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助けた亀がくれた妻  作者: ももんがー
18/18

番外編 智明という男

貴族様の一の側近視点です

 鬱蒼(うっそう)とした竹林の中に朽ちかけた堂。

 都から離れたそこは、オニが出ると噂の場所だった。

 それを証明するかのように、辺りをヒトならざるモノが取り囲んでいる。


 月のない深夜。

 堂の入口には見張りの男が太刀を抱えたまま座り居眠りをしている。

 堂の中には姫がひとり。熱心に経をあげている。


 堂を取り囲んでいるモノ達は我先に姫を喰らおうとお互いに牽制しあっている。


 その姫の側に、突然男の声がした。


「――もし、もし」


 突然の声に姫が顔を上げる。

 声を上げる前に「しっ」と男が制する。


「私は通りすがりの者です。

 失礼ながら、外は異形のモノに取り囲まれております。

 私は隠形(おんぎょう)の術が使えます。

 ここから貴女様を逃がすことができますが、いかがいたしましょうか」


 簡潔に要件だけを述べる。

 無理矢理助けることはしない。

 そして、あの異形どもの間をくぐりぬけてくる実力と胆力。


「――気に入った」


 やっぱり気に入りましたか。


 その声にぎょっとする男。

 無理もない。

 それ、姫の格好で(おとり)になっている我が君――成人男性だからな。


「お前、この件が片付いたら話がある。しばし待て」


 美しい顔でニヤリと笑い、すっくと立ち上がる我が君。

 女物の着物でも凛々しいですね。


頼任(よりとう)


 ハイハイ。お片付けですね。

 承知しました。


 柱の陰から現れた私に、男はまたも驚いている。


真盛(さねもり)。やるぞ」


 外で寝たふりをしていた男に声をかける。

 我が君の姫の姿につられた妖魔が私達に気付いた。

 堂に飛びかかってきたのを二人で斬り倒していく。

 我が君も術で支援してくださる。


 声をかけてくれた親切な男は、ただ呆然と立っていた。



 それが、我らと智明(ともあき)の出会い。




「智明。明日は空いているか」

木工(もくの)(りょう)の仕事で忙しいです」

「夜だから大丈夫だ。仕事、頼む」

 ジトリとこちらをにらみつけてくる男。


 我が君に気に入られた男――智明は、驚くことに召し抱えられるのを拒否した。

 我が君に召し抱えられるなんてたいそうな出世だと思うのに。


「今の仕事が気に入っていますので」とつれない。


 だが、能力者としての実力の高い智明を手放すことを我が君が惜しみ、こうして時折仕事を依頼している。


 本人は「俺はただの下っ端役人ですから」「貴族様と関われる身分にありませんから」と、貴族たる我らから距離を取ろうとする。

 が。

 仕事はできる。余計なことは言わない。詮索(せんさく)しない。気が利く。頭もいい。上級退魔師並の実力者。そのうえ薬術にも詳しいとあって、智明と共に仕事をした人間はこぞって奴を欲しがる。


 それが奴は面倒らしい。

 そんなところも我が君は気に入っている。

 そして私も気に入っている。



 何でも幼い頃、野盗に村を全滅されたらしい。

 それから寺で過ごした五年で医術薬術を学び、霊力と体術を鍛えたという。

「何もできず目の前で身内を殺された悔しさをぶつけていただけ」と本人が教えてくれた。

 そのあと木工(もくの)(りょう)に勤める叔父に引き取られ、都選定のために候補地を巡った。

 そこで腕っぷしやら何やらいろいろと鍛え上げられ、今の智明ができたようだ。


 木工(もくの)(りょう)で色々あって、貴族嫌いになったらしい。

 何があったかはしらないが、仕事でつきあう分には普通に接してくれるので問題はない。




 そんな智明と出会ってもうすぐ十年。

 その間に我が君も私も何人も子を得た。

 しかし奴は女の影ひとつなく仕事に邁進(まいしん)している。


 いつまでも一人の奴に「女性を紹介しようか」とからかいまじりに話したこともあるが「稼ぎの少ない平民が結婚とか、無いですから」と馬鹿にした目で見られただけだった。


「これだからお貴族様は」と言いたげな顔に、こいつだもんなぁと納得した。




 その智明が、妻を得たと報告してきた。




 最初の報告は奴の部下が持ってきた。


「西の資材置場に巨大な亀が現れた」

「結界を張っていて立ち入れなかったところを、智明が亀と交渉し、どいてもらった」

「亀は姫を守っていた」

「亀の姫を清めると約束したので仕事を休む」

「できれば特別任務扱いにしてほしい」


 …意味がわからない。


頼任(よりとう)。これはどういうことだろうね?」

「調べて参ります」


 現場にいた人間に話を聞き、現場も確認する。

 当の智明に話を聞こうと家に行くも「今忙しい!!」と家の中から怒鳴られた。


 十年の付き合いでわかる。

 これは駄目なやつだ。

 出直そう。


 翌日出向くと、智明の家の扉に触れることができなかった。

 結界が張ってある。

 今まではこんなことはなかった。

 そもそも奴は結界術は使えなかった。

 亀が関係しているのか?

