15 女神様の過去
ベッドの上で黒髪の青年が眠っていた。青年の手を握り締め涙を堪えている美女がベッドの横に座っていた。
「ニック、目を覚まして。」
「リリアナ?いるのか?」
ドアのノックと共に男の大声が部屋中に響いた。
リリアナは警戒しつつドアに近づいた。
「何の御用ですか?」
ドア越しに問いかけた。
「ドアを開けてくれ。大事な話があるんだ」
「そこでお話しください」
「ニックのことなんだ。きちんと顔を見て話したい」
少し考え、カチャリと扉の鍵を開け、男を部屋に招き入れた。男は銀の髪に赤い目を持った美青年だった。
「ニックのこととはどういうことですか?」
「解毒薬が見つかったんだ」
「本当ですか!?良かった」
リリアナはベッドに横たわるニックを抱きしめた。男はそれを苦々しい顔をして睨んでいた。
「ただその解毒薬はとても貴重な物で手に入れるのにとても苦労した」
「お代は必ずお支払いします」
「いや、お金はいらない。一つ条件をのむならタダであげるよ」
男はニヤっと笑った。
「それは何ですか?」
リリアナに悪寒が走った。聞いたら終わりだと思ったが、どうしてもニックを助けたかった。
「リリアナが俺をベッドで一晩楽しませてくれれば薬をあげるよ」
「嫌です」
咄嗟に叫んでしまった。
「ニックがどうなってもいいのかい?一晩俺に愛されればいいんだよ?痛いことは何もない。いっぱい愛してあげるよ」
男の言葉にリリアナは背筋が凍った。
どんなに酷い条件であっても要求をのむしかニックを助ける道はなかった。リリアナは条件を承諾した。男は今晩城に来るように言い、満足して帰っていった。
リリアナは泣き叫んだ。
何故こんなことになったのか?女神である自分が人間を愛してしまったのがいけなかったのか?もっと醜い容姿であればよかったのか?
リリアナが泣きやむ頃、一人の妖精が現れた。
『リリアナ様、泣かないで。私が代わりにあの男の元に行きます』
光の精霊だった。
「ダメよ。大丈夫。一晩我慢すればいいだけだから」
無理矢理笑顔を作ったが、それはあまりに痛々しかった。
『私はアレを知っています。ニック様への嫉妬で汚れきってしまいましたが、私は愛していたのです。女神様といえどアレと契りを交わすのを見てはいられないのです』
頬を伝った涙はキラキラとした結晶になって散っていった。
「分かったわ。ごめんなさい」
光の精霊はリリアナに変身し、リリアナは自分の魔力で妖精を包みこみ瞳の色を自分と同じ物にした。いくら変身の得意な妖精でも女神と同じ瞳は真似できない。妖精は悲しい笑顔を見せ、城へと向かっていった。
翌朝、一睡もできなかったリリアナはそわそわと妖精の帰りを待っていた。
突如テーブルの上に魔法陣が光り、液体の入った小さな瓶と小さなメモが現れた。リリアナはすぐ手に取り、メモを読んだ。妖精からだった。男はリリアナではないことに気づかなかったらしい。妖精は何かの薬を盛られたらしく、命に別状はないがこちらには来られないらしい。
リリアナは一緒に届いた解毒薬を一口飲んでみた。毒は入っていない。すぐさまニックに飲ませた。少しむせてしまったが、全部飲ませることができた。
少しするとニックが目を覚ました。ベッドに突っ伏して寝てしまっていたリリアナに気づき、優しく髪に口付けのを落とした。
フィオナが目を覚ますとそこは祭壇の上だった。
(あれ?ここはどこ?私は何していたんだっけ?さっきのは夢?)
フィオナはこんがらがった記憶を一つ一つ丁寧に解いていくことにした。
(まず、私は妖精に会うために光の神殿に行くことになったのよね)
フィオナは昨晩のことを思い返してみた。
「メアリー、急なんだけど、明日マックスと一緒に妖精に会いに行こうと思うの」
「明日ですか!?外出するには色々手続きも必要ですし、急には無理ですよ!」
「大丈夫!フィンが私のフリをしてくれるから、いないのなんて気づかれないわ」
「えぇー。フィオナ様、外は危険です」
「大丈夫!マックスがいるし、転移魔法を使ってもらうからすぐ帰れるし」
「メアリー嬢、俺がフィオナを守るから大丈夫だ。それに光の妖精の神殿は魔獣もいないし危険はない」
「分かりました。なるべく早く帰ってくると約束してくださいね」
「もちろん」




