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助けた亀がくれた妻  作者: ももんがー
6/18

第六話 亀と妻との日々

今回珍しく短めです

 今日もひどい目にあった。

 だいたい普通の人間が神域で『(ヌシ)』と会うなんてオカシイからな?

 いつものことながらごっそり霊力が削がれる。疲れた。


「おかえりなさい」

 家に入ると、すぐに姫君の声が迎えてくれる。

 それだけでホッと力が抜ける。


「ただいま帰りました」

「おつかれさまでした」


 何かの作業の手を止めてこちらに来てくれる。

「黒陽もおつかれさま」と亀を受け取り、笑顔を向ける姫君。


 ああ、かわいいなぁ。


 ふと、今朝の触れ合いを思い出してしまい、無性に抱きしめたくなってしまう。

 好きだと自覚したら途端にこれだ。

 

「? どうされました?」

「抱きしめていいですか?」

「だき――? は?」

「今日、すごく疲れてしまいました。

 姫君を抱きしめたら元気になると思うんです。

 抱きしめていいですか?」

「え、えと、えと、そ、その」


 ちらりと横に置いた亀を見る姫。

 亀には取引済ですよ。ほら、そっぽむいてる。

 亀の態度に許可が出たと判断したのか、姫君が顔を赤くしてちらりと俺を見上げる。かわいい。


「え、えと、その、お、お元気に、なられるのならば、ど、どうぞ?」


 ぎゅ、と目を閉じて身を固くする姫君。

 ああ、もう、大好きだ!


 衝動のままに彼女を抱きしめる。

 ぎゅう、と腕の中に彼女をおさめると、欠けた部分が埋まるような感覚になる。

 彼女の熱。彼女の香り。頭の奥がしびれるようだ。


「――こ、こんなことで、お元気に、なられるのですか?」

 腕の中の姫君がおずおずと話しかけてくる。


「なります。めちゃめちゃ元気もらえます」


 真剣に答えたのに、俺の肩に顔を埋めた姫君がくすりと笑ったのがわかった。

 少し肩の力が抜けた姫君が、俺にもたれてくるのがうれしい。


「お役に立てたなら、よかったです」


 そして、少し身をよじり、俺を見上げてにこりと笑った。


「私の身体などでお役に立てるならば、どうぞお好きになさってくださいね」


 その言葉に、愛らしさに、身体の奥底の欲情が立ち上がった。


 姫君は何も考えていない。

 ただ、良かれと思って言っているだけ。

 それだけだとわかっていても、(よこしま)な感情が渦を巻く。


「――姫……」

 抱きしめる腕をゆるめ、そっと姫君の頬に片手を当てる。

 少し上を向かせると、きょとんとした目と目があった。

 吸い込まれるように唇を寄せ――



 ガツン!



「トロトロするな! さっさと報告書を書け!!」


 亀の投げた木札が頭に直撃した。

 痛みに思わずしゃがみ込む。


「――お…おまっ……、角……!」

「文句あるか?!」

「アリマセン」

「さっさとしろ! 報告書のあとはメシ!」

「ハイ」


「全く油断も隙もない」とぷりぷり怒る亀に、姫君は驚きすぎて固まっている。

 そんな姫君の頭をよしよしとなでる。


「すみません。調子に乗りました」

「え? え?」

「ありがとうございます。おかげで元気になりました」

「そ、それなら、よかった、です?」


 動揺する姫君が可愛らしく、またぎゅうっと抱きしめたら、再び亀に木札を当てられた。




「あのくらい許してくれよ」

「よく言う。私が止めなければ口づけてただろう」

「う」

 同じ男として、亀にはイロイロお見通しだった。


 夜。

 姫君が薬を飲んで眠ったあと、亀と二人で他愛もない話をする。

 亀は酒好きで、貴族様からもらった酒を二人で楽しみながらああだこうだと話をする。

 その時間が、俺も楽しい。


「――あの姫、アブナイんじゃないか?

