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第二回イベント本番 その2

 イベントが始まってからしばし。


「――ヘビー・ストライク!」

「パワーショット!」

「光の雨よ、降り注げ! シャインスコール!」

 

 カイト達【アグレアーブル】は、通常のジャイアントラットの十倍以上はある二足歩行の超巨大なネズミ――キングジャイアントラットと戦闘を繰り広げていた。


「うおおおっ! ダブルスラッシュ!」

「出でよ炎弾、燃えろ! ファイアボール!」

「ヘビー・ストライク!」

「弾けろ、水泡(すいほう)! ポッピングバブル!」

「インペイル!」


 カイト・リオン・エミに続いて、他のメンバーも特技や魔法を放つ。


 もう既に結構なダメージを与えているはずだが、キングジャイアントラットはまだ倒れず。

 攻撃に転じようとしているのか、深く腰を落とした。

 初めて見る動きだ。


「――何か来るぞっ!」

「避けてください!」


 カイトとリオンが後退しながら声を上げる。

 直後、巨大ネズミは走り出したかと思うと高く跳躍(ちょうやく)

 空中でぐるりと一回転し、その巨大な両足で逃げ遅れた男女を踏み付けた。

 足技の第二特技――フットスタンプだ。


「タイチっ! サキっ!」


 カイトが呼びかけるも、声は返ってこない。

 ネズミが後ろに大きく飛び退くと、そこに二人の姿はなかった。


「チッ! やられちまったか!」

「カイトさん、あいつめちゃくちゃ強いですよ! MPケチってる場合じゃないかも!」

「だな。仕方ねえ! リオン、出し惜しみせず全力で行くぞ!」

「はい!」

「よし! 今回は俺らに任せて、他の奴らは下がってろ!」


 レベルが低い他のメンバー達に指示を出すと、カイトは地面を蹴った。

 そして残り十メートルあたりまで近づいたところで――


「フェイタルチャージ!」

「ギガアロー!」


 カイトが大剣の第四特技、リオンが弓の第四特技を発動。

 カイトはワープしたのかと錯覚するほどの速さでネズミに接近し、そのまま斬り抜けた。

 直後、リオンが放った矢が巨大化しネズミを射抜く。


 その瞬間、ネズミは粒子と化して消え去った。


「……ふぅ」

「おお! やっぱカイトとリオンは強えな!」

「だね! さすがウチのツートップ!」

「やったね、かーくん!」

「カイトさん、ナイスです!」


 何とか倒せたことにカイトが安堵の溜め息を吐いていると、彼のもとに続々とメンバーが駆け寄り、次々に声を掛けた。


「まあな! しっかし、あのバカでかいネズミ、思ってた以上に強かったな。おかげでタイチとサキがやられちまったし、MPもかなり使っちまった」

「ねー。予選の時の大型モンスターはこんなに強くなかったのに」

「もしかすると本選だから、予選の時よりも強く設定されてるのかもしれないですね」

「かもなー。まあ、あいつらには悪いけど、全滅しなかっただけ良しとするか。んで、メダルはっと」


 カイトは視界の右側に表示されている【ギルド総獲得メダル数】に目を向けると、5枚から25枚に増えていた。

 それに伴い、その下の【ギルド平均所持枚数】も自動的に計算され、2枚になっている。


「おっ! 強かっただけあって、落とす枚数も増えてんじゃん」

「ほんとだ! リスクは大きいけど、やっぱり倒す価値はあるね!」

「ですね! あっ、獲得したメダル、カイトさんに渡しときますね」


 リオンはそう言うとメニューウインドウを開き、プレゼント機能を利用することで獲得したメダルをカイトに渡した。

 事前の作戦会議にて、『一番強い奴が持っていたほうが死ににくいから良いだろう』との結論に至り、メダルはカイトに集約することに決めたためだ。


 受け渡しが済むと、カイトは両手を叩いて視線を集めてから口を開いた。


「よし、このまま大型モンスターを狩るぞ! ただ、今度は油断しねーようにな! あと、俺とリオンはだいぶMP使っちまったから、次はお前らが頑張れよ!」

「おう、任せとけ!」

「次はかますぜ!」

「カイトさんとリオンに負けないように頑張ります!」

「うっし! じゃあ、行くか!」



 ☆



 エレナ達【いちごもんぶらん】は、順調に落ちているメダルを集めていた。


「――これで8枚目かー! 結構、いいペースじゃない?」

「だね! あと一枚で平均3枚になるし!」

「よーし! このままメダル探し頑張ろーっ!」

「「おー!」」


