13 リリアナの記憶③
リリアナは加護を与えた者が治める国を見る為に天界に最低限の能力を与えた半神を残し、人間の世界へやって来ていた。本来であれば加護は一人につき一つなのだが、タイミングが悪く地の女神と光の妖精王まで加護を与えてしまっていた為、あまりに強い力を持った者が王となってしまったので心配になったのだ。他の二人も同じ気持ちだったらしく、三人でこの国、マーフィス国を見て周ることになった。
『この国は戦後数年しか経っていないのにずいぶん活気があるのね』
リリアナは野菜を選びながら店主と会話をしていた。
『そりゃぁ、国王様が民を大切にしなさっているからね。戦時中から敵国の民に食事を与えたり、住む所を用意してくださったり、本当に良き王なんだよ。愚王に刺されて一時は死の縁を彷徨っていなさったが、助かって本当に良かったよ』
あの時、リリアナたちが加護を与えていなければきっと命を落としていたに違いない。本来であれば、本人に許可を得てから与える加護を無理矢理与えたリリアナはとても申し訳なく思い、罪悪感でいっぱいだったが、この店主の言葉で心が軽くなった。
『そうなのね。そんな素敵な方の治める国に住むことができて良かったわ。
あ、これとこれ頂戴』
『はいよ。500ギルだよ。お嬢ちゃん、このりんご、蜜が入って美味しいよ。持っていきな』
リリアナは店主にお金を渡し、りんごと野菜の入った麻袋を受け取った。
『ありがとう。また来るわ』
リリアナが家に戻ると赤みがかった茶色の髪に黒い瞳の少女、アリューシアが慌てた様子で旅支度をしていた。
『あ、お帰り。ギルバートの所の薬草が全部枯れてしまったみたいで、ちょっと見てくるわ。2、3日は戻れないと思うの。大丈夫かしら?』
『そうなの?先週見た時は元気だったのにどうしたのかしらね?気をつけていってらっしゃい』
『ありがとう。フレディがそろそろ帰ってくると思うけど、きちんと鍵を閉めて、変なのが来ても開けちゃダメよ?』
『ふふ。分かってるわ』
アリューシアはバタバタと家を出て行った。
リリアナは人間の世界に来る少し前から魔法の神である魔神から強烈なアプローチを受けていた。魔神はとても強引であからさまにリリアナが嫌がっても引かなかった。そしてとうとう無理矢理純潔を奪われそうになった所をアリューシアに助けて貰ったのだ。
リリアナが夕飯の準備をしていると、花の精霊がフレディの帰宅を教えてくれた。
『リリィ、ただいま。アリィはもう出かけたのかい?』
銀髪に赤い瞳のとても綺麗な少年に向かってリリアナは笑顔を向けて抱きついた。
『フレディ、会いたかったわ。アリィはついさっき出かけたわ。2、3日は戻れないって』
フレディは優しくリリアナを抱きしめ、額に口づけを落とした。
『リリィは可愛いな。今日は朝早くから討伐任務があったから会えなかったね。明日は休みだから充分に可愛がってあげれるよ』
リリアナは顔を赤く染めて微笑んだ。
翌日、フレディの元に一枚の手紙が届いた。彼は渋い顔をして手紙を読み、あからさまにため息をついた。
『国境近くの村でまた魔獣が出たらしい。あそこは先週も魔獣が出て、子供が一人亡くなったんだ』
『国境近くだと2、3日は帰れないわね』
『アリィもいないし、リリィを一人にしておくのは不安なんだが…』
『フレディ様、わたくしがリリィ様をお守りしますわ』
一人の妖精がフレディの目の前を飛んでアピールした。最近フレディの元へやってきた妖精で、素性は知らないがリリアナとフレディのことをとても好いているようだった。
『分かった。よろしく頼む』
フレディが出かけると、妖精はリリアナに紅茶を入れてくれた。
『ありがとう』
紅茶を飲むリリアナを見て、妖精はニヤリと笑みを見せた。
リリアナが横になるベッドの上で妖精は呪詛を呟き、どす黒い粉を振りかけていた。眠るリリアナは悪夢を見ているのか苦しげに愛する人の名を呼んでいた。大量の粉がリリアナに降り注いだ頃、リリアナが呼ぶ名が変化した。それに気づいた妖精は粉をしまい、リリアナを起こした。
『リリアナ様。リリアナ様。大丈夫ですか?』
『ん?あなたは誰?ニックはどこにいるの?』
リリアナは起き上がり辺りを見回した。
『ニック様とはリリアナ様がお慕いしていらっしゃる方ですか?』
『そうよ。さっきまで一緒だったの。あなたどこにいるか知らない?』
『ではフレディ様のことはもう何とも思っていないのですね?』
リリアナはフレディの名前が出た途端に恐怖で震え始めた。
『その名前を言わないで』
それから2日後、アリューシアが帰宅するまでリリアナは悪夢を見続けた。愛するニックに無理矢理リリアナを妃にしようとする王子のフレディ。ニックとリリアナを助ける妖精。
アリューシアが呪いに気づき、呪解を何度試みてもダメだった。しまいにはアリューシアはニックとリリアナの仲を引き裂こうとする悪女だと思われてしまい、近くこともできなくなった。




