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朱雀院  作者: 夢野ユーマ
30/43

六条院建設ヘ

官人、役人は上の動きに敏感であり、源氏の君は干されたらしいと、動揺が広がった。

しかし、どんな政権でも、百パーセントの支持はない。

本院、内大臣にすがらない反主流派がいて、源氏の君はそれを頼りに、「当今をお助けするため」などと言い、しれっと復帰してきた。


その当今のことを案じて、本院一家は当今一家と寝食をともにしていた。

朝、心を落ち着ける薬をおすすめし、秋好中宮に加えて、一条と彩子も当今をお慰めした。

東宮や、三人の姫宮も、当今の御心を和ませた。

そして、源氏女御は次々、美事な絵をものして、当今の目を楽しませていた。


それでも、当今は引退したいと言う弱気になられることが多かった。もともと、大人びた御方だったのに、幼児がえりみたいなご様子を見せることもあった。



秋のことだった。

鈍色の喪服で、朝顔の姫宮が参内した。当今のいない所で、姫宮は源氏の君からの文、歌を見せた。


「これなのじゃが、無礼ではなかろうか?」

「見し折のつゆ忘られぬ朝顔の花の盛りは過ぎやしぬらむ」(昔拝見したお姿が忘れられない朝顔の姫宮の女盛りは過ぎてしまったのだろうか?)


女人たちは、これは無礼!!と騒ぎ出した。本院はいまだに多くの女君への執着が忘れられない源氏の君に呆れていた。


女人たちは源氏の君を馬鹿にする返歌を作った。


「秋はてて霧の籬『まがき』にむすぼほれあるかなきかにうつる朝顔」(秋の終わりに霧の深い垣根にからみつき、あるかないかに色あせる朝顔のように私はオバサンになって、あなたにも飽き飽きしてしまったので、関心を持たないで下さい。)


