第三話 亀の提案
亀と姫君を助けて五日目。
姫君の熱はやっと下がった。
失われた霊力と体力は戻らず、相変わらず枕から頭が離れない生活を余儀なくされている。
それでも日中起きている時間は少しずつ増えていったし、食事も自分の口でとれるようになった。
最初は重湯、徐々に粥に変えていった。
庶民のゆるい粥など口に合うかと心配したが、「おいしい」と食べてくれて安心した。
霊力回復薬と体力回復薬を飲み、眠る。
眠る様子も、熱にうなされていた時とは違い、安らかに眠っている。
明らかに安定した容態に、俺も亀もようやく一息ついた。
亀と姫君を助けて十日目のことだった。
仕事は特別任務扱いになっている。
部下ががんばってくれたようだ。
貴族様の口添えもあったと聞いている。
その部下が時折仕事の打ち合わせに来る。
元々俺の仕事は現場管理だったから、部下が取りまとめて持ってくる案件を指示することで仕事はできた。
迷惑をかけている部下には貴族様からもらった高級酒を渡した。とても喜んでいた。
「お前には世話になった」
亀と姫君を助けて半月経ったある日。
亀が重々しくそう言った。
「お前のおかげで姫が生き延びた。恩に着る」
そう言って頭を下げる亀。
姫君の熱が下がってから何度も礼を言われている。
俺が亀の立場でも同じことをしたと思うから好きにさせている。
だが、その日はさらに言葉が続いた。
「今も姫が世話になっている。
そこで、何か礼がしたい。
何か叶えたい望みはあるか?」
「望み?」
俺の集める霊力と霊力回復薬で、亀の霊力もこの半月で元に戻った。
だから、たいていの望みを叶えることができるだろうと亀は言う。
「人殺しと強盗以外なら請負うぞ」と笑うが、そう言われてもなぁ。
先日もこの亀は霊力の込められた宝石を寄越してきた。
「治療費及び滞在費だ」と言って。
「いらない」と断ったが、結局押し切られた。
亀に許可をもらって、色々と差し入れてくれている貴族様への支払いとした。
だからこんなことを言い出したのか?
だが、あの宝石ひとつだって、庶民の俺でもとんでもなく高価なものだとわかる。
その上の望みと言われても、困ってしまう。
だか亀も引く様子をみせない。
困った。
困った。
……困った?
ふと、仕事の困り事を思い出した。
あの、水があふれる土地。
水属性のこの亀ならば、何か対処法を知っているかもしれない。
「仕事の相談に乗ってもらう、というのでもいいですか?」
「仕事?」
そして、俺は木工寮の人間だということを改めて説明し、街作りをしているが、水が出て困っていることを話した。
「適任です」と姫君が喜ぶ。
最近では日中起きていられる時間がまた増えた。
「この黒陽は、私の守り役になる前は土木と治水に携わっていたのですよ。
きっとお役に立てると思います」
「がんばってね。黒陽」と姫に励まされ、亀はより一層やる気を見せた。
すぐに向かおうとせっついてくる。
「姫君はどうするんですか?!」
話を聞いてもらうだけのつもりだった俺は驚いた。
「姫には結界を張っていく。
容態も安定しているようだし、私がいなくても大丈夫だ。ですね? 姫」
「はい」
どうも、言い出しっぺは姫君のようだ。
起きていられる時間が増えた姫君は、俺のことをいつも心配していた。
仕事は大丈夫か、自分がいることで迷惑をかけて申し訳ないと、いつも謝っていた。
その度に「大丈夫」と言い聞かせていたのだが、やはり気が済まなかったようだ。
「下々の者は自分に仕えて当たり前」と思っている貴族も多いのに、この姫君はとても穏やかで優しい。
いつも感謝を送ってくれる。
今もまた穏やかな微笑みを俺に向けてくる。
その笑顔に、知らず胸がきゅっとなる。
本当は。
本当は、別の『願い』があった。
ここ半月の亀と姫君との暮らし。
姫君の容態が安定し、穏やかに日々が過ぎるようになった頃から、ふと感じることがある。
まるで、家族のようだ。と。
