3 兄弟
「王族は魔力が強く、特殊なスキルを持っているんだ。その為、産まれた時から国王様と王妃様にはフィオナのことは知られていた。もちろんその瞳のこともな。」
「そうなのですね。」
(チートスキルってやつかな?どんなスキルか気になるけどきっとお父様もしらないよね。)
「どんなスキルかはもちろん私も知らない。」
(心を読まれた!?)
フィオナは目を見開きアレキサンドロスを見つめた。
「心も読めない。フィオナは思っていることが顔に出過ぎる。これから外に出ることになる。顔を作ることも覚えないとな。」
(うぅぅ〜。)
「やっぱりお断りすることはできないのですね。」
(王子の婚約者候補だなんて、めちゃくちゃ嫉妬や妬みを買うじゃないー。そんな中に飛び込んで行きたくないよー。)
ウルウルと潤んだ目でアレキサンドロスを見上げた。
「明日王城で謁見することになっている。王命には逆らえないのだよ、フィー。」
「分かりました。お父様。」
「こうなってしまってはフィオナを隠すことはもはや不可能だ。夕食は邸で一緒に食べよう。キースたちにフィオナを紹介しよう。」
「はい。」
(キースって確かお兄様よね?今13歳で騎士学院に入学中なはずだけど。あとは弟のダリルかぁ。めちゃくちゃ美少年らしいから会うのが楽しみだなぁ。)
「メアリー、今日はフィオナを邸に泊める。部屋の準備を頼む。」
「かしこまりました。」
「では私はまた仕事に戻る。フィオナ、夕食前に迎えに来るよ。」
「お待ちしています。」
扉の開く音がし、フィオナは急いでエントランスへ向かった。
「おっ。待たせてしまったかな?」
勢いよく駆け出したため、こけてしまったフィオナをアレキサンドロスは優しく抱き留めた。
「あっ申し訳ありません。お父様。」
「これからはもっと淑女教育が必要かな。まぁ王子妃教育があるからそこで学ぶか。」
「お父様、まだ婚約者候補です!」
フィオナは半眼し、抗議した。
「あぁーそうだったなぁ。」
(あの国王陛下のことだ、何がなんでもフィオナを王子妃にするだろう。フィオナ、頑張れよ。)
「旦那様、これを。」
メアリーが綺麗な刺繍が施されたベールを手渡した。
「フィオナ、邸に着くまでこれを被りなさい。短い距離とはいえ誰が見ているか分からない。その目を隠す必要がある。」
この世界では高貴な身分の者や顔に怪我をするなどして顔を人前に晒したくない者は白いベールで顔を隠している。
アレキサンドロスが用意させたベールは鼻辺りまでは真っ白な生地でしっかりと目元が隠れるようになっており、鼻から下はレースで刺繍を施されていた。
「まぁ、素敵なベールですね。しかもよく見えます。」
早速被ってみたが、何か魔法がかけてあるようで生地を通してもはっきりと周りが見える。
「透視の魔法を付与しといた。さて、そろそろ行く時間だ。」
「はい。」
「兄上、どなたが来られるかご存知ですか?」
ダリルは一人分多い夕食のカトラリーを見てキースに問いかけた。
「それが心当たりがなくてね。」
うーん、と眉間にシワを寄せてキースが答える。
「もしかしたら父上の愛人かもな。別邸に匿ってるって噂があるからなぁ。」
キースは母が亡くなってから足繁く別邸へ通っている父を怪しんで、嫌悪を抱いていた。
(母上が亡くなってすぐに女に入れ込むとは。甚だ気持ち悪い。早く俺が当主にならなければいけないな。)
「新しいお母様ですか?」
こてんと首を傾げて目をキラキラさせていると、エントランスから物音がした。
ダリルがエントランスに着くと父とベールを被った女の子を見つけた。
「父上、その子が新しいお母様ですか?」
きょとんとして質問するダリルにまずいと感じたキースが後ろから父に話しかけた。
「父上、ダリルはちょっと寝ぼけておりまして。その子はどこのご令嬢ですか?」
(キースのやつまたろくでもないことを教えおって。後でお仕置きが必要だな。)
アレキサンドロスはキースをひと睨みした。
「この子は私の娘だ。ダリルの双子の姉のフィオナだ。フィオナ、ベールを脱ぎなさい。」
するりとベールを脱いだフィオナを見た二人は固まった。やっと頭が働き出した二人は同時に同じことを呟いた。
「「女神様だ。」」