第622話 魔物艦隊出撃
うぃーーーーーーーーーん
うぃーーーーーーーーーん
うぃーーーーーーーーーん(以下省略)
衛星軌道を周回する『母船』内に、甲高い警告音が響いた。
警告音に続いて、艦橋のウサギさんからのアナウンスが聞こえてくる。
「『大エッグ』ロック解除します……ウサ」
がっしーーーーーーーん
がっしーーーーーーーん
がっしーーーーーーーん(以下省略)
直径10キロメートルを超え、全高も富士山を上回る『母船』には、四機の『大エッグ』がドッキングしている。
なんというか……
大きなハンバーガーの周囲に、ゆで卵が4つ。半分までつきささっているようなイメージだろうか。
ゆで卵…といっても、全高だけでも2キロメートルにもなるゆで卵である。
いくら『母船』が巨大だといっても、収納できるサイズではない。
ゆえに、『母船』と『大エッグ』は、物理的に接続され、固定されていた。
いま、そのロックが解除され、ゆで卵はハンバーガーから切り離されようとしていた。
「ロック解除完了……ウサ」
艦橋のウサギさんに続いて、艦橋中央塔の真白の声が聞こえてきた。
「千冬。いつでも出られるわよ」
「ありがとう。じゃあ、ちょっと行ってくるね。…ウサギさん、出してくれる」
『母船』の艦橋の大モニターには、ひらひらと手を振る千冬の姿が映し出されていた。
『帝国魔法学院』を早退してきたせいか。未だに制服姿である。
件の制服美少女の顔に、いくぶん苦笑が混じっているのは、魔物さんたちに懇願されての出撃だからであろうか。
なんだかんだと言って、真白たちも魔物さんたちからお願いされれば、無下にもできなかった。
そもそも、魔物さんたちは、基本的に人格者ばかりである。
だから、とうぜん、ワガママなど言ったりはしない。
そんな魔物さんたちの、たっての頼みとなれば、叶えてあげたいと思うのが人情だろう。
「『大エッグ_千冬号』発進します……ウサ」
『大エッグ』艦橋のウサギさんの声が、『母船』内に流れた。
『大エッグ_千冬号』が、ゆっくりと『母船』から離脱する。
現在位置は、すでに、グリコーゲン大陸上空である。
しだいに遠ざかってゆく『母船』を見送りながら、『大エッグ_千冬号』は降下しはじめた。
「……来たようですな」
ジュンの隣で釣り糸を垂れていたサイクロプスさんが、まぶしそうに空を見上げながらつぶやいた。
上空には、いつもの『旗艦』の姿があった。
真っ白い機体にブルーのラインが入った、クルーザーっぽい(宇宙)船である。
どうせなら、近くで見物しよう…ということで、釣りはきりあげて、旗艦に乗り込むことになったのだ。
ひゅん…
ひゅん…
ひゅん…(以下省略)
つい先程まで、釣り糸を垂れていた魔物さんたちが、次々と消えてゆく。
ハッチ経由で、旗艦の甲板に転移したのだ。
旗艦の横には、『新型空母ハッチノース』も数機、待機していた。
『空母』といっても、『母船』そっくりの船である。
『母船』ごっこをするために、ハッチたちがクマさんにおねだりして造ってもらった機体であった。
(……みんな楽しんでるなあ)
ジュンは、心でひとりごちた。
ちょっと不謹慎な感じもするが、魔物艦隊の介入は、むしろ戦争の抑止力となるだろう。
(まあ、結果オーライってとこかな…)
そんな心のつぶやきと共に、ジュンの姿も岩場から消えていた。
ヒレカツ帝国の西の砦が、黒目黒髪のふたりの剣士に落とされた。
レバニラ王国の万単位の戦力が、帝国へと迫っている。
たしかに、ヒレカツ帝国とレバニラ王国は、これまでも国境付近で小競り合いを繰り返してきた。
しかし、すでに砦が落とされた以上、今回は、レバニラ帝国内を戦場とした大規模な戦闘となる。
まさに、『戦争』と呼ぶにふさわしい状況であった。
いま、その戦場に、山と見紛う宇宙船が、ゆっくりと降臨しようとしていた。
「……そろそろね。艦隊用の転移ゲートを開いてちょうだい…」
『大エッグ』艦橋で、モニターごしに地表を見おろしていた千冬が、静かに言った。
「了解。転移ゲート展開します……ウサ」
『大エッグ』のタマゴ型の先端付近に、色とりどりの光の筋が浮かび上がる。
その光は、つぎつぎと先端に集まり、やがて、巨大な魔法陣を『大エッグ』の前方に描き出した。
直径2キロメートル超。
『大エッグ』の全高に等しい大きさの魔法陣である。
それが、『大エッグ』の前に、巨大な光の円盤としてそそり立っていた。
まもなく、その光の円盤から、巨大戦艦がゆっくりとその雄姿を現した。
『魔物艦隊』の出撃であった。