五歳のあの日に失ったものに近しいナニカを感じていた。
穏やかな姫君の人柄もあるのかもしれない。
亀が好き放題言いたいことを言うからかもしれない。
この二人と、ずっとこのまま暮らせたら。
最近の俺は、ふと、そんなことを考えるようになっていた。
でも、それは口にしてはいけないこと。
明らかな身分違いの俺が願ってはいけないこと。
だから俺は最近「姫君がこのまま良くならなければいい」なんて卑怯なことを、つい、考えてしまう。
姫君の具合が良くならなければ、このまま二人はここに留まらざるを得ない。
姫君の不幸を望む卑怯な俺は「姫君と亀との暮らしを願ってはいけない」と理解している。
そもそも身分が違う。違いすぎる。
明らかに高位の霊獣が守り役についているからだけではない。
髪の長さ。美しい手指。仕草。話し方。
その全てが彼女を高位貴族だと示している。
姫君と亀との暮らしを望んではいけない。
姫君が元気になったら、その身分にふさわしい場所に返さなくてはいけない。
そう、理解している。
理解してはいるが、それでも「二人とずっと暮らせたら」なんてことを、つい、考えてしまう。
そんな考えを見せることなく、姫君と亀との日々を重ねている。
「一日でも長くこの日々が続きますように」と、卑怯な願いを抱いている。
自分がこんな卑怯な男だとは知らなかった。
結局、姫君と亀に押し切られて現場を見に行くことになった。
家を出ようとする段になって俺が姫君のことが心配でたまらなくなった。
行くのをためらう俺に守り役である亀のほうが「トロトロするな! 行くぞ!」とせっついてくる。
アンタ心配じゃないのかよ。
「結界があるから大丈夫だ!
姫、行ってきます!」
張り切る亀を肩にのせて、しぶしぶと扉をくぐる。
「寝ててくださいね? 無理しないでくださいね?」
自分がこんなに心配性だとは知らなかった。
「大人しく寝ていますから大丈夫です。黒陽、お願いね」
「お任せください姫!!」
更にやる気をみせる亀にてしてしと肩を叩かれ、俺はしぶしぶ現場に向かった。
「話にならない!」
ご立腹の亀をはさみ、夕飯を食べる。
姫君も俺と同じ固さのものが食べられるまでに回復した。
亀も同じ食事を出している。
亀は人間の食事を、俺の作ったちいさな匙と自分の前足を器用に使って食べる。
「水脈がめちゃめちゃだ!
龍脈も霊気も何も整えてない!
誰があんな雑な仕事をしたんだ?!」
ぷりぷりと怒りながらも夕飯は食べる。
苦笑しかできない俺をにらんでくるので「そういうのは陰明寮かな? 神祇官かな?」と適当に答える。
「それでも造営担当者か!!」と怒鳴るが、知らないよそんな仕事。下っ端に無茶言うな。
「街作りには水脈の調整が必要」とか、初耳だ。
川や池を埋め立てたり流れを変える『治水』とはまた違うらしい。
亀のいた世界は俺達人間の世界とは違う理で成り立っていたのかもしれない。
「なんにしても、まずは水脈の調整が必要だ。
明日から行くぞ」
「は?」
ナニを、明日から、どうする、と?
「水源を管理している『主』にあいさつをして。
水脈を通って淀みがないか確認して。
龍脈の流れと水脈の流れに不具合がおきないように整えなおして。
あ、この街を囲む『四神』にも挨拶しにいかねばな」
「忙しくなるぞー」と亀はウキウキしているが、ちょっと待ってほしい。
「その間、姫君はどうするんですか!?」
心配する俺をよそに、姫君はのほほんと笑う。
「私なら大丈夫です。ひとりで過ごすのは慣れてます」
「今日も大丈夫だったでしょ?」と可愛く首をかしげてもダメだ。心配だ。
「姫には結界があるから大丈夫だと何度も言っておろう」
「俺みたいのがいたらどうするんですか」
俺は『境界無効』の能力者だ。
同じ能力でなくても、姫君に危害を加えることのできる能力者がいないとは言い切れない。
なのに二人共「大丈夫大丈夫」といって聞かない。
なんで当事者と守り役がそんなにのんきなんだよ!?
