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キャンプ場にて

 深夜おそく、三上勇人は目を覚ました。いつもならこんな時間に目を覚ますことなどまずなく、朝までぐっすりと眠りこんでいるはずだった。しかし今、彼が寝ているのはいつも使っているベッドではなく、固い地面の上に設営されたテントの中の、そこにしかれた寝袋の中。とうてい寝つける訳がない。勇人は両隣で眠る友人たちを起こさぬよう寝袋から静かに抜け出ると、足元に気を付けながら慎重に他人の寝袋をまたぎ、テントの外へと出て行った。

 季節は夏。涼しいとまではいかないが、真昼の猛暑と比べればいくらかましになっていた。空は晴れ、日頃目にすることがない多数の星々が輝いている。確かにきれいだと、勇人は思う。来なければ良かったという気持ちも、昼間ほどはない。しかし、今日のキャンプに来なければ、今頃きっと、もっと楽しい夢の中にいたはずだ。録画された今日放送のロボットアニメを何度も何度も、母親にもう寝なさいと言いつけられるまで見続けて、大変満足した気持ちのままベッドに入っているはずだったのだ。そう思うと、勇人の中の不満感は完全には消えてくれない。

 勇人が今この場所にいるのは、彼の母親がきっかけであった。勇人はもともと活発なタイプではなく、どちらかと言えば家の中でアニメを見たり、ゲームをしたりするのが好きなインドア系であった。夏休みに入ってからはその傾向がさらに強まり、朝から晩まで、母親に叱られるまでずっとテレビの前にかじりついているほどだ。そんな彼がアニメとゲームを禁止されない変わりに母親から課せられたのが、小学校の教師たちが主催するキャンプに参加することであった。友人たちと一緒に田舎の山の中で過ごすことで少しでも勇人が活発になれば、と言うのが彼女の狙いらしい。キャンプの一日目は勇人のお気に入りのロボットアニメの放送日であったため、彼は最初母親の要求を拒否したのだが、ならば夏休みの間アニメとゲームは禁止にすると言われれば、勇人はもう折れるしかない。アニメの録画を忘れないように母親に念押しし、しぶしぶキャンプに参加するのであった。

 母さん、ちゃんと録画してくれているかな? 勇人は不安に思った。キャンプからの帰宅後に見る録画したアニメが、彼が今一番楽しみにしているものだった。家事の忙しさで、録画を忘れてやしないだろうか? もしかしたらアニメを卒業させたいがために、わざと録画を忘れたりなんかしないだろうか? そんな疑心暗鬼な考えまで心に浮かんでくる。勇人は首を左右に振った。いくら母さんでも、そこまで外道なことはしないだろう。アニメのことは楽しみにしたまま、今は今しか楽しめないことを楽しむべきだ。そう思って、勇人は上空の星空に顔を上げた。

 やはりきれいだと、彼は思った。そう言えば、例のアニメの一話も冒頭で、主人公の少年が、今の自分と同じように、きれいな星空を眺めていたっけ。アニメと現実との区別がまだつけきれていない勇人は、アニメの主人公と自分とを重ねて、妙なワクワク感に浸され始めた。そうそう、こんなきれいな星空の下で、主人公は星を見上げていたんだ。そして空から流れ星がたくさん落ちてきて、大興奮。でも実はその流れ星は隕石で、その中に主役ロボたちが隠れて地球にやってきていたんだよね。こんな風なきれいな星空の中で、たくさんの流れ星が落ちてきて……。

 今、勇人の視線の先でも、いくつか星が流れていた。彼は最初、それが現実のものだとは気が付かなかった。妄想から我に返った勇人は、現実の流れ星に興奮した。すごい! 山の中だと、こんなにたくさんの流れ星が一度に見られるものなんだ。あれ、でも、流れ星って、あんなにたくさん、同時に落ちてくるものだっけ? それに何だか、思っているより近いような……。

 流れ星たちが勇人の視界から消えた瞬間、轟音と震動が次々と勇人に襲い掛かった。立っていられなくなり、思わず地面にかがんでしまう。先ほどまでの興奮はすっかり冷めてしまい、今度は恐怖心が顔を出す。流れ星が、すぐ近くに落ちたんだ!

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