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幼馴染ヒロインっていいよなって言ってからいつもつるんでいる後輩が幼馴染を自称するようになったんだが……ちょっと待って、なんで俺の昔の写真にもお前が写ってんの?

作者: 高野 ケイ


  俺は生徒会室で暇つぶしにラブコメ漫画を読んでいた。ちょうどスマホを壊してしまっているのでちょうどいい。生徒会とはいえ、某かぐ〇様のようにいつも忙しいわけでもないし、恋愛頭脳戦をするわけでもない。別に学校を変えようという気概もなく内申点のために集まった奴らである。元々モチベはないし、仕事も最低限しかしない。それでもここにいるのは生徒会長としての義務感である。



「せんぱーい、何をにやにやしながら読んでるんですか? ちょっとキモイですよ。コーヒー淹れたんでどうぞ」

「ああ、ありがとう、てかこれお前から借りた漫画なんだが!! きもくて悪かったな」



 そう言って俺の目の前にコーヒーの入ったカップを置いてくれたのは後輩の渡辺梓わたなべあずさである。鮮やかな茶色い髪の毛に雪の様に白い肌、そして大きい目をした明るい笑顔の似合う少女だ。俗に言う陽キャで、彼女もまた内申点目当てで生徒会に入ったそうだ。

 彼女との出会いは俺が高校二年生の時で、俺が会計をやっていた時に当時の生徒会長のお願いで、仕事を教えたことがきっかけだった。真面目な校風のこの学校で茶髪ということでよくも悪くも目立っていた彼女とは、俺と同じラブコメ好きだという事が判明したこともあり意気投合して仲良くなった。他の連中は繁忙期以外は部活やバイトで忙しくてあまり顔を出さないのだが、彼女は結構暇らしくちょくちょく話し相手になってくれるのもあり、今では仲良くなりすぎて敬意とかそういうのを一切感じなくなったのは問題だが……



「お、読んでくれたんですね。どうでした柊先輩!! こういうなんも努力していないのにやたらと主人公がモテるラブコメ好きでしょう?」

「ちょっと毒がある言い方が気になるが大好きだよ!!」



 そう言って彼女が指を差したのは『私とのラブコメで最後ですよ、先輩』という漫画である。メインヒロインは今流行りのうざかわいい系の後輩ちゃんで、サブヒロインの幼馴染と主人公を奪いあうという話だ。



「この漫画はヒロインがいいですよね。特に……」

「ああ、わかる。むっちゃ萌えたよ!! 特に」

「後輩ちゃんが!! 素直になれなくて、ついついいじわるを言ってしまう所がもういじらしくて最高でしたよね」

「幼馴染が!! 今までの幼馴染という関係を崩すのがいやで一歩踏み出せないんだけど、毎朝おこしてくれたり、お弁当をつくってきてくれたりするのが健気で最高だったな」



 俺達は同時にオタク特有の早口で喋ってから、押し黙る。おいおい、待て待てこいつは何て言った? 俺と梓はお互いにらみ合う。 



「何を言っているんですか? 幼馴染何て負けヒロインじゃないですか!! いまやうざかわ系ヒロインの時代ですよ!! その証拠に妹がうざい奴がアニメ化するんですー!!」

「ブッブー!! 幼馴染が負けヒロインの時代は終わったんだよ!! お前今度アニメ化する幼馴染が負けないラブコメ知らないのかよ!!」

「お前らうるさいぞ。外まで漏れていたぞ」



 俺と梓が口論をしていると扉が開いてガタイの大きい武骨そうな少年がため息をつきながら入ってきた。彼の名前は斎藤武。剣道部に所属しており、生徒会では副会長をやってもらっている。



