第79話 警備隊本部で
「説明」は、次回にまわしましたので、すこし、わかりにくいと感じるかもしれません。
きょうは、空港に見送りにいくので、昼の分が書けず、投稿できないです(笑)。
その分というほどではないですが、すこし、長めに書きました。
【この部分は、また、「三人称視点」になります。】
王都の城壁のそばには、警備隊の本部があった。
一番奥には、王城があり、
やや中央には、冒険者ギルドがある。
王都の全域に、目を光らせるために、警備隊本部は、ここに設定されていたのである。
じっさいに、あの『勇者』が召還されるまでは、王都は、それなりに、治安が行き届いていた。
いま、この警備本部の『隊長室』に、10人ほどの客が訪れていた。
「旅に出られるのですか…」
体格のいい警備隊長が、神妙な顔で話しかけた。
「行くなら、今しかないと思ってねえ…」
「宰相のお陰で、めっきり、一般信徒は、教会に近づけなくなっちまってる…」
それに、
「もう、この国には、『勇者召還』は、なくなったのさ。最後の勇者も、『聖女』が召還したわけじゃない」
アタシが、王都に、へばりついている必要もないだろうさ。
大司教のマリアであった。
もちろん、六人のシスターも、後ろに、ひかえていた。
いま、ここには、マリアが、平然と、宰相を非難しても、誰も咎めるものはいない。
隊長本人も、宰相に与するものではなかった。
となりに座っている『眼鏡の副隊長』も、同様である。
「わたしたちも、あの馬鹿息子のことが、すこし気になってね…」
「家にじっとしていても、埒が明かないでしょ…」
ミルフィーユ周辺は、魔物の棲家になっているとは聞いているが、行ける所までは、行ってみたい。
やや、高齢の夫婦であった。
しかし、いま、警備隊長や大司教という高位の者と、言葉を交わしているのに、いささかも、臆するところはみえない。
ふたりは、夫婦揃って、『賢者』とまで呼ばれた大魔道士であった。
もっとも、しばらく前から、隠居どうぜんに、自宅にこもっていたが…
「我々が、ふがいないせいで…」
副隊長が沈痛な声で、つぶやいた。こころなしか、眼鏡が曇っているようにも見える。
「馬鹿を言うんじゃないよ!」
「警備隊のせいじゃないさね」
「副隊長たちが、王都をしっかり守ってくれておることは、わたしが、よく知っている」
「ガトー先生……」
「……ありがとうございます」
副隊長が、目頭を熱くして、かつての魔法の師に目をやった。
『ガトー先生』と呼ばれた、この賢者は、ミルフィーユ辺境伯の父親であった。
ミルフィーユは、領地の後ろにそびえる『ミルフィーユ山脈』の名称である。
『領主アルベール』も、ファミリーネームは、『ガトー』であった。
この、やや虫歯になりそうな組み合わせは、ディテール大好きの読者の方なら、覚えておいでかもしれない。
「…それに」
マリアが、目を細めた。
「この、胸くその悪くなる状況だって、いつまでも、続くとは限らないさね」
にやりと楽しげに笑ったマリアを見て、警備隊のふたりは、ひとりの少年の存在に、思い至った。
あの、ピンクのクマの頭部をかたどった、ポシェットをさっそうと?、肩にかけていた、あの少年であった。
『ケンイチ殿の後継者か…』
警備隊のふたりは、あの日、現役勇者の魔剣を、遊び半分で退けていた少年を思い出しながら、かすかな希望を感じていた。
「それじゃあ、そろそろ出発しようかね」
マリアが、うしろに控えていたシスターたちに声を掛けた。
「もう、昼も過ぎてしまいましたが、これから、街道に出て、大丈夫なのですか?」
隊長が、心配そうに尋ねた。
旅に出るには、たしかに、やや遅い時間だった。
「アタシらと、『賢者』さまが二人もいるんだよ。軍隊でも来ない限り大丈夫さね」
まあ、もっとも、きょうは、軍隊でも、平気だろうがね…
そんなことを言いながら、隊長室をあとにした。
