表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/4

徴兵検査


 そして儀式の直後に待っているのが憂鬱な徴兵検査。

 どんな守護精霊が付いたかによって、ここで人生が大きく分かれてしまう。

 守護精霊の力によって一定レベル以上の肉体面の強化が見られると、甲種合格となり騎士候補生として予備隊1年、兵役2年が課せられる。

 強力な精霊魔法が使える素質が覚醒していればこれも甲種合格。精霊使い見習いとして、兵役は騎士候補生と同じ扱いだ。

 甲種合格となれば、その後も軍に残っても士官としてそれなりの待遇が与えられるし、除隊してもこのご時世だ。民間でも食うに困ることはない。

 甲種のレベルに満たないと丙種扱いで兵卒として兵役2年。軍に残るも除隊するもあとは本人の才覚次第。

 郊外だとまだまだ魔獣の出没も多く、それに対応する軍の戦死率はそこそこ高い。特に甲種合格者の騎士と精霊使いで構成される正規の騎士団は最前線の実戦部隊だから、さらに危険も多い。それでも甲種合格者は騎士、精霊使い合わせて1割から2割なので、人気の職業だ。誰もがなれるわけでもなく県民を守る選ばれし英雄という扱いなのだからそれも当然だ。

 検査場への先頭を歩く委員長はなんかさっきと違うオーラに満ち溢れているように見える。ああいうのがデキるものの貫禄なんだろう。俺や神林を含む他のクラスメイトはモブ感が漂っているようでみじめでさえある。

 本人の意志や努力とは無関係に、合格するかどうかは血筋と精霊様次第なのだからなるようになれとは思うが、さっきの儀式とは違う意味で緊張する。

 それはクラス全体に言えることで待合室に入ってもみんな黙り込んで、妙な空気が漂っている。

 待合室のドアが開き、精霊使いらしきローブ姿の女性が入ってくる。


「では検査を始めます。名前を呼ばれたものは一人ずつ検査場に入ってきてください。三澤シエラ」


「はいっ」


「1番検査場へ」


 検査官に促され委員長が検査場へ向かう。

 同級生の癖につくづく絵になる綺麗な歩き方だ

 検査場は5つあるらしく、続けて4人の名前が呼ばれていった。

 どんな検査をするのかは知らないが、儀式の直後に検査があるのは、能力に覚醒して制御できずに暴走する人間が過去にいたからだそうだ。甲種合格すると明日から2日間特別メニューで力のコントロールについて指導があるらしい。

 この年まで受霊の儀がされないのも、自我の押さえられない子供が力を持ちすぎて悲惨な事件が頻発した末のことだと聞いている。駄々っ子が火の玉やカマイタチを連発したり、常人の数倍の力で暴れたら一般人では抑えきれない。

 一般人にはない力を持つものは軍に集めてまとめて教育しようということなのだろう。


「甲種合格!」


「おお・・・」


 委員長が向かった検査場のほうから結果を伝える声が聞こえてきて、静かだった待合室がざわめきはじめた。


「妥当だよな」


「うん」


 意外性のかけらもない。神林と俺はうなずき合う。うちの学校の3年生が40人なので、順当にいけば騎士、精霊使い合わせて4~8人程度の合格者が出るはずだ。

 しかし、順番に検査場に呼ばれて行き、待合室に残る人間が半分ほどに減っても合格の声は他に聞こえてこない。


「次、内藤ミズホ!」


「はいっ」


 いよいよ俺の順番が来た。神林に小さく声をかけて、案内された検査場のドアをくぐる。

 そこは幅10メートル、奥行きは長く100m近くある細長い空間だった。

 検査官役らしき騎士と精霊使いが二人ずつ。やはり甲種合格して選ばれた人間ともなると圧倒されるような存在感をかんじる。


「内藤ミズホです!よろしくお願いいたします!」


 そんなお偉いさんの前で一体何をさせられるんだろうと思っていたら、最初は拍子抜けするほど簡単なことだった。

 筋力測定や50メートルダッシュ、ロープワークなどなど。おそらく騎士としての肉体的な能力の変化の測定だろう。

 内容は想定外だったが、測定結果は想定内。以前となんら変わることなく、平凡な記録の連発。

 検査官からはなんだかこいつもダメかみたいな、雰囲気が伝わってくる。俺たちは不作の年なんだろうか。


「では、今度は精霊使いとしての能力を見ます。そこの線のところに立って、検査場の奥に置いてある一番右のカカシを見てください。」


「はい」


 50メートルダッシュのゴールより向こうにあるから、こことの距離は80メートルくらいのところにカカシが4体並んでいる。


「地水火風、一番最初に思い浮かぶのはなんですか?」


「・・・風でしょうか」


 そういえば、どれが好きとか考えたことなかった。受霊でそういった好みも変わってくるのかな。どの属性の精霊が宿るとかそういう説明も先生からはなかった気がする。


「ここから先はイメージが大事です。カカシに向かい、目を閉じて、心を落ち着け、風がそよぐのを感じてください」


 風、流れる風・・・・。


「そよ風があなたの周りに集まります。あなたの中でそよ風は次第に強く渦巻きます」


 風の流れを自分の中に感じ、小さく集めて凝縮させていくイメージ。


「精霊の力を感じ、助けを借りながら極限まで高めて、風を切り裂く風。カマイタチとしてカカシを狙います」


 守護精霊よ・・・。肉体とは違う次元。心の中に風の力が満ちてくる。次第に心の領域から溢れかえりそうなちからをギュっと押し固め、カカシに向かって解き放つ!


「いけっ!!」


 カカシに向けて、突き出した腕から見えない力の塊のようなものが飛んでいき、カカシの抱える的に直撃した。


「やった!」


 俺すげー!!思わずガッツポーズをとってしまう。もしかして俺って精霊使いの才能に目覚めた!?

 よっしゃー!!


「「・・・・」」


 と、思っていたら検査官の皆さんの反応はかなり微妙だった。

 あれ?


「もう一度、今度は右から2番目を狙って」


 同じように精神を集中させ、カマイタチは狙い通りにカカシに吸い込まれるように命中した。


「次は火の精霊をイメージしながら火の玉で右から3番目のカカシを狙ってください」


 その後数十回、俺は指示されるままに地水火風の精霊魔法をカカシに命中させた。

 最初から百発百中って我ながら上出来だ。

 しかし4人はすでに5分近くもひそひそと小声で打ち合わせていて合否を教えてくれない。


「えーっと、一応甲種合格・・・?」


「精度は高いが威力が低すぎるんだ。入営後は人一倍鍛錬に励むように!」


「せめてカカシを一撃で破壊する程度でないとな」


「破壊に5発もいるようじゃ、実戦で死ぬよ?」


 なんか散々な言われようだ。

 『一応』でも甲種合格だから、喜んでもいいんだよね?


 甲種合格の証明書を受け取り、今後のスケジュールなどの説明を受けて検査終了者待合室に入ると、すでにみんな検査が終わっていて俺待ち状態になっていた。


「なんとびっくり、甲種だった!」


「すげーな!」


 思わず神林とハイタッチしてしまう。


「俺はやっぱり丙種だったよ。今回甲種だったのはお前と委員長だけみたいだしな」


 どうりでみんなの表情が暗いわけだ。

 それにしても40人からいて、甲種合格者が委員長が騎士候補生で、俺が精霊使い見習いの二人だけとはずいぶん少ない。俺もボーダーすれすれだったみたいだしな。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