「よう、武、部活はいいのか?」

「問題ない!! 流石に最近根を詰め過ぎたんでな。ここで休憩がてらお前らの様子を見に来ただけだ。案の定いつも通りの様だな……」

「だって、勝利先輩が悪いんですよ、名前が勝利の癖に負けヒロインばっかり好きになって……」

「やかましいわ。だいたいあずにゃんが幼馴染の素晴らしさをわからないのが悪いんだぞ!!」

「あずにゃんって呼ばないでって言ってるじゃないですか!! あー、小学生の頃のあだ名を何ていわなければよかった!!」



 そう、俺と梓は趣味こそ合うが推しキャラの属性がマジで噛み合わないのだ。あいつは転校生や特殊な能力をもったヒロインを好きになり、俺は主人公と共に育った幼馴染を好きになるのである。そして、男のタイプもまた違う。あっちは成績優秀なライバル系インテリイケメンを好きになり、俺は熱血系の主人公タイプを好きになるのである。



「勝利と渡辺は本当に仲いいな、いつも夫婦喧嘩をしているじゃないか?」

「「夫婦じゃない!!」」



 俺と梓の声が重なる。そしてなぜか顔が赤い梓と目が合う。そりゃあ確かにこいつは可愛いし、結構気が利くところもある。漫画の趣味も合うしまあ、あいつがどうしてもっていうなら付き合ってあげてもいいんだが……それに俺は幼馴染が萌えなのだ。付き合うなら幼馴染とつきあいたいという思いがある。



「大体幼馴染のどこがいいんですか……実際いても家族みたいなもので異性とは見れないでしょう」

「何度も言ってるだろ? 子供の頃からの思い出による強い結束力、幼稚園の頃にした約束をしてお互い覚えているけど大人になったら言い出せないもどかしさ、中学になり異性を意識して周りからかわれて疎遠になるもお互い気になっている距離感!! 告白しよう、俺は幼馴染が大好きだ!!」

「ふーん……勝利先輩はその幼馴染の子が好きなんですか?」



 つい幼馴染について強く語りすぎてしまったせいか、引いたようで梓のテンションが露骨に下がる。そんな様子に武が助け舟を出す。



「いや、こいつに幼馴染の女の子はいないぞ、強いてあげれば小学校からの友人である俺が幼馴染だな」

「え、じゃあ、さっきまでのは妄想なんですか? やば!!」

「うっせー!! 冷静に考えろよ、家の近所に同年代の子供がいる確率はどれくらいだ? そしてその中に女子がいる確率は? そしてその子と仲良くなる確率は? まさに宝くじが当たるくらいなんだよ。SSRを引くくらいなんだよ!! 俺はそんな幻想おさななじみにあこがれているんだ!! もしかしたら俺がわすれているだけで、実は男だと思っていた友人が女だったりするかもしれないだろ。俺は幼馴染と恋がしたいんだ!! 俺の目の前に幼馴染の女の子がいたら速攻告白するね!!」

「うわぁ……想像以上に頭おかしいですね……」

「俺が本当に男ですまんな」

「あたりまえだ、武が女だったらそれはそれで驚くわ!!」



 必死に力説する俺を見て、梓が頭を抱えて、武は溜息をついている。くっそ、なんで俺が幼馴染を語っただけでこんなに馬鹿にされなければいけないんだ。



「大体幼馴染何ていいもんじゃないぞ。なんかお互い新鮮味がなくなるしな」

「うるせーよ、そういうお前は幼馴染の彼女といちゃついてんじゃねーか、ご丁寧にお弁当まで作ってもらってさ!! 幼馴染萌えの一端はお前とお前の彼女のやりとりをずっと見てきたのもあるんだからな!! SSR幼馴染をひいてるくせに!!」

「いや、それは……すまん。俺の彼女がかわいすぎてすまん」



 そう言うと、武は顔を赤くして頭をかいた。男の赤面何て誰得なんだよ。くそが!! あと二回すまんっていったのは大事な事だからですかね!! いやさ、付き合う前からこいつとこいつの彼女にしょっちゅう恋愛相談されているのだ、こいつらがいかに相思相愛でラブラブなのかを俺は知っている。しかもすごい微笑ましいんだぜ。ああ、うらやましい。そんな俺の思考に割り込んできたのは梓の言葉だった。



