9 地の女神様
フィオナが目を覚ますと見慣れぬピンクの天蓋付きのベッドに寝かされていた。ふと横を見ると、一人の少女が椅子に座って本を読んでいた。フィオナが話しかけようと口を開いたが、喉が熱くなり上手く言葉を発することが出来なかった。すると少女がフィオナの異変に気づき、持っていた本がどさりと床に落ちた。
「リリアナ!気づいたのね。大丈夫?あぁ、声が出せないのね。ちょっと待ってて」
口をパクパクするだけのフィオナを見ると少女はすぐに部屋を出て行った。
(あの子誰?リリアナって呼んでたけど、なんで?)
暫くすると少女がコップを持って現れた。後ろからメアリーとエドワードも来ていた。
「フィオナさまぁー。良かったです。ご無事で」
メアリーはベッドに泣き崩れた。
「まずはこの薬を飲んで頂戴。これを飲めば声が出せると思うわ」
フィオナはエドワードに支えられて上体を起こすと、少女に渡された緑色の液体の入ったコップを手に取った。
「一気に飲んだ方がいいわ。味の保証は出来ないから」
フィオナはコクリと頷き、一気に飲み干した。
(うっ苦いし草くさい。どろっとしてて飲み込みにくいし、青汁を何倍にも濃縮してるみたいな味)
メアリーが水の入ったコップを手渡し、フィオナはそれも一気に流し込んだ。
「フィオナ?大丈夫か?」
エドワードが心配そうに青い瞳を揺らしてフィオナを見つめた。
「エドワード様、大丈夫です。なんだか記憶が曖昧なんですが、何があったんでしょう?」
「婚約発表の夜会のことは覚えているか?」
「はい、エドワード様が一時退室された所までは覚えているんですがその後があまり」
エドワードと少女は一気に安堵したように息を吐いた。
「「良かった(わ)」」
「へ??」
「フィオナがダリルの持ってきたリンゴジュースを飲んで倒れたんだ。そしてそのリンゴジュースの中に毒が入っていた。キースがすぐに解毒の対処を行ったんだが、毒だけでなく呪いまでかけられていたようでな」
「そこでたまたま夜会に参加していた私が毒の解析と解毒薬作り、呪いの解析を行うことになったのよ」
少女がニコニコして説明する横でエドワードはあからさまに顔をしかめた。
「リリアナが飲まされた毒はとっても特殊で貴重なものだったの。神にしか効かない毒よ。天界にある植物で人間が手にできるものではないわ。その毒が夜会に出された飲み物全てに入っていたわ。人間には無害な物だからリリアナだけを殺したかったんだと思う。
そして一緒にかけられた呪いだけど、それは記憶を忘れる呪いだったわ。私は呪解が得意ではないから彼に頼んだの」
少女は隣にいるエドワードをチラッと見た。
「そうなんですか。ありがとうございます」
「いいのよ。親友だもの」
「親友ですか?」
「あら?リリアナの記憶が復活したって光の妖精女王から聞いたんだけど、私のこと覚えてないの?」
少女は悲しそうな瞳でフィオナを見つめた。
「リリアナの記憶はなんだか重くって鍵をかけて閉じ込めたままなんです」
「あーそうよね。一気に全てを思い出すのは心に負担がかかるかも。意図的に私の記憶を抹消されたのかと思っちゃった。じゃぁ彼のことも覚えてないのね」
「エドワード様のことですか?」
「エドワードじゃないわよ。前世の「フィオナ!キースとダリルが会いたいと言っているんだが部屋に入れても大丈夫か?」
少女の話にエドワードが被せて話しかけてきた。少女はクスクス笑ってエドワードを見ていた。
「えっ?あ、はい。それは大丈夫ですが。
えっとそちらの方は私の親友なんですよね?名前を教えていただけませんか?」
「あら、ごめんなさい。名乗ってなかったわね。私は地の女神、アリューシアよ。アリィと呼んで頂戴」
「「地の女神様!?」」
フィオナとメアリーが同時に叫んだ。メアリーも彼女の正体は聞かされていなかった。知っていたのはエドワードのみである。
そのエドワードはキースとダリルを呼びにそっと部屋を出て行った。
「ふふ。だって創世の女神様の親友だもの神じゃなくちゃおかしいじゃない?」
「た、確かに。というか何故アリィ様が夜会に参加されていたんですか?」
「様はいらないし、敬語もいらないわ」
「わ、分かったわ」
「リリアナを殺した女狐が封印を破ったって聞いて、またリリアナを殺しに来るんじゃないかなぁと思って夜会に参加したのよ。それが当たってしまったのは災難だったけど、こうしてリリアナ、あ、今はフィオナね、とまた会えて嬉しいわ」
「そうなのね。私を殺した人が封印されたなんて知らなかった。それが破られたなんて…」
「大丈夫よ。これからは私が一緒にいるわ。光の妖精女王も協力してくれるし、彼、エドワードもいるし大丈夫よ」
「ありがとう。私も魔法をもっと勉強して身を守れるようにするわ」
『コンコンコン』
「どうぞ」
「あ、姉上。お身体は大丈夫ですか?」
ダリルが勢いよく入ってきてベッドに座るフィオナの手を握り締めた。瞳には涙を浮かべていた。
「大丈夫よ。あまり気にしないでね。自分で飲み物を取って飲んでも同じことになっていたんだから、ダリルが気にすることではないわ」
「ですが!」
ダリルの口元にフィオナの人差し指が当てられ、話を止められた。
「特に後遺症もないようだし、私は気にしてないわ。今回の件でアリィにも会えたし、悪いことばかりでもないのよ」
「ダリル、フィオナは図太い性格なんだ。大丈夫だ」
「キースお兄様、図太いはいいすぎです!」
「まぁ1ヶ月も眠ったままだったのに、起きてすぐにこんなに元気なんだ。ダリルも気に病むな」
「えっ1ヶ月!?」
「なんだ?誰にも聞いていなかったのか?来週から学院も始まるし、どうしようかと父上と話していたんだ。フィオナが目を覚まして本当に良かった」
キースは温かい眼差しをフィオナに向け、頭をポンポンと撫でた。




