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助けた亀がくれた妻  作者: ももんがー
7/18

第七話 亀と妻と貴船へ

今回も短めです

 亀と姫君を助けてから二ヶ月が過ぎた。

 長雨の季節も終わりに近づき、そろそろ暑くなってきた。

 姫君は元々暑さに弱いらしく、日中はぐてりとしている。

 亀が結界を張り気温を下げ、水の術も使ってせっせと姫を冷やしている。

 俺も亀に教わって、風の術が使えるようになった。

 まだそよ風程度だが、姫君を冷やすのに一役かっている。




 俺達の水脈整備はとりあえず終わった。

 毎日毎日あちこちの神域に出向き『(ヌシ)』に会い、水脈を確認するために潜り、龍と話し、水脈やら龍脈やらを繋げていった。


 ホント、大変だった。

 普通の人間にこんな仕事やらせるなよ。


 姫君の作ってくれた結紐がなかったら死んでたかもしれない。

 姫君の「おつかれさま」の笑顔と、抱きしめるというご褒美がなかったら、くじけてたかもしれない。


 毎日霊力削がれて耐性がついた気はするけれども。

 毎日聖水作らされて霊力空っぽになって、霊力増えた気はするけれども。


 もうこんな仕事、やりたくない。

 普通の木工(もくの)(りょう)の仕事に戻りたい。


 とはいえ、今回の功績として特別休暇をもらった。

 仕事にはすぐに戻らなくてもいい。

 もらえるものは何でももらっておくべきだ。




「涼しいところへ行ったらどうだ?」

 久々に顔を合わせた貴族様の一の側近がそんなことを言う。

 