「もー、仕方ないですね、そんなに幼馴染が好きなら私が勝利先輩の幼馴染になってあげますよ」

「はっ?」



 俺は彼女の言葉に疑問の声をあげる。だってさ、幼馴染ってなろうと思ってなるものじゃなくない? 幼いころから馴染んでるから幼馴染って言うんだぜ。そんなに「ちょっと幼馴染やってみるわ」みたいなノリでいわれても……


 

「大丈夫ですよ、私が勝利先輩の理想の幼馴染になって見せますから」



 そう言ってドヤ顔をする梓を俺は止めるべきだったのかもしれない。その時の俺はあんなことになるなんて思いにもよらなかったんだ。





---


 朝起きると目覚まし時計のジリリという甲高い音が部屋に鳴り響く。あー、もう朝か……昨日はあの後、武の家でずっとゲームをしていて夜遅くに帰ったので寝不足である。やはりスマブラはいいな! あいつがこんなに付き合ってくれるのは久々だったのでつい長居をしてしまったのだ。


「フフ、いつもは憎まれ口ばかりですが、寝顔は可愛いですね……まあ、おきている時も時々かっこいいんですが……」



 ゆめを見ているのだろうか、俺は一人で寝ているはずなのに、不思議な声が聞こえる。俺は眠気に負けそうになりつつも、目覚ましを止める。時間をみるとまだちょっと余裕があるな……もう少し横になろうとすると体をゆすられる。もー、なんだよ、母さんか? いつもは朝早いのに今日は有給でもとったのだろうか?



「いつまでも見ていたいですが、遅刻するわけにはいきませんからね。ほら、勝利先輩、さっさとおきないと遅刻しちゃいますよ」

「うーん……もうちょい横になってても……は? 梓か?」



 俺は目の前にいる梓に思わず間の抜けた声を出してしまった。彼女は少し照れくさそうに笑ってこう言った。




「はい、あなたの幼馴染のあずにゃんですよ!! うう……」

「いきなりどうしたんだ。うずくまって……」

「いや、自分であずにゃんって言っててダメージが……まだまだ幼馴染力が足りてないですね……」



 幼馴染力ってなんだよと思いつつも、俺は状況を整理する。朝起きたらいきなり、ちょっと気になっている後輩が幼馴染を自称して、俺を起こしにきた。いや、わけわからねーわ!! 確かに梓は結構うちに来ているし、母とも仲がいい。だけど普通朝っぱらか異性の後輩を部屋にあげるだろうか?



「いや、幼馴染力ってなんだよ。ってかなんでうちにいるんだよ」

「何を言ってるんですか? 時々おこしにきてあげているじゃないですか、ねえヴィクトリー」

「何でそのあだ名を知ってるんだよぉぉぉぉ!!」



 小学校の時に自分の名前を英語でいったらカッコいいかなって思っていた自分でつけていたあだ名である。無茶苦茶はずかしいんだが!! てか、今の高校は私立だから三、四人しか人間しかその俺のあだ名を知らないはずなんだが!!



「何でって、それは幼馴染だからですよ」



 彼女はそう言ってニコッと笑った。いや、まじ何が起きてんの?



---------------------------------


 あの後一緒に朝ごはんを食べて共に登校している。既に母から了承は得ているらしく慣れた手つきでうちのキッチンを使って朝ごはんをつくってくれた。結構家庭的な一面もあるんだなとちょっとドキッとしてしまったのは内緒だ。



「それにしても、梓の家ってここから結構遠いって聞いていたが朝はしんどくなかったか?」

「確かに引っ越して、遠くなってしまいましたけどね、懐かしいって気持ちがあるから大丈夫ですよ」

「あれ、梓も昔ここらへんに住んでいたのか?」

「何を言っているんですか? 幼馴染なんだから当たり前じゃないですか、昔みたいにあずにゃんって呼んでくれてもいいんですよ」



 俺は梓の言葉に困惑をする。俺は梓をあずにゃんなんて呼んだことはないし、そもそも幼馴染ではない。彼女は遠くから引っ越してきたと聞いていたし、小中共に別々の学校で、初めて会ったのは高校でのはずだ。なのに、彼女はまるで俺と昔から一緒だったという風に話しかけてくる。一体なにがおきているんだ? そう思っていると前を二人の男女が歩いているのが見えた。お、ラッキー。