「お前には世話になったからな。
これでお前への礼になるからわからんが、この仕事がいずれ姫がまた生まれ変わった時に役立つのは間違いない。
やるからには完璧にやるぞ!!」
むん! とはりきる亀。
――今、おかしなことを言わなかったか?
「――『生まれ変わった時』?」
気になった言葉を繰り返すと、亀も姫も何てことないような顔で教えてくれた。
「我らには『呪い』がかけられているのだ」
「――『呪い』?」
その言葉の禍々しさに、強さに、知らず動きが止まる。
そんな俺に気付いているのかいないのか、亀は平気な顔でさらりと続ける。
「私には『人間の姿を失い獣の姿になり』『死ねない』呪い。
姫は『二十歳まで生きられない』で『記憶を持ったまま何度も転生する』呪い」
――息が、止まった。
『呪い』?
獣の姿? 死ねない?
生きられない?
二十歳まで、生きられない?
生きられない?
「――誰が、なんのために、そんな」
かろうじて出たのはそんな言葉。
死ねないなんて。
二十歳まで生きられないなんて。
姫君は、今何歳だ?
そうして、亀は話してくれた。
亀と姫君はこことは『異なる世界』に生まれ住んでいたという。
異世界からこの世界に落ちてきた、いわゆる『落人』だ。
まさか本当に違う世界の住人とは思っていなくて驚いた。
魔獣のでる森に囲まれたその世界には、五つの国があった。
東西南北にひとつずつと、中央にひとつ。
そのうちの北の国に住むのが、姫君達『黒亀族』を中心とした『黒の一族』。
姫君はその王の娘であり、亀は姫君の守り役であり筆頭護衛だという。
ちなみに亀の妻が姫君の筆頭側仕え、娘達も側仕えだったと亀が話す。
生まれた時から姫君は霊力過多症で寝込んでいた。
しかし姫には結界や封印に特化した能力があり、離れた城から『魔の森』を抑えていた。
ある時、転機が訪れた。
医術と薬術で有名な東の国の姫と、学術に秀でた西の国の『先見姫』が、同時期に中央の国におもむくという話が聞こえてきた。
その二人の知恵があれば姫君の霊力過多症が治るかもしれない。
一縷の望みをかけて、姫君と側近達は中央の国に向かった。
結果的に、姫君の霊力過多症は落ち着いた。
東の姫の薬と西の姫による霊力訓練、そして同じく中央の国にきていた南の戦闘集団の姫に引っ張りまわされることで体力がつき、人並み程度に過ごせるようになった。
そして、事件が起きた。
中央の『黄の一族』が封じていた、世界を滅ぼす存在であると伝わる『災禍』と呼ばれるモノの封印を、姫君が解いてしまった。
そこが『封じの森』とは知らなかった。
それが『災禍』を封じた大樹だとは知らなかった。
知らずに触れて、姫君の能力がその封印を解いてしまった。
その場にいたのは、東西南北四人の姫と、それぞれの守り役。
『黄』の王族の前に連行され、魂に『呪い』を刻まれ、異世界に落とされた。
異世界に、この世界に落ちて、『呪い』が本当だと知った。
どれほど元気でも二十歳を迎えられない。
何度死んでも、何度も生まれ変わる姫君。
そんな姫君の死をを何度も見送ることしかできず、己は死ぬことができない亀。
それは、どれほどの苦しみだろう。
それほどの『罪』だというのか。
憤りと悲しみに、歯を食いしばる。
本人達がけろりと話しているのだ。
俺が怒るのも泣くのも違うだろうと、無理矢理感情を抑える。
『何度も生まれ変わっている』と話していた。
きっと今生生まれたのはこの世界の貴族の家なのだろう。
貴族として育ったのだろう。
そんな姫が何故あんなところで泥に埋もれていたのだろうか。
聞きたいことは山とあったが、渦巻く感情を抑えて一番気になることを口にした。
「……姫君は、今おいくつですか…?」
「十八です」
答えて、悲しそうに微笑む。
「だから言ったでしょう?『余命がない』って」
そう笑う姫君が哀れで、つい別の言葉が出た。
「――俺と十違いですね」
「そうなのですか?」
「ふむ。夫婦でもおかしくない年齢差だな」
「は?」
確かに今の時代、そのくらいの年齢差は普通だと聞くが。
何で急に『夫婦』なんて単語が出た?
