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朱雀院  作者: 夢野ユーマ
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絵合わせ

摂政と中納言は面白からぬご様子だったが、斎宮女御は六条御息所の一周忌が明けた吉日、正式に当今に入内した。

(一応、四十九日の後も本院により御所に保護されていたが、一周忌明けに正式に結婚したのである。)


本院と源氏の君が半分ずつかかり『費用』を出して、大規模な大饗を行い、多くの贈り物、禄も大官から下役人にまで配られた。

しかし、斎宮女御は派手なことのお好きな浮ついた御性格ではなかった。当今より、少し年上であらせられるのだが、すぐやってきた年末年始の神事でも、本院はあえて控えていたのだが、的確に当今を助けて、つつがなく神事、行事をとりおこなった。

本院でさえ、気がつかない細かいところも、よく把握していらした。

そして、松の内が終わってからの公務でも、六条御息所ゆずりの頭の良さで、決して思い上がってはいないが、中納言の姫君、兵部卿宮の姫君にも素早く指示を出し、的確にこなしていった。


本院、また母后、一条、彩子も大いに満足なされた。

本院は桜花の宴の後は、朱雀院『建物』に退出なさろうと思し召されたが、当今と斎宮女御に強く慰留された。

また官人たちも本院が治天の君として御所に残られることを願った。


そして、何より、春宮が当今と夕霧になつかれていたし、弟、妹がいなかった当今は三人の姫宮のこともかわゆく思し召されていた。


「御所の片隅に置いてもらおうぞ」と、本院一族は御所に残った。


桜花の宴の日、本院一家は例によって戌の斎(午後8時ぐらい)には退出したが、中納言と四の君と朧月夜は子の刻(午前0時ぐらい)に、女御と反省会をしていた。

朧月夜はズケズケ言った。


「駄目ではないか。一応、そなたの方が先に入内したのに、ほとんどの者は斎宮女御こそ、皇后のような態度ではないか!!」

「そんなこと言われても・・・」

「当今と斎宮女御を拝見していて、何か弱みはないか?」

「弱みなど・・・弱みではございませぬが、お二人とも絵画がお好きでございます」

「それじゃ!!」と朧月夜が言った。


負けず嫌いの中納言と朧月夜は一流の絵師を集め、竹取物語や伊勢物語の絵、洛中洛外図、四季山水などを描かせた。


それは、すぐに源氏の君の耳にも入った。


この時代、琴棋書画と言って、女君は楽器の演奏、ゲーム、書道、絵画の素養が必要であった。絵師は中納言におさえられてしまったので、女君たちに描かせ、また古美術商などに古い名作を集めさせた。

本院は双方を呆れて、ご覧になっていた。


しかし、この絵合わせのことは世間で評判になり、秘蔵の品を双方に売りに行く公家なども現れた。


そして、桃の節句の一週間後、本院一家、薄雲女院も招かれ、当今、斎宮女御、中納言の姫君の御前で、源氏の君と中納言、朧月夜が絵合わせをすることになった。


最初に花散里夫人、麗景殿女御、末摘花女王の絵が出されたが、当今は噴き出すのをこらえるのに骨が折れた。


中納言と朧月夜は喜んで、一流の絵師の新作を次々と出した。当今と斎宮女御は感心して、興味深く、ご覧になった。


だが、それは、源氏の君の罠だった。紫の上と、明石の君が作品を出したら、ため息が起こった。

春の好きな紫の上は、梅桜桃李の春の花の絵を出した。それは、美事な作品だった。

だが、明石の君はさらに上を行く作品を出してきた。当時、まだ日の本に知られていなかった震旦の最新の絵画、院体画『文人画』の技法で描いた孔雀の絵であった。


冷静にご覧になっていた本院も、手にとることを所望した。一条と薄雲女院ものぞきこんだ。『一条は明石の君のことを心配していたが、本院は「はしかのようなもの。大丈夫」と仰せになっていた。』


「うむ、これはたいしたものじゃ・・・」

「まことに・・・」


本院と薄雲女院はため息をついた。「院体画」と言うものを知ることが出来る明石の君の富にも、うならされた。


しかし、そこでポカをやってしまうのが、源氏の君だった。


「これは自信作でございます」と出してきたのは、源氏の君の須磨の絵日記だった。

それは作品としては、決して悪くないのだが、そもそも須磨に行った原因を思い出した当今と薄雲女院は不愉快そうなご様子を見せた。


これは勝ったな、と朧月夜は思った。

朧月夜は一流の絵師に作品を作らせながら、側近たちと自作を手がけていた。

それは一人の女の恋愛遍歴を絵巻にしたものだった。もちろん、一人の女とは朧月夜のことである。

本院も、源氏の君も、中納言も脂汗をかいた。


女君たちは目をつり上げた。


それを打破したのは本院だった。


「今日は源氏の君と中納言の行事なれど、我も見せたきもの有り」


本院の侍従たちが、当今の御前にいくつかの絵巻を捧げ、広げた。全員が言葉を失った。それは、源氏女御が折々描き継いできた四季の生き物や植物、出来事の絵巻だった。それは、あまりにも美事な、迫真性の、写実的な作品だった。


当今、斎宮女御、中納言の姫君は思わず、涙ぐんでいた。


本院は皆に言い渡した。


「女君たちの作品、源氏が君の作品、いずれも美事であった。今日の記念に当今の朝廷に全て献上すべし。ただし、皇后の位を定めることは重大事であり、絵合わせなどで決めるべきにあらず。斎宮女御は皇室の血が濃く、斎宮として神事、公務にも通暁しておる。よって、斎宮女御を皇后として定め、『秋好『あきこのむ』中宮の称号を授ける。中納言の姫君と、兵部卿宮の姫君はよく御指導に従うように」


どよめきがあったが、皆、本院の威厳、意向に平伏して、従った。

もともと、源氏の君、中納言、朧月夜が三分の一ずつ出して、大饗の用意があり、そのまま秋好中宮をことほぐ宴となった。


本院一家は例によって、戌の刻『午後8時ぐらい』に退出するのだが、当今にちょっと引き留められた。


「兄上様、いえ、本院さま、今日はありがとうございました。貴重な絵画を手に入れることが出来ました・・・ただ・・・」


絵画を入れる箱も贅を尽くして、作ってあった。

当今は源氏の君の絵日記の入った箱を差し出した。


「これは、僕とおたあさんには不愉快なものにございます。本院さまにはご必要でしょうか?」

「おお、よくぞ仰せ下さいました。後日、拝領したいと奏上しようと思っていたのです」


当今は少し不思議そうに源氏の君の絵日記を本院に贈った。

本院は一条に支えられ、絵日記の箱は源氏女御が抱えて、宴の間を去った。


そして、本院と源氏女御は御座所で、源氏の君の絵日記を広げた。一条と彩子が茶茶を入れた。


「よく見ると、あまり上手ではございませぬ」

「細かいところなど手を抜いております」


しかし、本院にはかまわなかった。多分、一条と彩子には分からぬと思し召された。

本院と源氏女御は都、いや御所を、恐らく崩御あそばすまで離れることは出来ぬであろう。


そんな二人にとって、源氏の君の描いた空、海、山、太陽、月の光、星の輝、忙しく働く庶民、たらふく食べた新鮮な魚、美しい棚田などは夢のまた夢の光景であった。


源氏の君の絵日記は、比較的、よくご覧になる書物の棚に置かれることになった。

今日はここまで。明日も、多分、更新出来ると思うのですが、原作をご存知の方なら、一つのクライマックス、ある重要人物の退場があります。乞うご期待。(・・;

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