 イロイロ無自覚というか、自分の魅力がわかってないというか」

「だから私が守っているんじゃないか」

「アンタが過保護すぎるから、危険を危険と知らないんじゃないのか?」

「…………」

「自覚はあるのかよ」

「い、いや。だからこそ私が守らねば!」

「ほどほどにな」


 ずっとこんな日々が続けばいいのに。

 亀の話していた『呪い』から目をそむけるように、俺達は盃を重ねた。




 水脈整備として、あちこちの水源を管理している『(ヌシ)』に会う。

 そんな『(ヌシ)』のいる場所の水は清浄で、高い霊力が込められている。

 いわゆる霊水といわれるものだ。


 せっかくそんな水のある場所に行くので、いつも行った先々で水を少し分けてもらって帰る。

 姫君に飲ませるためだ。


 亀と同じく水属性の姫君は、今、霊力をためる『(うつわ)』に穴が空いた状態のようだ。

 霊力回復薬を毎日飲ませているが、一向に霊力が戻らない。

 霊力が戻らないから、生命力も戻らない。

 このかりそめの生命がいつ尽きるのか、考えないようにしていても、時折じわりと恐怖が迫りくる。

 せめても、と、高い霊力の込められた水をもらってきては飲ませている。

 多少の効果はあるようで、最近では寝込むこともなくなり、歩く練習と称して家のまわりを散歩できるまでになった。


 散歩はもちろん俺達が一緒だ。

 俺が姫君と手をつなぎ、亀は俺の肩に乗っている。

 俺が不埒(ふらち)な真似をしたら「即、耳をかじり取る」ためらしい。こわいこわい。

 俺は姫君と手をつなげているだけでうれしい。

 が、以前亀に言われたように、霊力を集めて、さりげなく姫君に送っている。


 少しでも長く、この時間が続くように。

 少しでも長く、助けた亀がくれた妻が、俺の妻であり続けるように。




 初めて会った時に、亀が俺のことを「霊力を集めるのが上手い」と言っていたことを思い出し、亀と二人で実験をはじめた。

 水属性の姫君のために水の霊力を集められないか、というものだ。


 椀一杯の水の中に霊力を集めて圧縮して、桶一杯分の霊力を込めることはできないか。

 そうすれば、少ない量で多くの霊力を取り込めるのではないか。

 川で、池で、色々と試行錯誤を重ねた結果、水の霊力を圧縮することに成功した。


 試しに、と『(ヌシ)』のいる水でもやってみたが、こちらも成功した。

 霊水どころか聖水といいたくなるようなモノができあがった。


 これに『(ヌシ)』が食いついた。

「水を持って帰ってもいいから自分にも作れ」と命じられ、せっせと聖水を作る。


 『(ヌシ)』をしても美味な水になったらしく、えらく喜ばれ、水脈整備が一層楽になった。


 が『(ヌシ)』同士の繋がりがあるのか、行く先々で聖水を作るようせがまれ、既に行ったところからも「作りに来い」と命じられ、作る俺の霊力は毎日空っぽになった。


 幸い、自分で霊力回復薬を作れるので、夕食のお茶替わりに三人で霊力回復薬を飲んでいる。

 毎日空っぽになるまで霊力を使い、回復薬で回復しているうちに、俺の霊力もかなり上がった。


 水属性というわけでもない俺が何でそんなことができるのだろうと亀と話し合う。

 亀が言うに、俺は(ごん)属性が強いらしい。

 自分は『境界無効』の特殊能力があるだけで属性特化はないと思っていたので驚いた。

 金属性は錬成能力を持つ者が多いと亀が話す。

 その効果で霊力を集めるのが上手かったり、霊水を聖水にできたりするのだろうと推測する。


 酔っぱらった勢いで水を酒に錬成できるか挑戦してみたが、普通に聖水ができただけだった。

 亀と二人、夜中に大笑いした。

第一話の冒頭はこの頃の話です。

連日水脈整備でヘトヘトになり、帰宅して妻をぎゅうぎゅう抱きしめて癒やされておりました。

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