまのおかげで、天津日嗣は生まれませんでしたが、安泰な御代をおくることが出來ました。ありがとうございます」


その年は三年ぶりに年末年始の儀式が行われることになり、都衆は上つ方のことは気の毒に思いつつ、浮かれ始めた。市も活況を呈して来た。

そして当今は春宮に神事を教え始めた。



小春日和の日、本院は高貴な女君たちを集めた。

一条、朝顔の姫宮、朧月夜、四の君、紫の女王『にょおう』さん、明石の君、花散里夫人、麗景殿女御、末摘花女王、玉鬘である。

当時は『アロマのように』部屋にたいたり、着物に香りをつけたりするのに香を使った。

その香を新しい皇后、明石の姫君のために作ろうとしていた。

「彩子さまは、ある意味、香を作るのが上手でございましたな」

花散里夫人が申した。

一条も同意した。

「あまり高くない材料で、たくさん作るのがお得意でした。だから、普段使いのものは彩子さまに任せていました」

「我々も真似ていました」

麗景殿女御が仰せになった。


一方、朝顔の姫宮、朧月夜、紫の女王さん、明石の君、末摘花女王は、それぞれの家の秘伝の香を作り、本院に差し上げていた。


「末摘花女王の香は懐かしい・・・常陸親王『末摘花の父』の香りがいたします。朧月夜のは今様の香り。朝顔の姫宮と紫の女王さんも流石の上手さじゃが・・・明石の君は・・・我の祖父の帝さまをご存知か?」

「もちろん、会ったことはございませんが、遠い先祖が陛下の祖父の帝さまにいただいた調合法で作りました」

「そうであったか・・・これは祖父の帝の香り。紫の女王さんは先々々代さまの香りじゃ・・・」


その後、一条の主導で、祖父の帝、先々々代の帝の宝物殿で、明石の姫君に贈ってもおかしくない女装束、調度をみつくろった。


三人も女君のいなくなった朱雀を慮って、女人たちは一緒に夕食を取り、帰って行った。


朱雀の宮廷に残ったのは、一条、春宮、三人の姫宮、そして結婚している訳ではないが、朝顔の姫宮、箱崎だった。


そして、朝顔の姫宮は本院に奏上した。


「本院さま・・・御代がわりの良い折なので、奏上いたします。女一の宮は新しい帝の妹として重い立場になられます。そこで、私の養女として斎院の修業をさせつつ、いくいくは私の財産と桃園の宮殿も相続させたいと思います・・・」

「おお・・・」


斎院、斎宮は女性皇族の重要な地位だったため、ありがたい申し出だった。しかも、朝顔の姫宮の莫大な財産も相続するのである。

本院は喜んで、受け入れた。


ただ、斎院は結婚出来ず終わることが多いのが、少し心配であった。


源氏女御の薨去した年の年末年始は久しぶりに神事が行われた。


民はためこんだ活力を爆発させた。



そして、本院が源氏女御のための喪服を脱いだ後の吉日、春宮が即位し、当今は退位した。


これより、春宮のことを「今上」、当今のことを「新院」または、「冷泉院」と、お呼び申し上げる。


新院二十歳、今上十六歳。そして、今上に入内した明石の姫君『明石中宮』、十二歳であった。


「朱雀院」第一部、終わり。

第一部の終わりまで、載せました。たくさんの方が応援して下さったおかげだと思います。第二部も、よろしくお願いします。


源氏物語にお詳しい方からすると、細かい変更点が気になられるかもしれませんが、それをまとめたアンチョコ本も載せようか、と思います。


とりあえず、今日も最低一話は更新出来ました。

明日まではいろいろ用事があるのですが、日曜日は2話ぐらい更新したいと思っています。よろしくお願いします。

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