玉鬘十帖
おはようございます。あまり、作者が作品を語ってはいけないと思うのですが、源氏物語第一部の終盤に玉鬘十帖と言うところがあります。そこは、朱雀院の物語とは、あまり緊密な関係がないので、全部カットしようか、迷ったのですが、一応、書きました。よろしくお願いします。
当今、関白・内大臣は、良い顔をしなかったが、「六条院」の建設が始まった。
各地から、働くものが、多く都に流入してきた。
建設現場で働く筋肉労働者はもちろん、彼らに食べ物を売る商売人、夜の相手をする遊女や美童もいた。
そのことを関白・内大臣は揶揄して、「悪魔の家」と呼んでいた。
彩子は男、世の中はそういうものとわりきっていたが、一条は状況を嫌悪しているご様子だった。
六条院は南西に春の対、南東に秋の対があり、二つは廊下だけでなく、池でもつながっていた。そして、秋の対の北に夏の対があり、春の対の北に冬の対があった。(あったと言っても、まだ建設中だった。)
六条院は人々の話題の中心になり、受け止めもさまざまだった。
ある夜、本院が当今と秋好中宮と食事していると、秋好中宮が仰せになった。
「源氏の君は、私の里を大増築すると申しているようですが、もし完成しても里下がりは絶対しないつもりです」
「何と!!何故?」
「大金を使って、豪邸を作っているのも面白からず思えますし、それ以上に紫の上さまと花散里夫人はともかく・・・仰せになってはなりませぬよ。明石の君が、とても怖い方のような気がするのです・・・」
本院と当今は、驚いた顔を見せた。秋好中宮も皇室の血が濃く流れているので、明石の君の「魔性」に気づかれたのだろうか、と本院は思し召された。
「明石の君は、生まれが卑しいので、姫君の女中頭になったと申しているそうです。へりくだっているようで、そういうことを申す根性が怖いのです」
本院はうなずいた。
そんなある日、関白・内大臣が怒って、参内し、本院に奏上した。
「陛下、多分、覚えていらっしゃらないと思いますが、下京に私は恋人がおりました」
「夕顔の君のことであろ」
「何と!!陛下の記憶力は神がかり的にございます。それならば、話が早うございます。夕顔には娘がおりました。産み月とか考えても私の子供で間違いないと思うのです。しかし、源氏の君が夕顔との間に出来た姫を見つけて引き取ったと申すのです」
「何と!!」
「陛下は、源氏の君の御性格をよくご存知です。私は夕顔の姫が源氏の君のなぶりものにされていないか、毎夜、思い乱れて、悶々と苦しんでおります・・・」
本院は驚き怪しんだ。にわかには信じがたいことであったが、真実ではないかと思った。そして、関白・内大臣の憂慮も当然のことと思し召された。
本院は源氏の君をお召しになった。そして、夕顔の君の娘のことをお尋ねになられた。
「源氏の君よ。そなた夕顔の君と関白の間の子を引き取ったとか・・・」
「夕顔の娘を引き取りましたが、関白の子と言うのは違います。俺の娘です」
「・・・我もない頭をしぼって考えたのじゃが・・・すでに姫がおる夕顔をそなたが盗ったと聞いたような気がするのじゃが・・・」
「いいえ、いいえ、長年の勘違いにございます。俺の娘です」
しかし、意外な人物が源氏の君を攻撃してきた。一条である。
「いいえ、姫君は関白さまのお子のはずです。その頃、私は女房でしたが、酷い『むごい』事をなさると思い、よく覚えています」
一条が嘘をつく理由もないので、彩子や髭黒は一条、本院の言い分が正しいのか、と思った。
しかし、もちろん、その頃の御代にはDNA鑑定もないので、源氏の君の言い分が絶対に間違っているとも言えなかった。
そして、第三者からすると、源氏の君の姫であろうが、関白の姫であろうが、美しい姫が現れたので、結婚したいと言う男が現れた。