 声をかけたが、反応がなかった。

 あきらめて翌日出直すことにする。


 さらに翌日。

 報告があがって三日目。

 やっと智明本人に会えた。


 そのときはまだ普通の智明だった。



 次に会った智明は、肩に亀を乗せていた。

 黒っぽい甲羅。

 額には日輪に見えなくもない白い模様。

 報告にあった亀だった。


 確かにとんでもない霊力量だ。

 ひれ伏したくなるのを必死にこらえる。

 私の後ろに控えていた数人は倒れていた。


 そして「この助けた亀に教えてもらったのですが」と、この都の水脈と龍脈の問題を話す。


 大問題の勃発(ぼっぱつ)内裏(だいり)中が大騒ぎになっても、言い出した智明本人はけろりとしている。


 誰も亀様の教えてくれた方法を実行に移せず、結局智明に依頼することになったときも「面倒くさい」と思っていることは明白だった。

 大人なので上手く隠してはいるが、十年付き合いのある我らにはお見通しだった。




 金も名声も欲せず、権力欲もない。

 そんな智明には、この仕事を成功させたら内裏での立場が有利になることなど考えつかないのだろう。


 現在の奴は木工(もくの)(りょう)の所属だが、能力者としては我が君の庇護下(ひごか)にある。

 智明が仕事を成功させたら、都も助かるが、我が君の立場も上がる。発言権も強くなる。

 権力抗争なんてものは、いい駒をどれだけ持っているか、だ。




「妻を迎えました」

 智明にそう報告されたときには、意味がわからなかった。

 あの智明が。

 金も名声も権力も女も興味のない智明が。


 妻?


「助けた亀の姫が、恩返しにと、妻になってくれました」

 そんなおとぎ話みたいな。


「…姫は、いくつだ?」

「十八です」

 即答。どうやら嘘ではないらしい。


「一目ご挨拶を」

「亀が駄目だと言っておりまして」


「どんな姫だ?」

「……………かわいい姫です」


 ……おいおいおいおい。

 あの智明が照れたぞ?!