「おーい、武、雫おはよう」

「先輩方おはようございます」

「ああ、勝利に梓か、おはよう」

「おはよう、勝利君、あずにゃん」



 そう言って返ってきた返事に俺は違和感を覚える。あれ? 武のやつって梓の事は名字で呼んでなかったっけ? それに雫もあずにゃんなんてよんでなかったような……ちなみに武と一緒にいるのは雪乃雫という黒髪ロングのぱっと見は清楚系お嬢様のような外見だが、実際はいたずら好きでしょっちゅう俺と武にいたずらをしかけてくるというギャップのある美少女だ。武と雫は幼馴染同士で今は恋人として、毎朝登校している。ちなみに彼女は写真部と生徒会を兼任しており、梓とも仲良しである。



「なあ、二人とも。梓がいきなり俺の幼馴染とか言い出したんだ。何とか言ってやってくれよ」



 俺の言葉で仲良くしゃべっていた三人の会話が止まり、武と雫が俺をしんじられないというような顔でみる。え? 俺なんかやっちゃいました?



「勝利……もしかしたら喧嘩してるのかもしれないがそれはちょっとひどいんじゃないか?」

「そうだよー、あずにゃんが可哀想じゃないの。いくら幼馴染だからって言っていい事と悪い事があるよ」

「いいんです……私が勝利先輩のお気に入りのエロDVDをみてキモイっていったから拗ねてるんですよ……でも、時止めはどうかと思いますよ」

「もー、あずにゃんは優しくてかわいいんだから。でも、勝利君の性癖はマジでキモイ」



 そう言って雫があずさを抱きしめるといい感じに大きい胸に梓の顔が埋まる。わーお、うらやましいとか言ってる場合ではない。こいつら梓が俺の幼馴染だと認識しているだと……? 夢か、これは夢なのか? いや、そりゃあ、幼馴染は欲しいって願ってたよ。可愛い子がいいなって言ってたよ。梓は趣味も合うし、一緒にいて気楽だ。まあ、ぶっちゃけ好きかどうかで言われたら大好きだ。だけどなにがおこっているんだ……俺は自分の頬をおもいっきりつねる。



「いってぇ」

「何やってるんだよ……またくだらない意地悪をしてるのか、中学の時だってよく四人で遊んだりしたじゃないか?」 

「うっそだぁぁ、俺が梓と会ったのは高校だぞ。証拠でもあんのかよ」

「だから何をいってるんだよ……写真だってあるだろ」

「まじか……」



 そういって武が差し出したスマホにうつった写真には中学の制服を着た俺と武に雫、そして、俺達と同じ制服を着た梓がいた。確かに学校帰りにこっそりと三人でマックにちょいちょい行っていた。だけどその時には当たり前ながら梓はいなかったはずだ。



「ちょっとスマホを借りるぞ!!」

「おい!!」



 俺に対して声を荒げる武を無視して写真をスクロールする。そこには三人でいったはずの博物館や遊園地などの他の写真にも同様に梓がうつっていた。あ、これ雫がエミリアたんのコスプレしてる写真だ。おっぱいやば!! ってそんな場合ではない。なんだこれ……どーなってるんだよ……俺は何が何だかわからなくなってしまった。存在しない記憶ぅぅぅぅ!! 呪術廻戦かよ……





-------------------

 

 今日はさんざんだった。梓の事があって授業が全然頭に入らなかった。クラスメイトのやつは高校からのやつばかりだし、梓も高校を機に引っ越したから情報の裏もとれないんだよな……しかもあいつらに梓の事を聞くといつも通り「彼氏のお前が知らないことを知るかよ」っていってきやがる。別に付き合ってもいないって言うのにな……



「あー、コーヒー飲もうかな」



 昼休みになり、とりあえず思考を整理しようと生徒会室に避難していた俺だったが、コーヒーをいれるために席を立つ。いつもは梓がいれてくれるから自分でやるのは久々な気がした。