例えば、本院、源氏の君と、当今、八の宮の間にいる新兵部卿宮などだった。
この問題は意外な人物の登場によって解決した。近江の君と言う娘である。
それも、六条院の建設と無関係では無かった。六条院建設の現場でも、源氏の君と関白が御落胤をめぐって争いになっていると噂になっていた。
それを聞いていた、近江と言う娘が、「おらも関白さまの娘だべ」と言い出したのである。
近江と言う名前だったが、近江の出は、母親で、本人は紀州で生まれ育ったとのことだった。
筋肉労働者たちは近江を笑い者にしたが、近江は関白家に「畏れながら」と申し出た。
驚くべきことに、それは、本当だった。
当時、頭の中将だった関白の書きつけを御守りの中に持っていたのである。
それを聞こし召した本院は関白と近江の君、源氏の君と、夕顔の娘、玉鬘をお召しになった。
近江の君の髪は貴婦人のように、まだ十分長くなく、下級の女房のような着物に甘すぎる匂いの香がたきしめてあった。良くも悪くも、庶民的であった。本院は御苦笑なさると、上品な着物を近江の君にお与えになられた。
ところが、それをご覧になった近江の君と玉鬘の顔色が変わった。
「この着物の柄、御守りと同じだんべ」
玉鬘も、真剣な表情を見せ、御守りを取り出した。
一条と彩子は、二人の御守りを受け取り、糸を抜いて広げた。
すると、二枚の布はちょうどつながった。しかも、着物の裾に切り取ったところが有り、そこにも一致した。
本院は涙をこぼした。
「おお、これは祖父の帝さまの遺品。それと二人の御守りが合致したと言うことは、御二人が祖父の帝さまのひ孫じゃと言う徴『しるし』じゃ。『関白の母、大宮は祖父の帝の娘。』」
源氏の君は青ざめた。玉鬘は、やはり関白の姫だったのである。
本院は近江の君にお尋ねになられた。
「そなたは我が荘園の田辺の荘の者らしいの」
「へえ」
「生活が苦しいので、都に出てきたのかも知れぬが、好いた男の子『おのこ』がおるのではないか?」
「へえ・・・実は、六条院で働いておる源太と言う若者と好きおうております」
本院が近江の君と源太を田辺の荘の荘官に出来ないか髭黒に相談した。
そして、田辺の荘を二人に与えることになった。
「近江の君よ。都はなかなか難しいところ。そなたは故郷の紀州に帰りなされ。そして、関白の子孫をどんどん増やしなされ」
「へえ、ありがとうございます」
次に本院は玉鬘にお尋ねになられた。
「そなたは、どうやって都に参ったのじゃ?」
「私は・・・私は、母、夕顔のことをうっすら覚えております。そして、源氏の君のことも、うっすら覚えておりました。だから、源氏の君が父だと思っていたのです。しかし、母が亡くなった後、乳母らに連れられ、九州に下向いたしました。そこで平穏に暮らしていたのですが、富裕な武者に結婚を迫られ、都に逃げて参ったのです」
「そなたも、御苦労があったのじゃな・・・」
その時、意外な人物が、思いがけないことを奏上した。
「本院さま、太政大臣さま『源氏の君のこと。』、関白さま、お願いがあります。玉鬘の姫君を、この髭黒と結婚させて下さい」
三人も、玉鬘自身も仰天した。
しかし、この時の朝廷の実権を握っているのは髭黒であり、そんなに悪い話では無かった。
ただ、髭黒にはすでに夫人がいた。
新式部卿宮の姫君、つまり、紫の女王さんの姉に当たる人である。子供もいた。
しかし、本院は勅許を出した。
源氏の君と関白、そして玉鬘本人も納得して受け入れた。
髭黒は着々と足場をかためていた。春宮の叔父となり、源氏の君、関白とも親戚になった。
まして、中級、下級の官人は先を争うように、髭黒に祝賀、慶賀の品を贈った。




