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いつの間にかチュートリアルおじさんとして人気者になっていた  作者: 白水廉


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チュートリアルおじさんVS有名配信者

「――ラピッドスラスト!」

「氷の弾丸、穿(うが)て!」


 試合開始の合図が出されたと同時に、両者は動き出した。


 対象に急接近してから刺突(しとつ)を繰り返す【ラピッドスラスト】が発動されたことにより、勇は一気にエレナとの距離を縮めていく。


 一方のエレナは詠唱を口ずさんで、魔法陣を展開。


「アイシクルショット!」


 直後、鋭く尖った氷柱が勇に向かって飛んでくる。


(マジかよ!)


 それを避けることなく……いや、避けられずに勇は被弾しながらエレナに近付き、目にも留まらぬ速さで何度も剣を突き出す。


「わわっ!」


 連続突きはフルヒット。

 だいぶ削れただろうが、勇も一発もらってしまった。


 これは想定外。

 勇はてっきり、エレナはより強力な氷魔法――フリジットブレードを唱えてくると考えていた。


 その場合、詠唱文が長く発動までに少し時間が掛かる。


 詠唱中に攻撃を受けると、展開した魔法陣が破棄される仕様であるため、先に攻撃することで発動を阻止するつもりだったのだが――


(ラピッドスラストが裏目に出たな……)


 特技を発動すると攻撃を終えるまで、身体の自由がきかない。

 ラピッドスラストは直進の動作も攻撃の一部であるため、勇は氷柱を避けたくても避けられなかったのだ。


「凍てつく冷気よ! 蒼き剣と化し、仇なす者を切り刻め!」


(――ヤベっ!)


 面を食らっていると、距離を取っていたエレナが次の一手を打ってきていた。


「フリジットブレード!」


 魔法陣から氷でできた複数の短剣が、凄まじい速度で勇に向かって飛んでくる。


 その短剣を反射的に剣で弾くも、全ては(さば)けずいくつか被弾。

 二つの魔法を喰らい、勇のHPは既に半分を下回ってしまっていた。

 だが、それで怯む勇ではない。


「せいっ!」


 エレナのもとに駆け寄ると、剣を左斜め下へと振り下ろした。


「ダブルスラッシュ!」


 さらに特技――ダブルスラッシュの発動により、二回斬りつける。


 攻撃はいずれも命中。

 これでエレナのHPも残り僅かなはず。


 勇は(とど)めを刺すため、そのまま剣を振りかぶった。


(もらった!)


「――サマーソルトキック!」

「えっ!?」


 エレナは後方に宙返りをしながら、勇を蹴り上げた。


「フットスタンプ!」


 着地と同時、今度は前方に高く宙返りをし、落下ざまに両足で勇を踏みつけ――



 ☆



 勇は【始まりの街】の噴水前に転移させられた。

 身体は幽霊の姿。そう、エレナに負けてしまったのだ。


(これは一本取られたな。まさか足技のスキルを上げていたなんて)


 エレナは杖を持っていた。

 杖は魔法の威力を少しだけ高める効果があるのと同時に、一応打撃武器としても活用できる。

 が、当然その攻撃力はかなり低めに設定されている。


 だからこそ勇は迎撃を恐れる必要もなく、勝ちを確信していたのだが、エレナはまさかの足技を繰り出してきた。


 杖を装備しているから、魔法しか上げていない。

 そんな凝り固まった先入観が今回の敗北の原因だ。


(フッ、俺もまだまだだな)


「ジークさーん!」


 そんなことを考えていると、エレナの声が聞こえてきた。

 見ると、自分と同じく幽霊の姿になっている。

 

「え? エレナさん、どうして死んでるの?」

「あ、これはここに転移するために、みんなに攻撃してもらったんですよ! それでジークさん、対戦ありがとうございました!」


 そのことを伝えるために、エレナは敢えて死ぬことで勇の元に転移してきた。

 俗に言うデスルーラだ。


「なるほど、それを言いに来てくれたんだね! こちらこそありがとう! いやぁ、エレナさんやるね!」

「えへへっ、ありがとうございます! あ、ジークさん聞いてください! 試合後に放送のページを見たら、なんとっ!」

「なんと?」

「視聴者数15万人になってたんです!」


 試合前に確認した時は確か13万人だったはず。

 それがさらに2万人も増えた。

 理由はわからないが、恐らく配信サイトの急上昇ランキングか何かに載ったのだろう。


「おお、おめでとう! 凄いね!」

「はい、これも全部ジークさんのおかげです! 本当にありがとうございました!」

「いえいえ、どういたしまして! 俺こそ今日はありがとう、楽しかったよ!」


 その後、試合の感想などを話し合っていると、【駆け出しの森】から戻ってきたプレイヤー達が二人を囲んだ。

 プレイヤー達は二人の戦いを褒め称え、ワイワイとした賑やかな時間が流れていくのだった。



 ☆



 翌日、昼過ぎ。

 バイト中、休憩に入った勇は近くの牛丼屋で昼食をとっていた。


(へー、あの俳優と女優結婚するんだ。まあ、確かにお似合いだよな~)


 左手にスマホを持ち、ネットニュースを読みながら牛丼を食べる。

 これがいつもの休憩時間の過ごし方だ。



 そのまま何か面白そうな記事がないかと画面を動かしていると、


「……えっ?」


 とある記事が表示された瞬間、勇はピタリと硬直した。


 親指の先にある記事のタイトル、それは――


『人気配信者・エレナ、同時接続15万人突破の快挙! (ちまた)で話題「チュートリアルおじさん」との大勝負にて』


(……な、なんじゃこりゃ!)


 本人が知らないところでまた一層、チュートリアルおじさんの名声が轟いていくのであった。

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― 新着の感想 ―
もういっそ、チュートリアルおじさんで配信者したほうがよくね?w
[良い点] 微笑ましくて良き
[一言] この戦いで盛り上がる場所が分からん...
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