第44話 一番安全な街
すこし、わざとらしい?説明になってしまいました。
「な、なんという高さなのだ!」
ケント兄妹のお父さまが、盛大に驚いていた。
オレたちは、朝早くから、シフォン伯爵夫妻を連れて『第三城壁』前の原っぱに立っていた。もちろん、城壁の『外』である。
『第三城壁』は、日本でいうと10階建てくらいの高さになる。
王都の教会とかも、けっこう大きな建物だった気もするが、城壁としては異例の高さらしい。
ただ、オレは、魔法を使って、細かい作業ができない。
だから、城壁の外観はつんつるてんで、超巨大な缶詰のような感じだった。
いちおう称賛してくれているのだろうけど、じつは、ちょっと恥ずかしかった。
昨夜は、帰り際に、シフォン伯爵家にも『転移ゲート』を設置させてもらった。
「クレアのお部屋に、設置してもいいのよ」
クレアさんのお母さまからは、そんな魅力的な提案もあったが、家長であるお父さまが、断固として反対したので断念した。
さすが『派閥の領袖』だけあって、迫力があった。
怒ったお父さまは、ちょっとこわかった。
家族会議があるとのことなので、ケントさん兄妹を残して、ミルフィーユに戻った。
そして、今朝再び、ケントさん一家を迎えに行ったのである。
ただ、今度は、ケンイチさんとアンナさんが教会に行きたいと言うので、王都に置いてきた。
大司教のばあちゃんに、何か話があるらしかった。
『第三城壁』には、すでに、両開きの重厚な扉が取り付けられ、『門』の体裁が整えられていた。
一日で出来てしまうのが理解できないが、まあ、ファンタジーなのだろう。
「あとは、跳ね橋を設置すれば、完成かのう。まあ、城壁の内部や、屋上の工事はこれからじゃが…」
そんなふうに、ドワーフのレギンさんが、ガイドをしていた。
「…いかがですか?これで、『魔石』と『上級ポーション』を、これからも着実に提供できることを、納得してもらえましたか?」
歩きながら、アルベールさんが伯爵に尋ねた。
もちろん、城壁が頑丈なだけでは、『これで、魔石とポーションも大丈夫』という話にはならない。
城壁の『内側』がいくら安全であっても、城壁の『外側』に魔物があふれていれば、これまで同様、採掘にも採取にも行けないのだ。
しかし、こうして城壁の外で、のんびり城壁を見上げている時点で、魔物の脅威から解放されていることは、自ずと理解できるはず。
比較的安全に採掘も採取もできていた昔でさえ、城壁の外に出ているのに魔物の姿すら見えない…などということはなかったと聞いている。
「も、もちろんだよ。アルベール。わたしは、さいしょから疑ってなどいなかったろう」
じつは、ふたりは、いわゆる『幼なじみ』らしい。
おじさん同士なので、もちろん、ドキドキもワクワクもない。
でも、アルベールさんは、シフォン伯爵に『魔石』などを提供することを決めたときに、『幼なじみ』であることは噫にも出さなかった。
「まあ、よく言えば『公私混同しない』と言ったところかのう」
「いやいや…、ああいうのを『水くさい』って言うんだぜ」
なにしろ、『第一城壁』や『領主の館』を建設する際には、アルベールさんの実家である『ガトー伯爵家』とともに、シフォン伯爵もすくなからず助力してくれたらしい。
おそらくは、困ったときには助け合うほどの『友』なのだろう。
たしかに、『ひとこと言ってくれればよかったのに』…とは思った。
「実を言うとね。きのう、ケントたちが屋敷に戻ってきたとき、ミルフィーユが無事だったことに、気づいたのだよ」
シフォン伯爵たちにも、とうぜん、『王国軍撤退』の情報は届いていた。
ミルフィーユを維持するため…という名目で派遣された軍である。まさしく『寝耳に水』と驚いた。
しかし、軍が撤退し、ミルフィーユが危機的状況に陥ったからには、聖女さまやケンイチ殿と共に、息子たちがミルフィーユ辺境領に向かうのは分かりきっていた。
息子たちは、先代の勇者であるケンイチの従者として、ともに行動してきたのだ。これほどの大事に、同行しないはずはなかった。
「教会から『走る鉄の箱』が飛び出してきて、とんでもない速さで街道を走って行った、という噂も聞いていたわ」
『走る鉄の箱』は、魔道具だろう。
こんな魔道具を持っているのは、異世界から召喚された勇者くらいしか考えられない。
おそらくは、その『走る鉄の箱』で、息子たちもミルフィーユへと向かったに違いないと、シフォン夫妻は半ば確信した。
その息子たちが、三日とたたないうちに、何食わぬ顔をして戻ってきた。
「それも、見たこともないすてきな服を着てね」
お母さまが、いたずらっぽく言った。
日本の某有名私立女子校の白セーラーなのだ。
異世界の伯爵夫人が『見たこともない』のは、当然だろう。
スカートの裾がなかなか短いので、目のやり場が固定されてしまって少し困った?が、ほんとうにクレアさんには似合っていた。
まあ、素体がハイレベル美少女なので、何を着ても似合うとは思うけど…
お母さまは『すてきな服』と呼んでいたが、お父さまは気に食わなかったらしい。
今も、『貴族の娘にしては、はしたないんじゃないか…』とお母さまに訴えている。
正直いって、オレもお父さまに近い感想を持っている。
あの、ミニスカートから伸びたすらりと美しい脚も、ときおり、ちらりと恥ずかしげに顔を出すあの純白の下着も、ひと目にさらしてよいものではあるまい。
できることなら、見せるのはオレだけにしてほしい…と願っている。
恋人でもないのに、こんなことを願うのは不遜だが、オレは、とっても独占欲が強いのだ。
お父さまが、話しを続けていた。
「ただ、息子たちにいくら尋ねても、しらばくれるばかりでね。まあ…、これまで、きつく叱りつけてばかりきた、私のせいなのだろう。そこで、あとから心配して我が家に駆けつけてくれた、ケンイチ殿たちに、息子たちが出かけたあとも残ってもらって、ミルフィーユの復活を教えてもらってたのだよ」
そこまで話すと、シフォン伯爵は、『魔物の森』に目をやった。
「『ミルフィーユは、魔物の街になった』などと、うそぶいていた輩もいたが、まさかほんとうに、一匹たりと、魔物の姿が見えないとは…な」
開拓当時のミルフィーユも知っているので、いっそう感慨深いのだろう。
「一番危険な街が、いまは、一番安全な街に変わってしまったのね。ほんとうに、よかったわ…」
伯爵夫妻は、心からミルフィーユの復活を喜んでくれているようだった。