「あー、いました!! どこいってたんですか? 探したんですよ!! 勝利先輩スマホが壊れてるから連絡つかないんだから気をつけてくださいよ」

「ひぇっ!! 梓か……」

「何ですか、ひぇって!! いつも通りお弁当作ってきたのに……今朝の事といい私だって傷つくんですよ。ばか!!」



 そう言うとふくれっ面の梓は手に持ったお弁当箱を俺に見せながらブーブーと文句を言う。いや、いつも通りってお弁当を作ってもらうのなんて初めてなんだが? あーでも、梓の手作りお弁当か……朝ごはんも美味しかったし、何よりも恥ずかしくて本人には言えないが気になっている後輩の手作り料理だ。すっげー食べたい。



「その……本当にもらっていいのか?」

「当たり前じゃないですか? 私に二つ食べろって言うんですか?」



 そういいながらこっちにお弁当を渡してきたので俺は遠慮なく開ける事にした。中身はから揚げに、卵焼き、あとはサラダが入っており、美味しそうな香りが空腹な俺を刺激する。梓はというとなにやら緊張した面持ちで、俺の隣に座ってこちらを見つめている。そんなに見つめられると食べにくいんだが……とおもいつつもから揚げを一つまみして口に入れる。俺好みの甘辛で思わず感想が口から出た。



「うまいな……」

「そうでしょう、そうでしょう!! 私は勝利先輩の幼馴染ですからね、勝利先輩の好みなんて全部知ってるんですよ。ほら、その卵焼きも甘いですよー、勝利先輩はそっちの方が好きですもんね」

「すげえ、まじで全部俺の好みの味だぁぁぁ」

「まったくもう、がっつきすぎですよ」




 俺は思わずお弁当を一気に食べる。ごはんの硬さも俺の理想通りでまじで俺を知り尽くしている味に感動をする。そして、いつものように漫画の話をして楽しい時間が流れる。いつもと違うのは俺達の物理的な距離だろうか? いつもは向かい合って座っていたが、今は隣に座っている。そういえば、武と雫もそんな感じだったなぁ……そんな二人を正面から見ていた俺は早く付き合えって思っていたものだ。

 いつもとの距離が違うからかふとした瞬間に俺の手と彼女の手がぶつかった。「あっ」っという声と共に彼女は顔を少し赤くして少し震えながらも手を重ねてきた。その可愛らしいしぐさにドキリと胸が熱くなる。



「幼馴染なんだからこれくらいしてもおかしくないですよね……それにしても、先輩の手って大きいですよね」

「まあ、幼馴染だしこれくらいはありだろ……」



 彼女は顔を真っ赤にしながらも少しうつむいて言った。いや、ありじゃねーよ。これって幼馴染の距離感なのか? どちらかというと両片思いの男女の距離じゃ……

 というか、こいつこんなかわいかったっけ? 幼馴染ってこんな感じだっけ? いや、そもそもこいつは幼馴染じゃなかったはず……だけど、彼女はまるでこの距離が当たり前とばかりに俺の隣に座っている。こいつが幼馴染で俺に何か問題ってあったか? ないよな? 彼女のいい匂いと柔らかい手に俺は思わず生唾を飲んで彼女を見つめると、何かをおねだりするかのようにこちらを見つめてくる。



「なぁ、いつもはどうしてたっけ?」

「えっと……お弁当のお礼って言って頭を撫でたりしてくれてましたよ……」

「そうか、じゃあ、失礼するな」



 そうして、俺が彼女の頭を撫でると一瞬びくっとした後に幸せそうな顔で微笑んだ。そんな顔をしてくれるのが嬉しくて、昼休み中ずっとそうしていた。幼馴染の手作り弁当で二人でこっそり食事とかもう、俺の思い描いていた生活ではないだろうか? 