 我が君も他の者も、私の報告に大騒ぎになった。

「妻を迎えた!?」「照れた!?」

 一目『智明の妻』を見たいと、手を変え品を変え誘いをかけたが、智明と亀様による鉄壁の守りで一度も見ることは叶わなかった。



 ある日、我が君に依頼がきた。

 これから取り込みたい派閥の貴族だった。

 智明の妻は「十年前に死んだ自分の娘に違いない」と訴える。

「一目会わせてほしい」と言われても、我らも会ったことがないのだ。

 智明本人の家に行っていないのかたずねると「何故か家に近づけない」と話す。

 おそらくは亀様の結界だろう。


 貴族の思惑はわかっている。

 都の水脈整備を成した智明を取り込みたいのだ。

 貴族ならば当然智明について調査している。

 奴が非常に優秀な人間であることは知られてしまった。

 それに加えて今回の功績。

 領地を一カ国拝領してもおかしくないだけの功績だ。

 本人は特別手当と特別休暇だけで喜んでいるが。


 その妻が自分の娘であれば、難なく智明を手に入れられる。

 もちろん娘かわいさもあるだろう。

 だが、一番の目的は智明だろう。


 有能な人材。優れた能力者。

 今回の件で『(ヌシ)』と呼ばれる存在とも繋がった実力者。

 一族に迎えれば、これほど頼もしい男もいまい。

 さらに都の水脈を整えた男の身内となれば、貴族の内裏での発言権は大きくなるに違いない。



 交渉の末、我が君は、智明に出掛けることをすすめることを約束した。

 あとは貴族が勝手にやれということだ。



 結局は貴族と智明の妻は無関係となった。

 我が君の『真実の眼』で()ても、智明の言葉に嘘はなかった。

 まさか異世界の王族の姫とは思わず、驚いた。

 あの亀様の霊力量も知恵も、異世界の王族の筆頭護衛と聞けば「なるほど」と納得せざるを得なかった。


 異世界の姫とはどんな姫なのか、ますます興味がわいたが「亀が駄目だと言っておりまして」といつものように会わせてもらえなかった。




 智明は会う度に変わっていった。

 顔つきが全然違う。優しい顔になった。

 妻のことをたずねると、しあわせそうに笑う。

「お前智明の偽物か?!」と言いたくなるのを毎度こらえるのが大変なほどに。


 妻とは偉大なものだと感心する。


 ただ、その妻の容態は良くないらしい。

 死にそうになっていた亀様の姫を助け妻になってもらったらしいが、助けたといっても完治はしていないようだ。


 だが、水脈の件から智明の家につけている見張りの報告によると、時折二人で家のまわりを散歩しているらしい。

 手をつないで仲睦まじいと報告があった。

 亀様の結界か、近くには行けないので遠くから見張っているため姫の顔立ちはわからないが、二人がしあわせそうなのはわかるとあった。


 だから、今に妻が元気になって、我らに紹介してくれるだろうと、待っていた。





 見張りから報告があった。

 ここ三日、智明が家から出ていないという。

 当然、姫の姿も見えない。


 一日に何度も家を出入りしていた智明が、三日も姿を見せない。

 誰もが不測の事態が起こっていると予想した。



 智明の家に行くと、あの亀様の結界がなくなっていた。

 それだけでも異常事態だ。


「智明ー」

 声をかけても反応がない。


 まさか、中で死んでないよな?

 冗談まじりの考えが浮かぶ。

 智明を倒せる人間などまずいない。


「智明ー。入るぞー?」

 ドンドンと扉を叩いても返事がない。

 これはますますおかしいと扉を開ける。


 智明が、倒れていた。

 どこかにでかけていたのか、草履(ぞうり)を履いたまま床にうつ伏せていた。


「智明!」

 あわてて駆け寄り、顔を見て驚いた。


 泣いている。

 表情のない顔で、どこも見ていない目で涙を流している。


 泣く智明など初めて見た。

 とりあえず生きていることに安堵する。


「智明…?」

 ふと気付く。


「妻と亀様は、どうした…?」


 そう声をかけた途端、智明がピクリと反応した。


「う…、う…、」


 拳を握り、顔を伏せた。


「うわああああぁぁ!!」


 その慟哭(どうこく)に、察した。

 智明は、妻を(うしな)ったらしい。



 泣き疲れたところで、せめてもと水を飲ませる。

 起こしてやっても呆然とするばかりで何も反応しない。

 柄杓(ひしゃく)の水も、ほとんどこぼしていた。


 これが本当に智明か?

 抜け殻じゃないか。


 別人のような有様に、どれだけ妻を愛していたのかわかる。

 だが、このままではいつか智明も死んでしまう。

 智明の信頼している部下にも連絡し、お互い時折様子を見にくることにした。





 幽霊のようだった智明が、ある日挨拶に来た。

 家での姿が嘘のようにさっぱりとした姿で、いつもの智明のように見えた。


「ご心配をおかけ致しました。

 本日より木工(もくの)(りょう)の仕事に復帰致しました。

 退魔の仕事も、ご依頼があればお受けします」


 あまりの変わりぶりに、私も、報告を受けていた我が君も声が出ない。


「……元気になったようで、よかったよ」


 さすがは我が君。

 かろうじてでも、智明に言葉を返された。

 そして目線で私に命ずる。

 わ、私が聞くんですか?!


「――その、妻と亀様、は?」

 おそるおそるたずねると、智明は一瞬苦しそうな顔をした。

 が、すぐにいつもの冷静な顔に戻り、淡々と報告した。


鳥辺野(とりべの)に連れていきました」


 それは、亡骸を弔ったという意味。

 予想はしていたが、本人に言われると、思わず眉が寄る。


「それは、辛いことだったね。ご冥福をお祈りするよ」

「ありがとうございます」


 我が君の弔辞にも冷静に返す。

 もう今までの智明のように見える。


「妻と約束しましたので。

 これまで以上に都作りに邁進(まいしん)致します。

 退魔も、都の平穏のためならば、極力お受け致します」


 きっぱり言う智明は、今までとはどこか違っていた。

 その指に光るものを見つけた。


「指輪をしているのか?」


 その指摘に、智明がうれしそうに笑う。

 おいおい。今までそんな笑顔見せたことないじゃないか。どうした?!


「妻と、揃いでして」


 その顔で、智明がどれだけ妻を愛していたのかわかった。

 智明は穏やかに笑っているのに、聞いた私のほうが泣きたくなった。




 その後の智明は、よく働いた。

 今まで以上に働いた。

 智明を取り込みたい貴族は多かったが、変わらずどんな誘いも断っていた。


「千年続く、住みよい都を作ると、妻と約束しましたので」と言い、働いた。



 あの智明がここまで愛した女性とはどんな女性だったのだろう。

 一度お会いしたかった。


 しあわせそうに妻のことを話す智明を見ていると、会えなかったことが残念でならない。

これにてこのお話は完結です。

お読みいただきありがとうございました。

明日からはまた別のお話を始めます。

引き続きよろしくおねがいします。

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