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プロローグ

 豆電球の光だけが灯る、六畳一間のボロアパート。

 ベッドで横になっていた男がのそりと起き上がる。


「ちっ! くそがっ!」


 男は悪態を()きつつ、頭に被っていたヘルメット型の機械を取り外すと、ベッドに放り投げた。


 彼の名前は多井田(たいだ) (いさむ)、35歳のフリーターである。

 今しがた、VRMMOで本日3回目となるプレイヤーキルをされてご機嫌斜めだ。


「はぁ……。やってらんねえ」


 そう吐き捨てると、再びベッドに倒れ込んで天井を見つめた。


(唯一の生きがいだったのに……)


 友人なし、彼女なし。

 唯一の肉親である両親も数年前にこの世を去ってしまい、まさに孤独の身。


 その上、アルバイト先のコンビニでは馴染めないどころか、一回り以上も歳が下の同僚から陰口を叩かれる日々。


 そんな人生に生きがいを与えてくれたのが、二年前に実用化されたVRMMOだった。

 元からゲーム好きだったことも手伝って、勇は何気なく購入してからというもの、新世代のゲームに寝食を忘れるほどのめり込んだ。


 しかし、今ではそれすらもつまらないと感じるようになってしまった。


 理由は単純。

 俗に言うリア充達が、こぞってゲームを遊ぶようになってしまったからだ。


 最近流行りのVRMMOは、現実の姿がゲームの中で再現されるソフトが主流。

 現実さながらの仮想空間において、現実そのままの姿で会話ができるということから、今ではコミュニケーションツールとしての役割も(にな)っている。


 そんな理由から、本来ゲームとは程遠い位置に居たリアルが充実している勝ち組達もVRMMOを始め、やがて彼らがメイン層となった。


 すると、どうなるか。

 孤独が故にソロプレイを強いられている勇は、当たり前のように狩られる側へと回った。


 もちろんゲーム内で他プレイヤーと交流すれば解決する話だが、当然そんなコミュニケーション能力は持ち合わせていない。


 プレイしてはキルされ、必死に貯めた経験値やゲーム内通貨が無に()す日々。

 つまらないと感じるのも無理はないだろう。


「はぁ……」


 時が経って怒りが(しず)まると、今度は虚しさが押し寄せてくる。

 勇はその虚しさを誤魔化すため、ネットニュースサイトでも見ようとスマホを手に取った。


「ん? ……おいおい、マジかよ!」


 メールの通知が一件。

 そこには『ドリームファンタジー βテスト当選のお知らせ』の文字があった。


 ドリームファンタジーは、日本を代表するゲームメーカー二社が手を組んだことでたちまち話題となった新作タイトル。

 そのβテストの募集がつい先日行われ、もちろん勇も応募した。


 各所で『倍率1万倍は下らない』と予想されていたため、当たる訳がないと思っていたが、奇跡的に当選してしまったようだ。


(でもなぁ……)


 テンションが上がったのも束の間。

 今のVRMMOは勇にとって、ただストレスが溜まるだけの道具だ。

 βテストでゲームの楽しさを知ったところで、正式リリースがなされれば、どうせまた一方的に狩られ続ける。


「あ、もしかして!」


 そんな考えから、もうVRMMOは辞めようと思った――その時。

 勇はあることを思いついた。


 それが可能か、メールの文面に目を通す。


「はぁ……。まあ、やっぱりそうだよな」


 勇は落胆(らくたん)した。


 彼はβテストで獲得したレベルやステータスにアイテムなどを、正式版に引き継げるかもしれないと考えたのだ。

 そうであれば有利にゲームを始められ、自分が一方的にリア充達を狩ることができる。


 だが、そんな思い通りにはいかない。

 公平を()すためなのか、『正式版への引き継ぎはできない』と言う旨の注意書きがなされていた。


「いや、待てよ……?」


 一瞬落ち込んだものの、勇は光明(こうみょう)を見出した。

 ゲーム内の数値が引き継げなくても、知識や経験は引き継げる。


 βテストで諸々試して、効率のいいレベル上げの方法などを見つけられれば、スタートダッシュで差をつけられる。

 しばらく経てば数に圧倒され、再び狩られる側に回るだろうが、数日の間は優位に立てるはずだ。


 そう考えた勇は気色の悪い笑みを浮かべた。


(あいつらに俺の気持ちをわからせてやる!)


 リリース当日に初心者狩りを行う。

 そんな不純極まりない動機から、勇はβ版のダウンロードを開始した。

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