 気合いを入れたところで、さあ先に進もうとしたその時。


「あっ、居たー!!」


 突然、後ろから男の声が聞こえてきた。


 三人はビクッと身体を震わせながら、即座に振り返る。

 すると、少し先のほうに二十代前半といったところの若い男が二人、こちらに向かって走ってきていた。


 敵の姿を捉えたエレナ達は、それぞれ武器を構えて臨戦態勢(りんせんたいせい)に入る。

 お互いに頷き合い、術技を発動させようとした瞬間――


「「エレナちゃーん!」」


 二人の男が駆け寄りながら、エレナの名を叫んだ。


「……えっ?」


 突然名前を呼ばれたことにエレナは驚き、目をぱちくりさせたまま固まる。

 やがて男達が自分達のもとに辿り着くと、鼻息を荒くしながら口を開いた。


「え、エレナちゃん! やっと……やっと見つけたよ!」

「ぼっ、ぼぼぼっ、僕達、ずっとエレナたんをさが、探してたんだ!」

「えっ? ……えっと、もしかしてあなた達、私の視聴者さん?」

「そうだよ! あっ、ちょっとごめんね! 他のエレナイトにもすぐ来るように連絡しとかないと!」


 そう言って、片方の男がメニューウインドウを開いた。

 事態が理解できず、エレナ達はそのまま立ち尽くしていると、少ししてからその男はメニューウインドウを閉じて話を続けた。


「これでよしっと! さあ、エレナちゃん! まずは僕達を倒してメダルを!」

「どどど、どうぞ!」


 その言葉を聞いて、エレナはようやく男達の行動を理解した。

 呆れるあまり、つい溜め息が漏れそうになるも何とかそれを我慢。

 無理やり笑顔を作って、二人に言葉を投げかける。


「……ねえ、あなた達。最近私の放送見てくれてる?」

「も、もちろんだよ! 毎回欠かさず見てるよ!」

「ぼぼっ、僕も! 生放送とアーカイブでに、二回は必ず!」

「そっか、ありがとう! ……でも、おかしいなー? だったら、こういうのはズルになるから辞めてって言ってるの知ってるはずだよね?」


 エレナがそう言うと、男達は明らかにたじろいだ。

 それから少ししてから、片方の男が俯きながら言った。


「う、うん……。でも、やっぱり、エレナちゃんに優勝してほしくて……」

「そっか。気持ちは嬉しいよ、ありがとう! でも、こういうのはやっぱり良くないと思うんだ。だから、メダルは受け取れない。ごめんなさい」


 言い終わると同時、エレナは男達に向かって頭を下げる。

 すると、男達は慌てた様子で口を開いた。


「え、エレナちゃんは何も悪くないよ! 悪いのは全部僕達のほうだから! だ、だから、その……頭を上げて!」

「ごごっ、ごめんなさい!」

「……二人とも優しいね! ありがとう!」


 頭を上げたエレナが笑顔で言うと、二人は花が咲いたように満面の笑みを浮かべた。

 だがしかし、少ししてから突然顔が曇った。


「で、でもそしたらこのメダルどうしよう……」


 きっとこの二人は自分に渡すために、一生懸命メダルを集めてきてくれたのだろう。

 そう考えたエレナは顎に指を当てながら、どうすればいいかを考える。

 やがて何か思いついたようで、「あ、そうだ!」と声を上げた。


「あなた達はあなた達で優勝を目指すってのはどうかな? ほら、私もエレナイトが優勝してくれたら鼻が高いし! あっ、もちろん私達も優勝目指すけどね!」


 その言葉を聞いて、男達は目を(しばた)いた。

 少ししてから二人は顔を見合わせて同時に頷く。


「わ、わかった! そうするよ!」

「え、エレナちゃんがそう言うなら!」

「わぁ! わかってくれて嬉しいな! じゃあ、他の視聴者さんにもそう伝えてくれる?」

「う、うん! ……じゃ、これ以上邪魔にならないように僕達はもう行くね!」

「が、頑張って!!」


 そう言い残して、二人はそそくさと去っていった。

 姿が見えなくなったところで、エレナは盛大な溜め息を吐く。


「……エレナちゃん、お疲れ」

「お疲れ様!」


 直後、そのやり取りを黙って見ていたココノとミュウが労いの言葉を掛けてくれた。


「二人とも、ありがとっ! いやー、やっぱりお願いを聞いてもらうのって難しいね!」

「だね。でも、エレナちゃん凄かったよ! あんな風にいなしちゃうなんて!」

「ねっ! さすが、エレナちゃん! ミュウも勉強になった!」

「あはは、そうかな? だったら、よかった! さて、じゃあ気を取り直してメダル集め、再開しよっか!」

「「うんっ!」」

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