12 リリアナの記憶②
「フィオナ。フィオナ。エドワードが帰ったわ。起きて頂戴」
あの後、いつの間にか眠ってしまったフィオナはアリューシアに叩き起こされた。眠い目を擦りながらベッドから起き、メアリーによって強制的に鏡台へと連れて行かれ、身支度をした。
「じゃぁ私はエドワードを呼んでくるわ。フィオナはアレンが卵粥作ってくれたからそれを食べて待ってて」
アリューシアはそそくさと部屋を出て行き、メアリーはワゴンに乗った小さな鍋と器を廊下から持ってきた。熱々の卵粥を器によそい、フィオナの前に差し出した。
「お疲れのようでしたので、アリューシア様とエドワード殿下が帰られるまで起こさないように致しました。お腹が空いていらっしゃるでしょう?ゆっくりお召し上がりください」
「ありがとう」
ゆっくりとスプーンを動かし、卵粥を一口食べると出汁が効いててじんわりと心が温かくなった。
「美味しい」
(私の気持ちをアリィとエドワード殿下にお話しして、どうするか決めよう。私が記憶を解放する以外に方法があるかもしれないし)
少し気持ちが軽くなったフィオナはあっという間に卵粥を平らげた。食後のお茶を飲んでいると、アリューシアとエドワードが部屋に入って来た。メアリーは二人分のお茶を追加で入れ、部屋を出て行った。フィオナはメアリーのことを信頼していたが、アリューシアとしてはリリアナの秘密を知る者は最小限に抑えたかった為、エドワード、アリューシア、フィオナの三人だけが部屋にいる時は退出するようにお願いしていた。
「フィオナ、リリアナの記憶の解放はできそう?」
「話しにくいんだけど、リリアナの記憶を思い出すのが怖いの。前は戸惑いとかはあったけど、特に恐怖はなかったんだけど⋯」
フィオナは膝に置いていた両手をギュッと握った。その手の上に大きな手が包むように乗せられた。エドワードの手だった。
「もしかしたら呪いの影響かもな。あの呪いは記憶を消すものだったが、フィオナに全くその兆候がなかったのが不思議だったんだ。少しの間でも呪いを受けていたのにフィオナの記憶が少しも傷ついていなかったから、もしかしたらリリアナの記憶が目的だったのではないかと」
(そんなにリリアナの記憶って貴重だったのね。一体どんな記憶を消したかったんだろう?)
「フィオナ、とりあえず解放は置いといて、リリアナの記憶を取り出す事ってできるかしら?箱に入れて鍵を閉めて閉じ込めているのでしょう?それを取り出して欲しいの」
(そんなことできるかな?)
「うーん。出来るかしら?分からないわ」
「とりあえず、その箱をこのテーブルの上に出すようなイメージをしてみてくれる?」
フィオナは目を閉じ、頭の中にあるリリアナの記憶の入った箱を探した。頭の奥底に見つけたそれは前見た時よりも黒々と光っていた。それをテーブルへ移動するようにイメージし、そっと目を開けてみると、テーブルの上に宝石箱の様な箱が置いてあった。
「なんだか禍々しいわね。これって呪いよね?」
アリューシアは箱には触れずに周りを見渡した。エドワードはフィオナから手を離し、胸元から小さな小瓶を取り出した。蓋を開け、黒々と輝く箱の上から中の透明な液体を一滴垂らした。その液体が箱に触れた瞬間、黄金の光が箱を包み込んだ。あまりの眩しさに三人は目を瞑ってしまった。数分後、光が収まるとそこには金色の宝石箱があった。
「これで大丈夫だろう」
「エドワード、その液体何なの?」
「ん?女神の涙だ」
「な、なんでそんな物持ってるのよ!フィオナ、あなたエドワードにあげたの!?」
アリューシアが凄い剣幕でフィオナを問いただした。一方、あげた覚えのない物を問い詰められ、フィオナは混乱した。
「えっ?エドワードの前で泣いた事なんてなかったと思うのだけど?」
「あぁ、あの時は悪夢にうなされていた様だから覚えていないんだな。まぁとりあえずこれで呪いは解けた。中を開けてみてくれ」
「エドワード、女神の涙なんて大変な物、使う時は慎重になさい。それは死んだ人でも生き返らせれるのよ。間違った使い方をしたらそれこそ世界が滅ぶわ」
「分かっている」
(悪夢にうなされていた時?もしかしてあの時のこと?じゃぁあの時抱きしめてくれたのはコンラッド殿下ではなくエドワード殿下!?)
フィオナには二人の会話が届くことなく、一人で赤面していた。
「フィオナ?フィオナ?鍵を開けて頂戴」
フィオナはアリューシアに肩をがしりと掴まれ揺さぶられた。
「は、は、はい」
フィオナが箱に触れるとガチャリと音を立てて鍵が開き、蓋が開いた。中には小さな正方形の本がぎっしり詰まっていた。試しに一つ取り出してみるとA4サイズの分厚い本になった。本の表紙には0〜20と書かれていた。本を開けてみると本の上に立体映像の様な物が浮かび上がった。ベビーベッドに寝かされた赤ちゃんと赤ちゃんを見ながら微笑んでいる女性。
『トントン』
『あら、誰かしら?』
『マリアンヌ様。アリューシアです』
『どうぞ、お入りなさい』
トコトコと幼い少女が入って来た。
『この子がリリアナ様ですか?』
少女はベビーベッドを覗き込み、スヤスヤと寝息を立てている赤ちゃんを見つめていた。
『そうよ。仲良くしてあげてね』
『ふふ。私がお姉ちゃんよー。なんて』
バタン
勢いよく本が閉じられた。
「えっ?」
アリューシアが真っ赤な顔をして本を箱の奥底に閉まっていた。
「あの時寝ていたのに何で記憶があるのよ」
ボソリと呟き、一番新しい記憶を取り出した。
「私たちが知りたいのはこの時期の記憶でしょ?早く見ましょう」
「ぷっ」
エドワードは笑いを堪えきれずに吹き出してしまった。フィオナもつられて笑ってしまい、アリューシアは真っ赤になって二人を怒った。




