教え子達からの恩返し(前編)
今日はバイトが休みなこともあって、勇は昼間からドリームファンタジーにログインした。
「やっぱ少ないな」
さすがは平日の真昼間だけあって、プレイヤーはまだまだ少ない。
その少数のプレイヤー達も勝手がわかっているのか、どこかに向かって真っ直ぐに歩いているし、助けを求めているような初心者は一人も見当たらなかった。
(声を掛けてくる人も居ないし、今のうちに森以外のエリアでも探索してみるか!)
そう考えた勇はマップを見ようと、メニューウインドウを開いたところ――
「おっ、いたいた! おーい、おっさん!」
後ろから声が聞こえてきた。
振り返ると、そこには見覚えのある顔が二つ。
「おお、カイト君にエミさん!」
初日に出会ったチャラいカップルだ。
初期装備の質素な服装とは異なり、おしゃれな服に身を包んでいる。
「よう、おっさん! ようやく会えたぜ!」
「おひさー! マップに表示されたから飛んできたよ!」
「うん、久しぶり……って、わざわざ会いに来てくれたの?」
「おう! 渡したい物があってよ!」
カイトはすっかり慣れた手つきでメニューウインドウを開き、何度か指を動かす。
<【カイト】さんからアイテムが送られました。受け取りますか?>
すると、勇の目の前にシステムメッセージが表示された。
「それ、やるよ! この前色々教えてもらったから、そのお礼だ!」
「あ、ありがとう! 何だろう」
勇は素直に受け取り、そのアイテムを確認してみる。
◆◇◆◇◆◇◆◇
【クリムゾンエッジ】
分類:片手剣
攻撃力:30
説明:真紅に染まりし剣
◆◇◆◇◆◇◆◇
(……めちゃくちゃ強い。これ絶対レアアイテムだ)
今、勇が装備しているのは初期装備の【アイアンソード】。
攻撃力というのは武器そのものの強さを示す数値で、街の武器屋で買える最高値が攻撃力20だ。
それを踏まえると、30というのはかなり強い。
「ありがとう、カイト君! でも、これ多分レアな武器だよ? さすがにそんな良い物をもらう訳には……」
「いいっていいって! 俺が上げてるのは大剣だから、片手剣持ってても意味ねーし!」
「あ、そういうことか。前に伝えてなかったけど、スキルポイントの振り直しならできるよ――」
だから片手剣に振り直して使いなよ。と続けようとしたところで、
「ああ、それなら知ってるぜ! でも俺はもう、大剣一筋って決めてっからさ! どうせ使わねーし、おっさんが使ってくれよ!」
カイトが勇の言葉を遮ってそう言った。
「そだよー。この前のお礼も兼ねてるんだから素直に受け取っておきなって!」
さらにエミからの後押し。
あの程度のことでこれほどのアイテムをもらうのは気が引けるが、ここで変に遠慮すれば却って気を悪くさせてしまう。
故に、勇は彼らの厚意を素直に受け取らせてもらうことにした。
「……そっか。そういうことなら、ありがたくもらっておくよ! 二人ともありがとう!」
「おう!」
「どういたしましてー!」
(本当にいい子達だな……。俺、幸せだわ)
勇は感激のあまり、思わず泣きそうになるのをギリギリのところで堪える。
これまで多くのVRMMOをプレイしてきたが、人から贈り物をされたことなんて初めてだ。
「じゃあ、早速!」
勇は彼らからもらった【クリムゾンエッジ】を装備。
真紅に染まった、見るからに強そうな剣が勇の右手に握られた。
「おお、かっけーじゃん!」
「ねー。ちょっとおっさんには派手だけど!」
「あはは……。ありがとう、大切にするよ! ところで、二人はどこでこの剣を?」
「ん? マップの下のほうにある【試練の洞窟】だけど。おっさん、もしかしてまだ行ってねーのか?」
「あ、うん。実は【駆け出しの森】以外は、まだあんまり……」
勇は苦笑いしながら答えた。
すると、カイトとエミは顔を見合わせる。
一度大きく頷くと、エミが口を開いた。
「ねえ、おっさん。今って時間あるー?」
「うん、今ログインしたところだから」
「それなら俺達と一緒に今からその洞窟行かね? 丁度向かおうとしてたところなんだよ」
「え、俺もいいの?」
「おう! 人が多いほうがボスを倒すのも楽だしな!」
(ボスが居るのか! それは楽しみだ!)
「そういうことならぜひ!」
「うし! じゃあもう一人連れが来るから、そいつが来たら――お、丁度来たみたいだ。おーい!」
カイトの視線のほうに目を向けると、これまた見覚えのある男の子が駆け寄ってきていた。
「ジークさんじゃないですか! この前は本当にありがとうございました!」
「リオン君! 久しぶり……って、えっ? 三人って知り合いだったの?」
てっきりカイト達と同じく派手な人が来るかと思いきや、来たのは初日に出会った優等生君――リオン。
まさかこの三人が知り合いだとは思ってもおらず、勇は驚いた。
「ああ、リオンとはコミュニティ掲示板で知り合ってさ。なっ!」
「はい! ジークさんにこのゲームのことを教えてもらった者同士ってこともあって、仲良くなって。たまに一緒にプレイしてるんです」
(コミュニティ掲示板……そういえば前に見た時、リオンって名前の書き込みもあった気が。なるほど、それでか)
「へえ、そうだったんだ! 会えて嬉しいよ!」
「はい、僕もです!」
「リオン、今日はおっさんも来てくれるってよ!」
「え、本当ですか!? やったー!」
「おう! よし、じゃあ揃ったことだし、早速行くとすっか!」
「「「おー!」」」
かくして、四人は【試練の洞窟】に繋がる転移の魔法陣に向かって歩みを進めるのであった。