12 夢
川のほとりで黒髪の青年とオッドアイの美女が座って話をしていた。
『リリアナ、どうして君はそんなに俺に優しいんだ?』
『ニックはとっても優しいし、強い心を持っているから。どうしてもあなたの力になりたくて。』
リリアナは頬を赤く染めてうつむいた。
『君が側にいてくれるだけで充分だよ。』
ニックはゆっくりとリリアナの頭を撫でた。
その様子を見ていた黒い獣がゆっくりと二人に近づいた。獣はリリアナの足をつかみ上げ、担いだ。ニックは咄嗟に腰に付けていたロングソードを引き抜き、獣に向けた。獣はロングソードを避け、鋭い爪でニックの脚をザクっと引きちぎった。リリアナは無我夢中で獣に魔法を放ち、倒れた獣から逃れ、ニックに駆け寄った。
『ニック。ニック。死なないで。』
リリアナは回復魔法を何度もかけ、ニックの脚は繋がったが意識が戻らない。
リリアナは溢れ出す涙をなんども拭い、ニックの心音を確かめた。心音を聞き、少しほっとしたリリアナはそっと触れるだけの口付けをニックの唇に落とした。
フィオナが目を覚ました時、枕が涙で濡れていた。とてもとても悲しい夢を見ていたようだ。全力疾走した後のように心臓がバクバクと音を立てていた。
胸に手を当てて起き上がり、水差しからコップに水お注ぎ、ゆっくり飲み干した。
(どんな夢を見たか分からないけど、怖かった。)
自分自身をゆっくりと抱きしめた。
トントンとノックがなり、誰かが入ってきた。放心状態のフィオナはそれに気づかずに目に涙を溜めて耐えていた。
「フィオナ?」
声をかけられてもフィオナの耳には届かなかった。
フィオナはゆっくりと抱きしめられていた。とても温かくて懐かしい匂いがした。ゆっくりと頭を撫でられ、フィオナは手を彼の背中に回した。彼の腕の中はとても心地よく、守られている安心感があり、次第に眠くなって寝てしまった。
彼はそっとフィオナをベッドに寝かせ、おでこに口付けを落として部屋を出て行った。
「フィオナ様、朝食のお時間です。」
「おはようございます。」
「王宮侍女のエレナと申します。メアリー様は急用でまだ邸からお戻りでないので代わりに伺いました。」
「ありがとう。
エレナが来る前に誰か部屋にいたかしら?」
「いえ、どなたもいらっしゃいませんでした。」
(あれ?誰かに抱きしめられた気がするのだけど、あれは夢?でも水を飲んだコップがあるし、現実だよね。)
「あ、コンラッド殿下が部屋の近くにいらっしゃいましたよ。」
「そ、そうなのね。」
(コ、コンラッド様だったのー!?)
朝食後、マックスが護衛の為部屋に入ってきたが、フィオナは何だか落ち着きがなくソワソワしていた。
今朝抱きしめてくれたのがマックスなのか聞いてみたい気もしたが、もし違ったら…と思うと聞けなかった。
お昼頃になり、ようやくメアリーが戻ってきた。
「フィオナ様、ただいま戻りました。」
「おかえりなさい。メアリー。」
「旦那様にご相談してきました。
コンラッド殿下とのご婚約ですが、婚約者候補のままにされるそうです。」
「ほんと!?大丈夫なの?」
「旦那様曰く、わざとフィオナ様を傷物にして娶るつもりだった可能性が考えられるので国王陛下に強く発言できるそうです。」
「そうなのね。良かったー。」
「あ、それと、マックス様とご婚約されるのなら大歓迎だそうです。」
「えっ?」
「フィオナ様を救った勇者はマキナム侯爵家では大人気でございます。」
メアリーはマックスに向かって微笑んだ。
マックスはちょっと困ったような顔をしていた。
ちなみにフィオナは固まっていた。