当然のことながら、朝顔の姫宮は源氏の君の挑発をつっぱねたのである。


それより、朝顔の姫宮は別儀の願いを奏上した。


「父宮が薨去し、桃園『高級住宅地』の宮殿も、私と女五の宮『本院の叔母』二人。女と老人で心もとない故、御所に置いてもらいたいのじゃが・・・」

「もちろん、大歓迎にございます」


朝顔の姫宮と、女五の宮も、本院一家と共に御所に住まわれた。


諒闇の年は節句もやれなかったので、節句の日は午前中、桐壺帝、薄雲女院、太政大臣、摂政、桃園式部卿宮の供養を行った。

そして、からくだものに節句を連想させる工夫があった。

しかし、節句の日に官人、下役人たちには十分に禄を配った。

年末年始の儀式も無かったが、食べ物、布、銭なども十分に配られた。


供養には、関白・内大臣、新式部卿宮が参列することもあったが、源氏の君は出席を断られていた。


しかし、源氏の君は古い政治家、父帝の頃の流儀の政治家であった。つまり、人間関係こそが全ての政治家であった。

当今には「何故か」嫌われてしまった。

そこで、源氏の君は本院、春宮、彩子『承香殿女御』に露骨にすり寄ってきた。


春宮と彩子にだけだと露骨すぎるので、本院、母后、一条、源氏女御にも高価な贈り物を持参し、せっせと、挨拶していた。


「そんな無駄遣いをせずに、荘園の年貢を軽くしてやりなさいよ」

と本院は注意なさったが、源氏の君は聞き流していた。


彩子はお酒が好きだった。普段は神事で供えられた清酒。それが無くなると普通のどぶろくを飲んでいた。

源氏の君はある時、瑠璃の入れ物に入れた赤い酒と、白い酒を彩子に献上した。

本院も少しだけ飲んでみたが、味以前に強い酒のようで、むせてしまった。まがりの水をお飲みになられた。

しかし、彩子は「これは良い」とゴクゴク飲んでいた。


「お気に召されたのですな。毎月の給料日『一日と十五日』に献上にあがります」


彩子は上機嫌だったが、本院の表情は少しくもった。

本院は髭黒に釘をさした。


「そなたは源氏の君に買収されてはなりませぬぞ」

髭黒はニヤリと笑った。


「我ら姉弟は、これから落ち目になる方に買収されたりはいたしませぬ」


薄雲女院の一周忌が終わると、宮中の人々は喪服を脱いだ。



そして、本院は変わった組み合わせの客を迎えていた。

関白・内大臣と、花散里夫人だった。しかし、用向きは分かっていた。


十一歳になった夕霧の元服を行うのだった。夕霧は源氏の君の息子だが、関白・内大臣と花散里夫人に養育されていた。


夕霧の元服は盛大に行われることになった。久しぶりの慶事で、母后、一条、彩子も新しいもの、今様なものは源氏の君たちが用意すると思ったので、祖父の帝、先々々代の帝の宝物殿で、若者が着ても、変でない装束や、道具をみつくろっていた。


その中で、本院は帝・当今『十四歳』、春宮『十歳』と遊んでいる夕霧の顔が浮かないことを、お気づきになられた。


本院は壺『中庭』にあるなんじゃもんじゃの木を見たいから、と夕霧に仰せになり、御所の片隅に向かった。


「最近、元気がないの・・・元服がお嫌か?」

夕霧の足がハタと止まった。


夕霧は本院にしがみつくと、泣き出した。


「よ、よ、『よげん』を聞いたのです・・・」

「『予言』?どこで?」

「オババさま『大宮のこと』のところで・・・おもうさんには子供が三人。一人は帝に。一人は皇后に。真ん中の劣った者は太政大臣に、と言う予言があったと・・・」


本院は平静をよそおった。

「源氏の君の子供は、そなたと明石の姫君だけ。予言など外れておるではないか」

「・・・そうですが、劣った者と皆に思われているのかと思うと苦しいのです・・・」

「そなたは、我と源氏の君の幼い時よりずっと恵まれている。自信を持ちなされ」

「・・・それに僕のせいで、おたあさんは・・・」

「そなたのせいなどではない・・・宿命だったのじゃ・・・」

本院と夕霧は御所の片隅のなんじゃもんじゃの木を見た。


生きることは・・・難しいのう。口にはしなかったが、本院はそう思し召された。


その夜、本院は髭黒と一条に指図を出していた。


「夕霧がこういう予言の話をしていた。公卿たちの間に広まっているのか調べて欲しい。一条の兄弟姉妹も、関白や大宮のところに奉公に行っているであろう。探ってくりゃれ」


すぐに二人から調査の結果が上がってきたが、噂が広まっていると言うことはなく、大宮が側近にもらしたことを、夕霧が偶然聞いたと言うことらしかった。



その後の吉日、夕霧は元服した。源氏の君とも、関白・内大臣家とも、縁『ゆかり』のある夕霧の元服は盛大な儀式であった。

大宮は、摂政と葵に見てほしかったと泣いていた。



その夜、源氏の君と関白・内大臣が費用を出し合って、大饗の儀があった。

当今は出席しなかった。

そこで、源氏の君はまたとんでもないことを言い出した。


「陛下『本院のこと』、奏上したきこと有り。勅許をいただきたきこと有り」

「ほう、何であろうか?」

「かつて、秋好中宮さまは六条御息所さまと六条の宮殿に住まわれていらっしゃいました。その土地の周りの土地を買い、大きな宮殿を作ろうと思います。そこには四つの館があり、春の対、夏の対、秋の対、冬の対といたそうと思います。春の対は紫の女王さん、夏の対は花散里、秋の対は秋好中宮、冬の対は明石の君に住んでもらうことにいたします」


いまだかつてない計画だったので、人々はざわめいた。

保守的な関白・内大臣は、あまり良い顔をしなかった。

しかし、本院は「良いであろ」と、あっさり勅許を出した。


この時点では名称が決まっていなかったが、宮殿『六条院』の建設であった。それは、今で言う巨大な公共事業であり、そこで働くもの、働くもの相手に商売をするものなどにより、経済を大きく活性化することが見込まれた。

こんにちは。いつもありがとうございます。

今日はここまで。

明日も、最低一話は更新出来ると思います。金曜日、土曜日、日曜日も、たいてい、更新出来ると思います。よろしくお願いします。

ちょっと終わりが見えて来ました。

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