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お嫁さん&魔物さんといっしょに、ムテキな異世界生活  作者: 法蓮奏
エルフ王国・ヒレカツ帝国編(ショ島・グリコーゲン大陸)
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第628話 三人の姫



 「…それでは、やはり、『魔物王国』の国王陛下は、『大波動の魔道士』さまに違いないのですね」



 真紅のドレスに身を包んだ、金髪碧眼の美少女が、うなるように言った。


 ややつり目の気の強そうな少女で、背筋をしゃんと伸ばしながら優雅に言葉を交わす姿は、いかにも大国の姫にふさわしい。



 彼女は、レバニラ王国の皇女だった。



 レバニラ王国は、エルフ王国とヒレカツ帝国が、相互不可侵条約を結ぶと聞きつけて、突如、割り込んできたのである。



 いささか、強引にすぎる話ではあったが、そもそも、ヒレカツ帝国が、ショ島に攻め込んで、エルフや獣人たちを奴隷としようとしたのは、レバニラ王国との長きに渡る戦争が原因だった。


 もちろん、戦争といっても、レバニラ王国が一方的に攻め込んで来ているに過ぎない。

 ヒレカツ帝国は、レバニラ王国に対抗するための、戦闘力と労働力として、エルフや獣人たちを捕らえて、奴隷として使役してきたわけだ。


 

 こうした経緯けいいがある以上、そもそもの元凶ともいえるレバニラ王国が、手のひらを返すように、不可侵の条約を結ぼうとしてきたのは、冷静に考えてみれば、願ってもないことにはちがいなかった。

 感情的な問題を別にすれば…の話ではあるが。



 それに、いざ、講和会議が始まってしまえば、人柄が、ものをいう。

 


 レバニラ王国の姫は、押し出しの強さはあるものの、突如、講話を願い出たことへの後ろめたさを隠すこともなく、誠実に謝罪してきた。

 

 この会議に集った各国の代表者は、みな、同じ年頃の姫である。


 エルフ王国の姫にせよ、ヒレカツ帝国の姫にせよ。年の近い友人のような少女が、申し訳なさそうに語りかけてくれば、はねつけるのも難しい。



 さらには、三人とも、『皇女』という立場上、気の許せる友もいないに等しいし、自分の『皇女』として立場を共感してくれる人物など、めったに会えるものでもない。


 それゆえ、型通りの講話条約の締結の儀式が終わってしまえば、自然の趨勢すうせいとして、三人の姫は、たちまち打ち解けて、つかの間の女の子同士の会話を楽しむようになっていたのであった。




 「私たちも、ショ島に張り巡らされた結界の魔力から、おおよその予測をつけてはいたのだけれど、たまたま、『魔物王国』の居酒屋さんに就職することになった、十傑のひとりのレオニーちゃんから聞いた時は、ほんとうに驚いたわ…。それに…」



 ヒレカツ帝国のポリーヌ姫も、大きな胸を揺らしながら、しきりにうなずいている。

 もちろん、彼女も、講和会議に出席した代表者だ。



 「…レオニーちゃんのお話では、その国王陛下は、異世界人だそうよ」



 「まあっ!まさかそんなことが…」

 

 マルティナ姫は、大きな瞳を、いっそう大きく見開いた。

 

 異世界人を勇者として召喚している国がある…と聞いたことはあった。

 しかし、それは、ある意味、ありがちな噂話にすぎないと思っていた。現代の日本風に言えば、都市伝説のようなものである。


 

 まさか、そんなおとぎ話のような存在が、実在していたとは…。



 しかし…


 

 たしかに、『大波動の魔道士』は、ニンゲンとは思えないほどの、膨大な魔力の持ち主だろう。

 ならば、むしろ、『異世界人』と言われたほうが納得がゆく気もした。



 帝国の十傑のひとりが、『魔物王国』の居酒屋に就職するというのも、驚天動地の話ではあったが、いまは、その話を気にしている場合ではないだろう。



 マルティナ姫は、ポリーヌ姫の話にしきりにうなずきながらも、今度は、ニナ姫に、興味しんしんなようすでたずねた。

 ニナ姫とは、エルフ王国の『鍵の姫』のことだ。



 「ニナちゃんは、その国王陛下とお話をされたこともあるのでしょう?」



 三人の姫は、すでに『…ちゃんづけ』で話すほど、打ち解けていた。



 マルティナ姫が、せっかくだから『…ちゃんづけ』で呼び合いましょう…と、この場を仕切ったからである。

 せっかく、年の近い姫が集ったのである。『…様づけ』で話し合うのは、すこし寂しい気もすると言われて、ふたりの姫もすなおに同意した。

 


 「…う、うん」



 ニナ姫は、相変わらず、自信なげに答えた。


 スフレの帝都で、副ギルマスを務める姉のオレリアに、半ば命ぜられ、エルフ王国の代表として参加した。

 もちろん、一族の出世(がしら)でもある姉の言葉には、父王も逆らうことはない。

 