 何があったというのだろう。例えば世界線が変わったのかもしれない、誰かが聖杯に願ったのかもしれない。現実的にどっきりなのかもしれない。でも、俺とこいつが幸せならいいんじゃないだろうか? 俺はいつものからかう様子ではなく、甘えてくる彼女を見ながら思う。俺は元々こいつの事が大好きで……だけどなまじ仲良くなりすぎたから、関係を崩すのが怖くて一歩踏み出せなかった。昨日もつい恥ずかしくて「俺の目の前に幼馴染の女の子がいたら速攻告白するね!!」とかいって逃げていた。だったらこれは神様がくれたチャンスなのかもしれない。だって、俺の好きな女の子が幼馴染になったのだから……

 予鈴がなり、自分の教室に戻る準備をしている梓に声をかける。ああ、震えてしまった。



「そ、そのさ……放課後ちょっと話があるんだが時間をくれないか?」



 少しかみながらいって彼女の表情を覗き見る。一瞬大きく目を見開いて目をうるわせて彼女はこういった。



「はい、何でしょうか? 別に暇だからいいですよ」



 彼女はそういうと駆け足で生徒会室を出て行った。


-----------------



 私と勝利先輩がと会ったのは生徒会がはじめて……とかあの人がおもっているかもしれないけど実は違う。中学卒業と同時に、親の事情で引っ越した私は友達の一切いない高校を受験することになってしまった。その高校はみんな真面目で地毛が明るい髪の私は少し浮いてしまっていた。

 先生に「黒く染めろ」と言われ「これは地毛です!!」と言い返すのは何度目だったろうか。本当は別に染めてもよかったのだけれど、転校して環境を変えさせられたことにより親への反抗心や学校への八つ当たりもあり、頑なに染めなかったのだ。

 そして、職員室に呼び出されていたタイミングで私は生徒会の業務で来たのだろう、初めて先輩とあった。教師といつものやり取りをしていた私を見て彼は一言言ったのだ。



「綺麗な髪の毛だな」



 この学校に来てはじめての肯定的な言葉に私はちょっと涙ぐんだのを覚えている。まあ、その後先輩はすぐに興味を失ったのか、用事を済まして帰ってしまったけれど……それでも私は嬉しかったのだ。

 そのままだったらただの思い出で終わっただろう、いつまでも言う事を聞かない私は罰だったのだろう。繁忙期限定だけど人の足りない生徒会を手伝う事になってしまった。

 そして、そこで私は勝利先輩と再会した。彼は私の事を覚えていなくて、少し悔しかったけれど……運よく彼が教育係になって色々話していくうちに私と彼は趣味がとても合う事がわかり、どんどん仲良くなっていった。その頃から少し彼の事が気になっていたのだと思う。

 決定的な出来事は、私が何気なく、「これ地毛なんですよね」って言ったら、一緒に先生に抗議をしに行ってくれた時だった。私の味方をしてくれて、先生に意見を言う彼はまるで少女漫画のヒーローみたいで……もうなんか色々やばくなってしまった。この人は何で私のためにとか……もしかして両想いなのかとおもい舞い上がったものだ。

 だけど……先輩はいつも通りで……ああ、この人は私を異性と思っていないんだなていうのがわかってしまい、悲しくもなった。

 

 なんとか彼を振り向かせようと半年ほど頑張っていた時の事だ。彼と一緒にいたくて私は正式に生徒会メンバーになり一緒に過ごす時間は増えた。一緒に遊んだりもした。だけど、距離は縮まった気はしないし、何か手を打たなきゃなと思っていたのだ。それは、私がちょっとした用事で遅れて生徒会に向かった時の話だ。



「ああ、俺は梓の事を好きだよ、その……後輩としてではなく、異性としてな……」



 盗み聞きをするつもりなんてなかった。本当に偶然生徒会室の扉が開いていて、ちょっと声が聞こえてしまい、何やら恋バナをしているなぁって思ったところだった。だからその声が聞こえてしまった時は罪悪感と共に嬉しさがこみあげてしまった。やばいやばい、両想いだったんだ。どうしよう。てか、今まで普通だったよね。聞き間違いじゃない? 多分私の顔は真っ赤で、だらしなくニヤリとなってしまっているだろう。こんな顔誰にもみせられない……特に勝利先輩に何て絶対見せられない。