「例えば?」

「貴船とか、大原とか」


 貴船。

 あそこなら確かに涼しいし、水の霊力も豊富だ。

 姫君も少しは回復するかもしれない。


 ただ、あそこは遠い。

 姫君を連れて行くにしても、俺が抱くか背負っていくしかないが、気を遣う姫君は嫌がるだろうなぁ。


 そんな俺の懸念を見透かした側近があっさりと提案してくる。


「ウチの馬、貸すぞ。お前、馬、乗れただろ?」


 にっこりと親切そうに言う様子に、思わずじとりと目を細めてしまう。

 どう考えても裏がある。

 貴族が親切な時にロクなことがあった試しがない。

 おそらくは、姫君を見たいのだろう。


 姫君をこの家につれてきてから、側近は一度も姫君に会っていない。

 いつも家の外で話をしている。


 姫君は差し入れをしてくれる貴族様に恩を感じているようで「一度ご挨拶を」と言うが、俺も亀も姫君を貴族に会わせたくなかった。

 だから「亀の許可が下りない」と理由をつけて、側近にも俺の部下にも姫君を会わせなかった。


 それが側近の主である貴族様は気に入らないのだろう。

 どんな姫なのか興味をもっているに違いない。


 だが、貴船か。

 姫君は喜ぶかもしれない。


 しばしの葛藤のあと、側近を待たせ亀に相談する。

 亀もしばし悩み迷い、結局馬を借りることにした。

 対価として聖水を渡すこと、馬を借りに行くのも返しに行くのも俺一人という条件で交渉が成立した。




 山深い貴船は緑にあふれていた。

 馬上の人となった姫君は見渡す限りの緑に目を輝かせている。

「綺麗」「素敵」と喜ぶ様子に、連れてきてよかったと俺もうれしくなる。


 神社に参拝し、貴船の『(ヌシ)』にも挨拶をする。

 ここでも聖水をせがまれたので作り、献上する。

 姫君の分を確保するのも忘れない。


 ほどよい川原に馬をつなぎ、姫君を抱きかかえて川の中程の岩に下ろす。

 川を流れる冷たい風と、足をつけた水のおかげで、姫君は気持ちよさそうにしている。


 俺も隣に座り、姫君の手を握る。

 そうして集めた霊力を姫君に送る。

 そのうちに、姫君は俺にもたれて、うつらうつらと眠ってしまった。

 随分とはしゃいでいたから無理もない。


 倒れないように肩を抱き寄せる。

 ああ、しあわせだ。

 穏やかで幸せな時間に、胸がいっぱいになった。



 ふ、と目が覚めた。

 俺も寝ていたようだ。あぶないあぶない。

 よく川に落ちなかったなと思っていたら、亀が結界で支えてくれていたようだ。

 姫君の膝の上の亀と目が合うと、あきれたような顔が返ってきて苦笑を浮かべるしかできなかった。


 姫君が目覚めてから、食事の準備をする。

 川原の石を組み火をおこす俺に、姫君は感心しきりだった。

 褒められて鼻の下がのびてしまう俺は単純だと思う。

 さらに魚を釣り、作っておいた串に刺して塩をふって焼く。

 魚をかじって食べたことのない姫君は、最初こそ戸惑っていたが、俺が食べ方を教え、やってみせると「おいしい」と喜んで食べてくれた。


 姫君にしてはよく食べてくれてホッとした。

 最近はまた食が細くなっていて心配していたのだ。


 俺に張り合って亀も魚を採った。

 その亀に俺も張り合う。

 結局、桶ニ杯分の魚が採れて途方にくれる俺達に、姫君が楽しそうに笑った。



「ありがとうございます」

 帰りの馬上で、姫君がうれしそうに笑った。

 ちなみに相乗りだ。

 鞍にまたがった俺が姫君を抱きかかえている。

 亀はいつもの俺の肩だ。


 姫君には行きと同様、頭から(うちぎ)をかけている。

 日差し避けと、顔を隠すためだ。


「私、こんなに楽しかったの、はじめてかもしれません」

 本当に楽しかったのだろう。

 頬が紅潮している。目が輝いている。


「生きたお魚を見たのも、あんな風に焼いたお魚を食べるのもはじめてで」

「それに、川の水がすごく冷たくて気持ちよかった」

「鹿がのぞいてましたね」


 珍しく饒舌(じょうぜつ)になる姫君に、こちらもうれしくなる。

 肩で亀も笑っているのがわかった。


「また行きましょうね」


 そう笑いかけると、姫はきょとんとしたあと、ぱあっと喜びに顔を輝かせた。


「また連れて行ってくださるのですか?」

「もちろん。休暇はまだありますから、また馬を借りて行きましょう。今度はどこに行きましょうか」

「うれしい」


 喜ぶ姫君。

 今日も助けた亀がくれた妻がかわいすぎる。


 浮かれていた俺は、帰路に向けられていた視線に気づかなかった。

 



 貴族様の館に馬を返しに行く。

 採れすぎた魚もつけた。

 側近に「またいつでも貸すぞ」と言われたので頼んでおいた。

 貴族様にも挨拶をする。

「そろそろ姫君に会わせてくれないか」と言われたが「亀が駄目だと言っておりまして」と断る。


「そういえば、知っているか?」

 さっさと帰ろうとしたのに、貴族様の声に止められる。


「今度、市が立つらしいよ」

「市、ですか?」

「姫君をお連れしたら、喜んでもらえるんじゃないか?」


 にっこりと胡散臭い笑みを向ける貴族様。


「日用品だけでなく、珍しい品も並ぶとか」

「お前、この前の仕事で褒美もらっただろう?

 姫君に(かんざし)のひとつでも見立てて贈ったらどうだ? 喜ばれるんじゃないか?」


 側近までそんなことを言う。

 そう言われると、気持ちが揺らぐ。

 

 姫君の喜ぶ様が思い浮かぶ。

 間違いなく喜ぶだろう。

 だが、市となると、不特定多数の人間が入り乱れる。危険も多い。


「……帰って、亀と相談してみます」


 市が開かれる日にちと場所だけを聞いて、辞去した。

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