戸惑う俺をよそに、亀は「姫」と姫君に話を向ける。
「先程話した水脈の調整ですが、かなり時間がかかりそうです。
その間、姫はこちらでお待ちいただきたいのですが、どうでしょう。この者と夫婦ということにするというのは」
「は…、はあああぁ?!」
驚愕に箸を落とした俺と違い、姫君は「夫婦ですか?」とのんきなものだ。
「な、なに、何言ってんだアンタ!」
「何とは何だ」
「夫婦って…! 何でそうなるんだ?!」
思わず話す言葉に地が出る。
亀はフンと鼻を鳴らし、平然と説明してくる。
「男の一人暮らしにいつまでも若い娘がいては邪推の元だろう。
夫婦ならば男女が暮らしていても誰も文句は言うまい」
「そ」
それは、確かに、そうかもしれないが。
「助けた娘が恩義を感じて妻になる話など、古今東西あふれかえるほどあるだろう。
よくある話だ。問題ない」
「大アリだ!!」
怒鳴る俺に、亀は急に目を細めた。
「――何だ? お前、我が姫に不服があるとでも言うのか?」
「そうじゃなくて!!」
不服なんてあるか!!
「身分! 身分が違いすぎるだろうが!!
平民の男と王族の姫なんて、御伽話にも無いわ!」
そう怒鳴る俺にも、二人はけろっとしたものだ。
「もう国は滅びていますから、王族ではないです」
「父君である王から、姫の婿に関しては私に決定権を与えると言質を取っている」
突っ込み所が多すぎて、何から言っていいのかわからない。
異世界の王族ではないかもしれないが、姫君、アンタ絶対この世界の貴族の娘だろう。
貴族様が差し入れた、俺には何かわからない道具や本を嬉々として使いこなしているし、物腰が庶民とは違いすぎる。
指摘するといなくなりそうだから今まで指摘したことはないけれども。
それと亀。
婿決定権持ってるって、何だソレ。
俺が言葉も出せず震えているのを、姫君が勘違いしたらしい。
「黒陽が申し訳ありません。――黒陽。ご迷惑ですよ」
「迷惑ではありません!!」
かぶせ気味に本音が出た。
マズい。
あわてて口を手でふさぐが、姫君はびっくりして固まっている。
亀は何故かニヤリと悪い顔で笑っている。
「め、迷惑というなら!
姫君のほうこそが迷惑ではないですか!?
俺のような者と、仮にでも夫婦になるなど、お嫌でしょう?」
姫君はこてりと首をかしげる。
「私、『夫婦』というものになったことがないので、よくわからないのです」
先程「何度も生まれ変わっている」と聞いたが、姫君を妻とした男は存在しないらしい。
仄暗い喜びが胸に広がるが、あわててそれに蓋をする。
「ただ、夫婦というものは、共に暮らすのですよね?
私、貴方様と共に暮らすのは、嫌ではないです」
「!」
一瞬で顔に血がのぼる。
そんな俺を亀がニヤニヤと見ている。
くそぅ。性悪亀め。
「むしろ、ご迷惑をおかけするばかりで、申し訳なくて…」
膝の上で拳を作り、申し訳なさそうにうつむく姫君。
もう見慣れた仕草に、俺が口を開くより早く亀が言う。
「夫婦なら、迷惑をかけてもいいのですよ姫」
「そうなの?」
姫君は初めて知った事柄に驚いている。
亀よ。その説明はどうなんだ?
色々問題がある気がするぞ?