「「あ」」



 などと思っていると、扉を開けた武先輩と目が合ってしまった。みられたーーーーーーっていうか、盗み聞きしてたのばれちゃうよね。何とかごまかさないと……と思っていると彼はすれちがいざまに肩を叩いて、「頑張れよ」とだけ言って去っていった。ああ、私の気持ちも盗み聞きをしてたこともばれてる……でも、頑張れって事は応援してくれているのだ。もしかしたら元々相談していた雫先輩から話を聞いていたのかもしれない。

 そして、告白されたらどう答えようと思いながら、気を落ち着かせるために、少し校内を歩いてから。生徒会室へ入るといつものように漫画を読んでいる勝利先輩がいた。ああ、くっそ、漫画を読んでるだけなのにかっこよく見えちゃうなぁ……しかも、私が貸したやつだ。ちゃんと読んでくれているんだ。私はちょっとドキドキしながらコーヒーを淹れて勝利先輩の目の前にコーヒーを置いて一言。



「せんぱーい、何をにやにやしながら読んでるんですか? ちょっとキモイですよ。コーヒー淹れたんでどうぞ」

「ああ、ありがとう、てかこれお前から借りた漫画なんだが!! きもくて悪かったな」



 いつもの表情で私に話しかける勝利先輩がいた。その表情は、本当にいつも通りで、先ほど私の事を好きと言っていたのがまるで幻のようだった。そりゃあ、私もいつもみたいにクソ生意気なこといっちゃってますけどー!! 

 そしていつもみたいに口論がはじまってしまう。そう、私と先輩は好きなジャンルはあうけれど好きなキャラは全然あわないのだ。ていうか先輩には幼馴染なんかよりも私みたいな女の子の方が似合ってますよ。と遠回しにアピールをしてみるが一向に気づいてくれない。それどころかヒートアップした私たちをあとからやってきた斎藤先輩が止める始末である。やらかしちゃったなと思いへこんでいるとスマホに連絡がきた。目の前の斎藤先輩からである。



『渡辺……幼馴染になれ』



 いやいや、この人何を言っているんだと思ったが、悔しい事に私よりも斎藤先輩の方が勝利先輩に関して詳しいのは事実である。せっかくだから話にのることにしよう。そうして私が幼馴染になる発言をしてからの動きはすごかった。

 まずは斎藤先輩が勝利先輩を遊びに誘い、その間に私は雫先輩に呼び出されて、色々と打ち合わせをした。例えば中学の事によく言ったマックの話とか、例えば三人でいった遊園地の話とか……少し……いや、すごい羨ましいなと思いながら私は話を聞いて、口裏を合わせることにした。

 その後言葉だけでは疑われると雫先輩の家に行った私は中学の頃の制服を借りて、写真を何枚か撮った。何に使うのと思っていると、写真部で培ったスキルを使って、私の写真と先輩たちの写真を合成して写真を捏造したのには驚いた。

 そして、勝利先輩のお母さんに、電話をして、明日の朝お邪魔していいですかと聞くと本当に嬉しそうに快諾してくれた。何度か家にお邪魔したことはあるのだけれど、どうやら私の気持ちはバレバレだったらしい。あとは勝利先輩が憧れているであろう、幼馴染からのお弁当イベントとやらを作ることにした。

 恥ずかしながら勝利先輩の食事の好みは、いつかお弁当とか作るときあるかもと妄想していて好みはばっちりと把握していたので問題はなかった。そして今に至る……ついに恋が実るのかもしれない。そう思うと私は放課後が待ち遠しくてたまらないのであった。



----------------------

 

「斎藤先輩! 雫先輩ありがとうございます……お二人のおかげで私勝利先輩と付き合えるかもしれません。でも……騙しちゃって大丈夫でしょうか?」

「ああ、大丈夫だ、流石のあいつもそろそろ気づくだろうが、そこは俺達がちゃんと説明するから安心してくれ」

「そうそう、それに勝利君もあずにゃんみたいな可愛い後輩と付き合えるんだから文句は言わないはずだよ。普通に考えて雑草みたいにぴょこぴょこ幼馴染が現れるわけじゃないんだから。彼なら笑って許してくれるよ。」

