第57話 事件が起きた
もうひとつも、短いので、まとめて投稿します。
やや遠くに、帝都の城壁が見えていた。
ドラゴンが着陸したのは、だだっ広い平原だった。
滑走路がなくても着陸できるのだ。たしかに便利な『旅客機』だった。
『魔物の森』が近いせいか。周囲に人影はない。
ドラゴンは、もちろんステルスモードのままだ。
誰にも気づかれずに、まんまと入国できたようだった。
帰りは転移すればいいだけなので、ドラゴンとはここでお別れだ。
「わたくし、なんとなく、このあたりに土地勘があるようなのです」
帰り際に、ドラゴンはそんなことを言い出した。
「せっかくですので、すこし見物してから帰宅しようとおもいます」
「また、何かご用がありましたら、遠慮なくお呼びください」
それだけ言うと、するすると、離陸していった。
姿は見えないけれど、強い風が巻き起こった。
強風が発生すれば、スカートの裾はめくれる決まりになっている。
セシリアは、とつぜんの強風に驚いて、両手でお尻の裾を押さえた。
長い銀色の髪がふわりと浮き上がった。
そして、それとともに、ミニワンピの裾も、おへそが見えるくらいまで浮き上がった。
お尻を両手で押さえていたので、前のほうがめくれるままになってしまったのだ。
『おおーーっ!』
オレの網膜に、淡いピンクの下着がありありと映し出され、そして、消えていった。
オレは、はじめて『旅客機』に感謝した。
帝都城壁までの坂道を、オレたちは、のんびりと上っていた。
ワンボックスカーを出そうかとも思ったが、いちおう、ひそかに入国したのだ。
「ここで目立つわけにもいきませんし、しかたがありませんね」
領主のアルベールさんが、残念そうに言った。
城壁に近づくにつれて、馬車や人の数が増えてきた。
何台もの馬車が、オレたちを追い越して行った。
さきほどこっそり着陸できたのは、ドラゴンがうまくタイミングを見計らったからだろう。
やればできるドラゴン…なのかもしれない。
こっそり入国することはできたけど、帝都には無事にはいれるのだろうか。
ちょっと心配だったが、杞憂に終わった。
長い列を作っていた大勢の人たちを尻目に、貴族専用門からあっさり入れたのだ。
オレとセシリアは、アルベールさんの弟子ということでOKだった。
セシリアは修道服を着ていれば、聖女と分かってもらえたはずだった。
もしかすると、オレのためにミニワンピースのままでいてくれたのかもしれないと思った。
たしかに、勝手にうぬぼれているのかも知れない。
しかし、オレにぴったりと寄り添って、かすかに頬を染めている彼女をみていると、確信が持てるような気がした。
「セシリア…」
オレは、あらためて、セシリアが愛しくなった。
そのときだった。
どっ、どどーーーーーーーーーーん!
ひゅーーーーーーーーーーーーんっ!
はげしい爆音が起こった。
オレは、いっしゅん、「花火かな?」と思った。
帝都なのだ、花火くらい上がってもおかしくないだろう。
しかし、そうではなかった。
「みんな、伏せろーーーーーーーーっ!」
「ほ、砲撃だーーーーーーーーーーっ!」
衛兵の、必死の叫び声が聞こえてきたのだ。
あちこちで悲鳴があがったかと思うと、城門のまわりにいた人々は、いっせいに身を伏せた。
アルベールさんもセシリアも、いつのまにか伏せていた。
「こ、このままでは…、セシリアが…」
オレは、セシリアを見下ろしながら、ちいさくうめいた。
そして、身を挺して、セシリアのワンピの裾付近をガードした。
オレは見てもいいが、他人が見るのは許せない。
どっ、どどーーーーーーーーーーん!
ひゅーーーーーーーーーーーーんっ!
ふたたび、爆発音と衝撃がおそってきた。
あちこちから、さらに悲鳴があがった。
耳をつんざくような爆発音と、激しい衝撃は、そのあとも何度か続いた。
「おかしい…」
オレは、セシリアの「パン○ラ」を衆目から守りながらも、首をかしげた。
たしかに、音は砲撃のようにも聞こえるが、いつまでたっても着弾したようすがないのだ。
「音と衝撃波しかないなんて…」
…………
「ま、まさか…」
オレは、血の気が引いたような気がした。
砲撃でもないのに、激しい音と衝撃派に襲われる現象といえば…
そして、この中世風の異世界で、その現象を引き起こすことが可能な存在がいるとすれば…
オレには、心当たりがありすぎる気がした。
「…そういえば」
オレは、ついさき離陸していった『旅客機』の言葉を思い出した。
『せっかくですので、すこし見物してから帰宅しようとおもいます』
犯人像が明確になった気がした。
その犯人の『オーナー』にも、いやというほど心当たりがある。
ペットが悪さをしたときには、飼い主の責任も追及されるだろう。
しかし…
『誰も気づかないんだから、セーフでいいんじゃないの』とも思った。
音と衝撃にはすさまじいものがあったが、何かを壊したわけではない。
それに、音も衝撃波も、すこしまえに収まっていた。
ここで、正直に自首すれば『旅客機』のことも打ち明けなければならない。
それはそれで、かえって、大騒ぎになって人びとを不安に陥れるかもしれない。
『ここは、帝都の民のためにも、しらばっくれるべきだろう』
オレは、そう結論した。
そして、ほっと、胸をなでおろした。
そのときだった。
「た、たいへんだっ!」
「か、街道が、魔物であふれてる!」
城門の外から、叫び声が聞こえてきた。
「…くっ」
オレは、ふたたび低くうめいた。
音と衝撃波が収まっていたのは、おそらく、場所をかえたからなのだろう。
魔物が森から逃げて出てきたということは、きっと『魔物の森』上空で遊んでいるに違いない。
魔物が、帝都前の街道にあふれているのだ。
オレは、首都高あたりで尻尾をふりまわしているゴ○ラを思い出した。
まあ、あんな大きな魔物はいないだろうけど…
どちらにせよ、これはもう、災害並みの緊急事態に違いない。
もう、しらばっくれて済む話ではなくなっていた。
「あの『クソ旅客機』がっ!」
さすがに、温厚なオレも、切れそうになった。
このお話も、すこし説明不足な感じがしたので、書き足しました。
もちろん、内容的には何も変わっていません。