「そうなのですか?」と姫君が聞いてくる。
純粋な視線を受け止められなくて視線が泳ぐ。
「えぇ、まぁ、そうなんですかね…?」
「俺も夫婦になったことがないから…」
などとごにょごにょ言うことしかできない。
そもそも何で「夫婦がわからない」んだよ?
自分の両親を見てないのか?
そこまで考えて、ふと思い出した。
貴族は幼い頃から親とは別に暮らすと聞いたことがあった。
側仕えの話もあったし、この姫君も両親とはあまり会わずに育ったクチなのだろう。
「夫婦とは互いに助け合うものなのです。
夫が困ったら妻が。
妻が困ったら夫が助けるものなのです。
今は姫の体調が良くなくて迷惑をかけているかもしれませんが、姫が元気になったら、姫のできることをこの男にしてやればよいのですよ」
亀のもっともな説明に、姫は納得している。
この説明には俺も異論はない。
「私にできることがあるかしら…」
不安に目を伏せる姫に、亀が尚も言う。
「声をかけてやってください」
「声を?」
「男とはバカな生き物で。
仕事の前に『いってらっしゃい』『がんばって』と言われればはりきって働きますし、疲れて帰っても『おつかれさま』『ありがとう』と言われるだけで疲れが吹き飛ぶのです」
否定はしない。
ここ数日、姫君にかけられた言葉でそんな反応をしている。
おそらく亀は俺のそんな反応の話をしている。性悪亀め。
「あと、姫は裁縫が得意でしょう?
繕い物や、新しい服を仕立ててやるのもいいかもしれませんね」
新しい服?! 仕立てる?!
そんな贅沢、貴族しかしないぞ!?
なのに姫君は「それなら私でもできるかも」と喜んでいる。
できるのかよ。やっぱり貴族なんだな。
「では、夫婦としてすべきことは、声をおかけすることと、お裁縫ですか?」
一番重要な夫婦の営みに関する知識がないらしい。
「こ――」
「そうです!」
俺が口を開く前に、亀が声をかぶせてきた。
ニコニコと姫に笑いかけながら、素早く俺の肩に乗り、ドスの効いた声で耳元にささやく。
「夫婦『ということにする』んだ。勘違いするな」
グサリと大きな釘を刺してくる。
「子作りとか、男女のナントカとか、そんなものはまだ姫は知らなくていい。
お前も教えるなよ」
つまり俺は、姫君の『夫婦ごっこ』につきあわされるということか。
それならば、まあ、いいか?
それに、姫君がそれで「迷惑をかけている」と気に病むことがなくなるなら、俺もうれしい。
姫君も亀の説明に納得したようだ。
「それなら、私はかまいません。
ご迷惑でなければ、夫婦ということにしてくださいませ」
「いけませんか?」と問うてくるが、その顔は反則だ。
封じていた気持ちが漏れそうになるのを、再びぎゅっと封じる。
「姫君さえ、よろしいのでしたら…」
そう答え、気付いた。
夫婦とは、家族だ。
最近ずっと望んでいた願い。
口にしてはいけないと封じていた望み。
この二人を、家族のように感じていた。
この二人と、ずっとこのまま暮らせたら。
その願いが、叶う。
『夫婦ごっこ』、上等じゃないか。
これで堂々と一緒に暮らせる。
姫君が元気になっても、一緒にいられる。
亀は俺の『本当の願い』を知っていたのだろうか。
ニヤニヤと意地悪く笑う様子から知っていた気がする。
悔しいが、うれしい。
姫君はきちんと座り、俺にむかって一礼した。
「ふつつか者ではごさいますが、どうぞよろしくお願いいたします」
「こちらこそ、よろしくお願いいたします」
こうして姫君は『助けた亀がくれた妻』になった。
二十八歳の男性と十八歳の女性と聞くと、現代の感覚では「ん?」かもですが、この時代では十八歳は成人です。
現代の感覚に置き換えると三十三歳の男性と二十三歳の女性といった感覚です。
年齢差十歳というのもこの時代には普通(という設定)です。
年齢差よりも身分差のほうが問題というかありえない時代のお話です。