一行を見送ろうと、警備隊長と副隊長のふたりが、先立って、外に出たときだった。
「なんのつもりだ…」
警備隊長が、さりげなく、剣に手をかけながら、きびしい口調で言った。
外には、一人の老人が待ちわびたような表情で、立っていた。
うしろには、騎士たちが、武装した兵士を従えている。
およそ百名を超える王国軍兵士であった。
おやおや、
「ほんとうに、軍隊のお出ましとは…」
「うかつなことは、言うもんじゃないねえ…」
マリアが、杖を、トンと地面につけた。
シスターたちも、すでに、杖をかまえている。
兵士たちも、おのおの武器を構えて、一行をにらみつけた。
数で押せるとはいっても、相手が相手である。
とうてい、油断などできるものではない。
一触即発の、張り詰めた空気のなかで、老人は、さっと手を広げて、兵士たちを制すると、
「ご旅行ですかな」
一行に、尋ねた。
「あんたの知ったことじゃないさね。宰相どの…」
マリアは、ちらりと横を見た。
そこには、警備隊員が数名、彼らに、押さえつけられている。
隊長に知らせようとしたのを、力ずくで止められたのだろう。さいわい、大きなケガを負っているようには見えない。
「きさま、宰相様に、なんという口を…!」
騎士のひとりが、わめきだした。
が、
「大司教さまを『きさま呼ばわり』とは…」
「宰相殿、すこし、しつけがなっておらんのではないか…?」
賢者ガトーの落ち着いた声で、遮られた。
とりたてて、大きな声ではない。
しかし、魔力の強くこもった声は、騎士を、ひるませたのである。
老人は、さも申し訳なさそうに、言った。
せっかくの旅立ちを、邪魔するのは、まことに不本意なのじゃが、
「大司教殿と、賢者どのには、とある嫌疑が、かかっ………!」
………………
老人のことばは、そこで、止まった。
むしろ、『口を動かすこと』が、できなくなったのである。
心も体も、恐怖で凍りついたように動かない。
………………
後ろの騎士や兵士たちも、やや、ふしぜんな格好のままで、微動だにしなくなった。
ゆびを一本うごかすにも、はばかられるほどの恐怖にとらわれていたのである。
ただ、目だけが、怯えたきったように、ぎょろぎょろと動いている。
………………
………………
「どうしたんだ…」
警備隊の隊長が、この『異常』に気づいて、言葉をもらした。
マリアは、また、ちらりと横を見た。
茶のローブを着た者が、数名の警備隊員に治癒魔法をかけている。
さきほどまで、押さえつけられていたのを、兵士たちから、引き剥がしてきたらしい。
シスターたちと一緒に、マリアの後ろで、ひかえていたひとりだった。ずっとフードは、かぶったままだ。
「なるほど…」
副隊長の眼鏡が、久しぶりに、強い光を放った。
「あの、茶のローブを着ている『彼』が…」
何か、未知の魔法を発動したのでしょうね。
あの、勇者の魔剣を、退けたときのように…
治療が終わると、茶のローブの『彼』は、マリアのほうを向いた。
そして、フードをかぶったまま、かるくうなずくと、城門に向かって歩き始めた。
「それじゃあ、アタシらも、行くとするよ」
何事もなかったかのように、大司教のマリアは、警備隊長に、別れを告げた。
「アンタたちも、身体に気をつけるんだよ」
それから、いまだに、口さえきけない、宰相のほうに向き直ると、
「なんだか、たいした用件も、無いようじゃないか」
からかうように、そう言った。
「これで、アタシらは、この街を出て行くけれど…」
「アンタも、せいぜい、気をつけることさね」
じろりと、その、恐怖に凍りついた老人を、にらみつけてから、
城門に向かって、ゆっくりと歩き出した。
いろいろと見えてしまう映像とは違って、文章は、書かなければ、一時的に隠すことができるのだなと思いました(笑)。
いまさらですけど、こういう発見も、楽しいです。
ひとりよがりかもしれないですけど…




