女子『おなご』たちの一周忌
一方、女子『おなご』たちも、帝の御座所に集まっていた。一条、彩子、源氏女御、母后、朝顔の姫宮、朧月夜、四の君『頭の中将の夫人、母后の妹』、源氏の君の夫人・花散里夫人、花散里の姉・麗景殿の女御『桐壺帝の未亡人の一人でもある』、常陸親王の姫、末摘花女王『にょおう』、そして箱崎だった。
「よう耐えられましたな」
彩子は一条の喪服の上着を脱がせた。
一条はドッと床に倒れた。
箱崎がまがりに入れた水を差し出した。一条はそれを一気に飲み干した。
源氏女御は一条の体をさすっていた。
右大臣の言葉に「三人の妃殿下全員が身ごもっている」とあったが、一条はつわりが重くて、苦しんでいた。
「体が苦しければ、無理に一周忌の法要に出ることはない」と帝は仰せになったが、「全員出席しなければ、あなどられます」と一条は強く主張した。
そこから、また、物語が少しさかのぼるが、秋ごろの夕げの膳。ご飯と松茸が出ていた。松茸は言うにや及ぶ。炊きたてのご飯には独特の芳香がある。しかし、一条はご飯と松茸の香りに、顔をしかめ、床に手をついた。
「一条、どうしたのじゃ?」
その瞬間、彩子が言った。
「わこ様が出来たのでは?」
帝と母后の顔色が変わった。
そして、御所の医師『くすし』に診てもらったところ、やはり御懐妊だった。
彩子には思い当たる節があり、彩子自身と源氏女御も診てもらったら、二人とも御懐妊だった。
めでたいことではあったが、一条のつわりが重いのは困った。
御所内の用事は彩子、母后、箱崎の三人で分担して何とかなったが、一条は食べられず、弱って行った。
箱崎や女官、女房たちは果物や、からくだものを差し上げていたが、やはりご飯を食べられないと体が弱る。
すると、ある時、源氏女御が彩子の上着を引っ張って「すーしー、すーしー」と言った。
彩子はハッとした。源氏女御は不自由ではあったが、不思議な力を持っていた。例えば、儀式の時に、どちらの装束を着ようか迷うと、源氏女御は何も言わず、あごで正確を示した。
それが、だいたい結果的に合っていた。
なるほど。そうじゃ。鮓『すし』にすれば食べられるかも知れぬ。
この時代の鮓は、現代の握り寿司ではなく、いわゆる「なれ寿司」であった。
しかし、魚があるであろうか?
彩子は、『それまでは一条が担当していたので』あまり立ち入らなかったくりやに入り、尋ねてみた。
「今、鮎が手に入るであろうか?」
「はい、夏より質が落ち、少し値がはりますが・・・」
「かまわぬ。鮎寿司を作って、一条殿に差し上げよ」
何日かたち、くりやの者が一条の寝室に大皿に盛った鮎寿司を持って来た。
彩子は一条にそれを勧めた。
一条も、少しうれしそうな顔をして、一つを口にして食べきった。
そして、それで火がついたのか、5つ6つ食べた。
彩子は髭黒に頼み、近江国はもちろん、大和、紀州、丹波などの自然の多いところで、秋、冬に残っている鮎を集めさせ、鮎寿司を作らせた。
少し人心地を取り戻すと、一条は彩子にわびた。
「ご迷惑をおかけして、申し訳ございません」
「ホホ、そなたは働き過ぎていた故、神仏が休ませて下さったのじゃ」
一条は少し身を起こした。
「みごもったこと、うれしいことはうれしうございますが、恐ろしくもあります。やはり葵さまのことを思い出して・・・」
「大丈夫じゃ。陛下は『女子の運気をすいとる男』ではない・・・」
一条は公務や、神事をやれないまでも、鮎すしを食べたことをきっかけに体力がつき、果物、からくだもの、おみそ汁、あつものもとれるようになった。
そのような折の桐壺帝の一周忌であり、一条は帝の体面を傷つけないように出席したいと申したのである。
彩子は、ここは女子『おなご』たちが、結束することが大事じゃ、と思った。
私がへりくだって、頭を下げよう。
彩子は、まず朝顔の姫宮と朧月夜を招き、接待し、一条の決心について話した。
朝顔の姫宮は「皇室を尊崇する志、篤し。ありがたし。協力いたそうぞ」と仰せになった。
朧月夜も、ここで一条と帝に恩を売っておけば、自分の損にはならぬ、と計算して、協力を約束してくれた。
母后は妹に当たる四の君に声をかけてくれた。
そして、朧月夜は源氏の君の夫人、花散里夫人『とその姉、麗景殿女御』、末摘花女王を連れてきた。
そして、女子『おなご』たちは、一条に薬や茶やからくだものを勧め、源氏女御はずっと一条と手を握り、一条の背をさすっていた。
そうやって、女子『おなご』たちは桐壺帝の一周忌をのりきったのである。
それを真剣にご覧になっている方がいらっしゃった。
藤壺の宮である。
こんばんは。今日も一話、更新出来ました。次はいよいよ藤壺の宮の落飾です。明日は未定ですが、明後日は必ず更新します。よろしくお願いします。(・・;