 たしかに、直接頼んだのは、ニナ姫たちだったが、実質を言えば、オレリアの美貌と人望で、『魔物王国』の援助を得ることができたには違いないのだ。

 オレリアだからこそ、スフレの賢帝は依頼を出し、オレリアだからこそ、ジュンは引き受けた。

 オレリアさまさまだった。



 ニナ姫は、最初は、どうなることかと不安でたまらなかったが、来てみれば、同じ年頃の女のコばかり。


 

 ただ、エルフ王国は、名ばかりの王国で、じっさいには、ショ島の森の奥にひっそりと隠れ住んでいる小さな民族にすぎない。

 それでも、獣人たちが脳筋ばかりなので、見るに見かねた父王が、まとめて獣人たちまで面倒をみることになっているだけだ。



 ソレに比べて、ヒレカツ帝国は、(けた)違いの大国であり、レバニラ王国に至っては、さらにそれを上回る大国だ。

 『…ちゃん付け』で呼び合おうとフレンドリーに言われても、心のどこかで萎縮いしゅくしている自分に気づかないわけにはいかなかった。



 「ほんとうに、うらやましいですわ!」


 「ええ、まったく!」



 ふたりの姫は、目をきらきらさせながら、ニナ姫に問いかけた。



 「それで、いったい、どのような殿方なのです?」


 「お年齢(とし)は?」



 そもそも、ふたりの姫は、ニナ姫のように、経験を積むというか、度胸どきょうを付けてこい…的な意図で、送り出されたわけではない。

 でなければ、文官から護衛まで、若い娘で構成されるはずはないのだ。


 むしろ、ニナ姫すら、父の意向で、エルフの若い娘に囲まれて、この場に参加している。

 その意図は、言うまでもないことだった。

 


 …であれば、ふたりの姫が、『魔物王国』の国王であるジュンに、興味しんしんなのも、無理からぬことであった。

 場合によっては、将来の伴侶はんりょともなりかねないのである。


 否。可能なかぎり、将来の伴侶と選ばれるように、大勢の若い娘という副賞を添えて、送り出されて来ていたわけであるから、興味以上の関心がないわけがなかった。



 「…ううん。別にふつうの、私たちと同じくらいの年頃の、男のコだったよ」



 ニナ姫は、正直に答えた。というか、正直にしか答えようがなかった。



 「背は、私たちより高いけど、そんなに大きなひとじゃないし…、見た感じも、どっちかっていうと、物静かでやさしい感じの男のコ…かな?」



 エルフのイケメンが、標準となっているニナ姫にしてみれば、ジュンは、さほど目をひく外見を持ち合わせてはいなかった。



 「…感じ取れる魔力も、そんなでもなかったし…」


 

 とても、『大波動の主』とか、そんな化け物とは思えなかった。



 「…ああ、…でも、なんでも、魔力を隠蔽いんぺいするような魔法と魔道具で、身を固めているらしいから、ほんとは、すごいのかもしれないよね?」



 自信なげに問いかけてくるニナ姫に、ふたりのゴージャスな姫は、ため息をもらした。



 ニナ姫とて、『魔物王国』の国王に目をつけてもらえるように、この場に送り込まれてきたはず。

 なのに、ここまで、テンションが低いとは…。


 

 それでも、『魔物王国』の国王は、まさしく、この、ニナ姫に懇願こんがんされて、『魔物艦隊』まで動かしたはず。

 

 そう思い直して、改めて彼女をしげしげと観察すれば、たしかに、エルフの皇女にふさわしい愛らしさと美しさがあった。

 いかにも自信なさげなようすは、やや物足りなくはあるけれど、殿方からすれば、それも、思わずかばってあげたくなる魅力と感じられるのかもしれない。



 大国の姫としての矜持きょうじを片時も忘れず、持ち前の美貌とともに、押し出しの強さをふんだんに発揮してきたマルティナ姫は、『魔物王国』の国王は、こういうニナ姫のようなタイプが好みなのかもしれない…と、ふと不安に思った。



 長男が王位を継承すると決まっている以上、彼女は、いつ、政略目的で、脂ぎった他国のおっさんに売られるか、知れたものではない。

 もちろん、レバニラ王国が大国である以上は、つまらぬ小国の王に嫁がされることはないだろう。



 運が良ければ、若くて、血筋も頭脳も優れた、イケメンの皇子や高位貴族の長男に嫁ぐこともあるかもしれない。



 それでも、『魔物王国』の国王が、文字どおりの世界最強の軍事力をもち、さらには、『大波動の主』であり、その上、物静かで優しげな同世代の男のコと聞けば、とてつもない優良な物件に見えてしかたなかった。



 

 


 

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