「うー……そうですかね……というか、あずにゃんはやめてくださいってば……ああ、緊張してきた。ちょっとメイクを直してきます。勝利先輩には一番の私に告白して欲しいので!!」



 扉が閉まりどたどたと足音が去っていく。それが離れていくのを確認して俺は溜息をついて隠れていた机の下から出ると武と雫がニヤニヤと笑いながら、俺をみていた。放課後になり二人にどう告白しようか相談をしに来たのだが、まんまとはめられたようだ。



「お前らな……今回のはさすがにやりすぎじゃないか?」

「だが、これくらいしなきゃ、お前は告白しないだろ」

「勝利君はヘタレだからね。でも、私達も君に本当に幸せになってほしかったんだよ。私たちは君に助けられたからね、そのお礼がしたかったんだ」



 武が呆れたとばかりに、雫が珍しくマジなトーンで言ってきて俺もなんといっていいかわからなくなってしまう。まあ、幼馴染捏造はびっくりしたけどさ……でも、不思議と嫌な気はしなかった。それはこいつらが俺の事を想ってくれているというのがわかっていたし、何よりも梓の頭を撫でた時の嬉しそうな顔や、さっきの幸せそうな声を聞いてしまったら怒ることなんてできなかった。



「でも、俺はマジで梓が幼馴染になったかと思ったよ……」

「だが、まんざらでもなかったんだろ」

「あずにゃん色々頑張って勝利君の事を覚えたんだよー。そこは評価してあげて欲しいな」

「わーってるって」



 他人の幼馴染を演じるっていうのはどういう気持ちなんだろう? そして、どれだけ大変なのだろう。そんな事はもちろん俺にはわからない。だけど俺のくだらない一言でこれだけ頑張ってくれているのだ彼女が俺をどれだけ大事に思ってくれているかはわかる。だから俺もくだらない意地を張ってる場合じゃないだろう。二人と梓がここまでおぜん立てをしてくれたんだ。逃げるわけにはいかない。



「大体勝利だって嬉しいんだろ? 職員室で一目惚れをした「茶髪の天使」と付き合えたんだからよ」

「そうそう、生徒会長になったのも梓ちゃんの好みのインテリイケメンに近付くためでしょ? お熱いですなー」

「だー、うっせー!! でも、色々ありがとうな」



 そうして俺は二人に文句をいいつつも生徒会室を出て、彼女の待つ場所へと向かう。俺には幼馴染の彼女はできなかったけど、幼馴染を自称する彼女はできそうだ。俺は自分の想いをぶつけにむかうのであった。



 結果? それはみんなの想像に任せようと思う、一言いうならばこの後ムチャクチャ幼馴染をしたって奴かな。




友人に幼馴染ヒロイン以外も書いてみたらどう?といわれたので書いてみました。


面白いなって思ったらブクマ、評価、感想くださると嬉しいです。



なろうコン用の作品を書いてみました。よかったら読んでくださると嬉しいです。よろしくお願いいたします。


ハイファンタジー新作


『散々搾取された上、パーティーを追放された技能取引者<スキルトレーダー>スキルショップを開き、S級冒険者や王族の御用達になる~基礎スキルが無いと上級スキルは使いこなせないって言ったはずだけど大丈夫か?』


https://ncode.syosetu.com/n6845gv/


ラブコメの新作です。


モテなすぎるけど彼女が欲しいから召喚したサキュバスが堅物で男嫌いで有名な委員長だったんだけど~一日一回俺に抱き着かないと死ぬってマジで言ってんの?~


https://ncode.syosetu.com/n6430gv/

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― 新着の感想 ―
[良い点] 面白かったです(≧∇≦)b種明かししなかったら軽くホラーですよね(((*≧艸≦)ププッ
[良い点] 成程・・・ こう、なんと言うか、色々な物が絡み合ってますな(笑) 新作との絡みやら何やら。 でも、脱幼馴染。 面白かったですよ。
[良い点] とりあえず,2人ともてぇてぇなぁ
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