5 ダンスレッスン
フィオナはダリルの話を聞きながら、リリアナとしての記憶を思い出していた。
(あの森で一緒に過ごしていたニックが第一王子ってこと?肝心な記憶が霞んでいて思い出せない)
フィオナは無意識に頭を抱えていた。
「姉上?大丈夫ですか?」
「うん。ちょっと混乱してただけよ」
「そうですか。王族は女神様を殺したのでその負い目があるんです。
だから女神様が愛する者は必ず幸せにしなくてはいけないという信念があるみたいです。その為、女神様である姉上が愛するエドワード殿下が王太子になったという解釈になり、姉上が他の者に心を奪われれば、その者が王太子になる、という噂が広まっています。
姉上が貴族学院に入学することも知られているので、良からぬことを企む者も現れます。その為に僕が護衛になるんです」
「ごめんなさい。ダリルは騎士学院に入学したかったのでしょう?他の人じゃダメなのかしら?」
「僕は兄上程ではありませんが、剣技も近衛兵並には出来ますし、魔法も使えるので一番適任かと思います。
貴族学院では剣技も魔法も学べるしちょうど良いと思っていたので姉上のことがなくとも貴族学院に入るつもりでした」
「そうだったのね。ダリルは魔力が多いみたいね。頼りにしてるわ」
「あ、入学式の後の夜会のエスコートは僕がします。姉上はダンスできるんですか?」
「夜会なんてあるの!?ダンスはまぁまぁかなぁー」
「ダリル様の運動神経であれば足を踏まれることはないかと思います。フィオナ様、他の方とはあまり踊らない方がよろしいのでは?」
「はぁ。今日からダンスの練習しますよ。兄上も呼んできます」
「えぇーーーイヤーー」
別邸内にフィオナの叫び声が轟いた。
「入学式の前に婚約発表の夜会もあるんだろ?こんなんでダンスするつもりだったのか?」
キースは大きなため息をついて、床にへたり込むフィオナを睨んだ。
「はぁはぁ。これでも練習してたの!」
「姉上、もっと背筋を伸ばして、踏み込みをもっと大きくしないとダメですよ」
「はい」
ダリルはフィオナの腕を掴んで立たせ、練習の続きを始めた。
婚約発表の2日前、エドワードがフィオナの元を訪れていた。
「フィオナ、ダンス上手かったんだな」
キースとダリルの指導でなんとか様になったので最後の仕上げとしてエドワードと踊っていた。
「やっと見られる程度には仕上がったな」
「姉上はほんとセンスがなくて大変でした」
「ふふ。明後日が楽しみ」
キースとダリルの言葉を無視してエドワードに微笑んだ。
エドワードはグッとフィオナを抱き寄せ、耳元で何かを囁いた。キースとダリルはそれを見ると、そそくさと邸へ戻っていった。
「フィオナ、明後日は俺以外とダンスしてはいけないよ」
「は、はい」
エドワードの色気に当てられたフィオナはコクコクと首を縦に振った。
「さて、ダンスはこのくらいにして、フィオナの部屋に行こうか」
ヒョイっとフィオナを抱き上げ、お姫様抱っこで部屋まで運ばれて行った。
「あ、歩けるのに」
フィオナは顔を真っ赤にして抗議したが、その言葉は口付けと共に消えていった。段々深くなる口付けにフィオナは息が苦しくなり、エドワードの胸元をギュッと掴んだ。やっと解放され、ゆっくりと椅子に下ろされたフィオナの左手の薬指にキラキラと輝く指輪がつけられていた。
「フィオナ、改めて言う。俺と結婚して欲しい。愛している」
エドワードは跪き、フィオナの左手に軽く口付けをおとした。
「はい。私もエドワード殿下を愛しています」
二人は抱き合い、また口付けを交わした。




